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半導体pnダイオードのショット雑音は熱雑音より常に3dB低いことを新発見

半導体のショット雑音が熱雑音と比べて、ほぼ3dB小さいことを、Analog Devices社のCTOオフィスのシミュレーション開発ディレクタのMike Engelhardt氏が見つけた。このことを同氏は東京・品川で開かれた「LTspiceユーザーの集い2018」で明らかにした。

図1 Analog Devices社CTO Office, Director of Simulation DevelopmentのMike Engelhardt氏

図1 Analog Devices社CTO Office, Director of Simulation DevelopmentのMike Engelhardt氏


半導体のpn接合に順方向電流を流すときに2種類の雑音を発生する。抵抗成分である熱雑音(ジョンソン雑音)と電流に起因するショット雑音である。前者は、絶対温度に比例する。抵抗そのものは半導体結晶の格子振動に直結しており、室温では格子振動によって妨げられ抵抗値を生む。後者は、電流を荷電粒子が運んでいるという事実による、とEngelhardt氏は述べる。つまり、電流を構成する電荷キャリアが真空中や接合を横切るような場合には数えられるため、ショット雑音となる。

半導体の動作では、熱雑音とショット雑音と過剰雑音が問題になる。過剰雑音(Excess noise)はその他の1/f雑音などを意味する。SPICE方程式では、真空中に起きる雑音やなだれ降伏で起きる雑音は無視する。そうすると、半導体の動作中に問題となる雑音は、熱雑音とショット雑音だけと考えてよい。

Engelhardt氏が熱雑音Vjohnとショット雑音Vshotについて、雑音電圧密度を第一原理計算に基づいて計算すると、

Vshot
-------- = sqrt(n/2-R・q・Is/(2kT))
Vjohn

という式で表せることがわかった。そこで、27°C、n=1、Is=Ip、R=1kΩ、という数字を入れてみると、

Vshot
-------- = 0.707、すなわち3dB
Vjohn

同氏は、従来の多くのSPICEプログラムは第一原理計算が間違っていたことに気がついた。ほとんどのSPICEがpn接合を横切るショット雑音を無視していた。ショット雑音は電流がゼロなのでショット雑音は存在しない。このため、電流がゼロの時には熱雑音が支配的になるはずなのに、熱雑音に切り替えてこなかった。図2で見るように、従来のSPICEだと不連続点が現れた。これに対して、LTspiceはショット雑音を考慮して、図2の緑の曲線のようにスムーズが曲線を描く。


Shot Noise: LTspice vs Berkeley SPICE

図2 従来のSPICEモデルは電流ゼロで不連続になるが、LTspiceは連続的に変化する 出典:Analog Devices


Engelhardt氏は、「回路シミュレータはやはり回路の現場で作るものが最高で、ソフトウエア会社が作ってもそこまでの特性は得られない」と語り、「LTspiceはアナログ回路の専門集団であるAnalog Devicesだからこそ、最高のモノができた」と述べている。例えば、最高のMOSFETのソルバーだとIntel社、レーダー機器の反射ソルバーは防衛研究所、電荷光学シミュレータならSEMメーカーがそれぞれ最高のシミュレータを設計しているという。「最高のシミュレータを作れるのはそれを使う会社だ」という持論を崩さない。

(2018/12/06)

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