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NIがワイヤレス分野に本格参入、ハンドヘルドの802.11ac測定器を開発

ナショナルインスツルメンツ(NI)社は、ワイヤレス通信で欠かせないRF信号を使った回路や半導体チップをテストするための簡便なツールを発表した。これは次世代の高速Wi-Fi規格である802.11acやLTEに対応する信号発生器と信号解析器をPXIモジュール内に搭載した、超小型のVST(ベクトル信号トランシーバ)である。

図1 ナショナルインスツルメンツ社が発表した802.11ac対応のVST

図1 ナショナルインスツルメンツ社が発表した802.11ac対応のVST


これまで、高周波(RF)信号を半導体チップや回路をテストするのに使う場合は、デスクトップサイズの信号発生器と信号解析器を用意しなければならなかった。しかも、802.11acは、5GHzのキャリア周波数で、500MHz/秒以上のデータレートを実現し、マルチユーザのMIMO(multiple input multiple output)にも対応するという規格である。高速・高周波信号を扱う装置は大型化せざるを得なかったが、これをNIは大きさ130.41mm高×18.42mm幅×171.91mm奥行という片手で持てる小型のPXIモジュールに収めた。

802.11acを開発している半導体チップメーカーにはクアルコムやブロードコム、メディアテック、マーベルなどがあり、このVSTをテストに使ったクアルコム(Qualcomm Atheros)社のダグ・ジョンソン氏(図2)は、「802.11acは、チャンネル数が100にもなり、変調数も38とこれまでの規格よりも数倍複雑になり、検査にも時間がかかるようになる。NIのVSTを使うと、(平均出力に対するIQコンスタレーションの誤差である)EVM(error vector magnitude)を高速にプロットできた」、と結果に満足している。


図2 クアルコムアセロス社のDoug Johnson氏

図2 クアルコムアセロス社のDoug Johnson氏


NIはこれまで、計測器のハードウエア機能を、一定の大きさのPXIモジュールに持たせ、LabVIEWという設計・テスト総合環境ソフトウエアを使い、パソコンを測定器に「変身」させてしまう仮想測定器(virtual instrumentation)を開発してきた。これまでは直流からアナログ・デジタル回路の測定を主な対象としてきた。

しかしテクノロジーは今、ワイヤレスの時代に入っている。いつでもどこでもワイヤレスだ。クルマのタイヤ空気圧を測定・モニターしながら異常があれば無線でドライバーに知らせるというTPMSシステムや、人体の健康状態を常時測定しておき、そのデータを無線で送るというヘルスケアシステム応用もある。

ワイヤレス時代には規格も一緒に進化するため、それらを共存、あるいは標準化する必要がある。無線LAN規格も初期の802.11a/b/gから802.11n、802.11ac、802.11adへと進化している。それも、100チャンネル以上をカバーする、フィルタのバンド幅が4種類も備えるようになるなど、より複雑になってくる。さらに、スマートフォンや携帯電話などには3GやLTEの通信ネットワーク以外にもBluetoothやGPS、NFCなどの無線規格が搭載されている。

NIは、こういったRF(ワイヤレス技術)時代に対応するため、これまでのアナログ、デジタル回路のサポートに加え、RF回路までもLabVIEWでサポートするようになった。

今回のVSTはそれだけではない。RF信号の解析に必要なアルゴリズムや解析手法をデジタル処理するFPGAまでもユーザが変えられるような回路構成にした。


図3 マルチパスをテストするアルゴリズムをユーザが組み込める 出典:National Instruments

図3 マルチパスをテストするアルゴリズムをユーザが組み込める
出典:National Instruments


例えば、携帯電話の基地局から携帯電話までの電波は、ビル間で反射したり、フェーディングを起こしたり、マルチパスによって信号の品質が低下することがある。こういったマルチパスをシミュレーションするアルゴリズムをFPGAでエミュレートすることが可能だ。802.11acは1×1から最大8×8までのMIMOにも対応しなければならないため、それをハードワイヤードの計測器で実現するとなるとさらにコストがかさんでしまうが、FPGAで行えばコストはさほど気にならない。

今回、NIは、FPGAによる設定できる機能をSoftware Designed Instrumentationと呼んでいる。ベースバンドの変復調方式をソフトウエアで変えるソフトウエア無線(Software defined radio)はこの概念の一部になる。

(2012/08/09)

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