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デンソーとImaginationの提携はリアルタイム動作のADAS目指す

半導体IPベンダーのImagination TechnologiesとデンソーがMIPSコアを使ったマルチスレッド技術で共同研究を始める(図1)。これはCPUコア1個あたりで処理するスレッドを複数立てることで、面積当たりの並列処理性能効率を上げようというもの。CPUコアをさらに複数利用するマルチコアにも展開できる。

図1 Imagination Technologies社CEOのAndrew Health氏とデンソーの東京支社電子基板先行開発室 担当次長の杉本英樹氏 英国大使館にて

図1 Imagination Technologies社CEOのAndrew Health氏とデンソーの東京支社電子基板先行開発室 担当次長の杉本英樹氏 英国大使館にて


クルマのOEMメーカーは低コストでコンピュータ性能を上げることに腐心している。デンソーのようなティア1メーカーも同様。デンソーが設計してきたマイコンは、常にコード効率を上げること(できるだけ少ないプログラム行数、すなわちメモリ容量でコーディングすること)にフォーカスしている。マルチコアのコンピュータでは通常、一つのCPUコアに一つのスレッドを立てていた。

ところが、1個のCPUの演算機能を担う「ALU(算術演算ユニット)の使用効率は30%程度」(イマジネーションテクノロジーズジャパン代表取締役社長の松江繁樹氏)しかないため、有効利用すれば1個のALUを3〜4個の命令でパイプライン式に処理できるようになる。この命令の振り分けはスーパーバイザあるいはハイパーバイザで行う。一つのCPUコアでマルチスレッドを利用すると、マルチコア化と同じ効果が得られる。CPUコア数をもっと増やしたければマルチコアのマルチスレッドにすればよい。要は限られた面積でマルチコアと同様の並列処理できるという訳だ。

マイコン開発の場合でも、従来はC言語でプログラムした後コンパイルして機械語に変換する訳だが、マルチスレッドだとCPUコア1個でも複数のC言語プログラミングでCPUに同時に書きこむことができる。

クルマでの並列処理コンピューティングは自動認識(クルマや人、自転車等を見分ける)をはじめとしてかなり重い計算を、消費電力を増やさずに実行することが多い。それだけではない。例えば、従来のシングルコアのシングルスレッドでは割込み命令が来た時には必ずどちらかの処理を優先させていたが、シングルコアのマルチスレッドだと割り込みが入っても同時に複数の処理ができるようになる。つまり遅延を減らすことができる。

デンソーがImaginationと共同開発するテーマは、特にECU間の配線接続をもっと効率よくマルチスレッディングするためと述べている。つまり、ECU1からECU2へとデータが送られる時に受け取るECU2側がデータを割り込みする間、ECU1は割込み命令の処理が終わるまで、それまで行ってきた処理を待っていなければならない。もし、ECUからECUへデータを転送しても「待ち時間(レイテンシ)」がなくなればリアルタイム動作が常に可能になる。これからのクルマでの処理時間にはリアルタイム性が求められる。

デンソーとの共同開発ニュースと同時にImaginationは、新しいCPUコアMIPS I6500のライセンスを開始すると発表した。この64ビットコアは拡張性を持たせており、クラスタと呼ぶ基本単位に6個のCPUコアを集積し、1コア当たり最大4スレッドを実行可能にしている。基本クラスタを最大64個までサポートする。一つのクラスタとImaginationが持つGPU、PowerVRコアを集積する場合(図2)は、ArterisのNoC(参考資料1)など、メモリコヒーレントなバスで接続する。


図2 拡張性のあるMIPS I6500コアをGPUとACEコヒーレントバスを介して接続することで、クルマ用のリアルタイム処理が期待できる 出典:Imagination Technologies

図2 拡張性のあるMIPS I6500コアをGPUとACEコヒーレントバスを介して接続することで、クルマ用のリアルタイム処理が期待できる 出典:Imagination Technologies


このCPUコアの特長は、いくつかある。SMT(同時マルチスレッディング)が可能でデュアル命令発行のパイプライン方式を内蔵する。図2で示すACEコヒーレントバスを利用することでメモリコヒーレンシは確保されている。加えて、マルチコアを利用することで、ハードウエア仮想化技術もサポートする。SMTと関連してコンテキストスイッチのオーバーヘッドはゼロサイクルを保証する。さらに仮想化によってOmniShieldセキュリティ(参考資料2)も利用できる。

デンソーがImaginationとの共同開発を発表する前に、カメラを使う衝突防止システムの第1人者であるMobilEyeがMIPS I6500アーキテクチャを選択したというニュースも流れた(参考資料3)。MobilEyeは、次世代のSoCであるEyeQ 5にI6500マルチコアを集積する。このEyeQ 5は8倍の性能を持つと期待されている。


参考資料
1. 配線用IP、セキュリティ用IPも重要な要素に (2015/11/12)
2. SoCチップを攻撃から守る新セキュリティ技術をImaginationが公開 (2015/09/11)
3. MobilEye Chooses Imagination’s MIPS I6500 architecture, TechTime, (2016/10/25)

(2016/11/29)

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