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商用化のインフラが整ったフレキシブルエレクトロニクス

プラスチックエレクトロニクスが、ウェアラブル端末や、曲げられるフレキシブル応用の出現により、商用化へと大きく舵を切った。有機トランジスタに代わり、従来のSi CMOS LSIをフレキシブルなプリント配線基板に実装し、必要な機能を実現する。フレキシブルハイブリッドエレクトロニクス(FHE)が商用化のためのキーテクノロジとなった。

図1 FHE Allianceの会長、Michael Ciesinski氏

図1 FHE Allianceの会長、Michael Ciesinski氏


このほど、来日したFHE Allianceの会長、Michael Ciesinski氏(図1)は、FHE技術の未来を語った。FHE Allianceは2015年10月にSEMIの一部になった。同氏は、本格的な商用化に必要な製造装置、材料などのサプライチェーンがしっかりした組織に加わることでフレキシブルエレクトロニクスの実用化を早めると考え、SEMIの傘下に入った。SEMI側としても飽和気味のムーアの法則を超える新しい分野の応用技術を探していた。SEMIの一部になることで、ウィン-ウィンの関係が成り立っている。

フレキシブルエレクトロニクスは、有機材料基板の上にシリコンと同様、配線や受動部品、トランジスタまで集積しシリコンではできない、大面積に渡る回路を形成する技術として研究が始まり10年以上経つ。しかし、いまだに研究段階にとどまったままだ。それで、完全有機のフレキシブルエレクトロニクスは、聖杯(Holy Grail)だという考えが2年ほど前から言われ始めた(参考資料1)。聖杯とはキリスト教に由来する言葉で、いくら努力しても目標が遠すぎて到達することが難しすぎる、というたとえに使われる英語である。聖杯だと商用化は難しい。有機トランジスタの移動度はいまだにわずか、数cm2/Vsしかできない。

ならば、能動的な電子回路部分はSi CMOS回路で実現し、配線やアンテナなどのパッシブ部品や、有機ELディスプレイ等は有機フィルムで実現しよう(図2)、という考えが出てくる。FHEの神髄はここにある。こういった考えは2年ほど前から生まれてきた。技術的にSiウェーハは、薄く削ることが今や普通におこなわれている。ダイシングの時間を短縮する上に、熱抵抗が下がり放熱対策にもなるからだ。ウェーハプロセスで800µm程度の厚さのウェーハをプロセスが完了したら100µm程度に薄く削ることはもはや日常茶飯事になっている。100µm程度まで薄くなると、Siでさえもフレキシブル部品だ。Ciesinski氏によると、ポリマーバッテリのセラミック基板さえも薄くできるという。


図2 フレキシブル基板上に演算やロジック、アナログなどの回路をSiが担い、配線やディスプレイ、タッチセンサなどは有機材料で行えば商用化は近い 出典:Flexible Hybrid Electronics Alliance

図2 フレキシブル基板上に演算やロジック、アナログなどの回路をSiが担い、配線やディスプレイ、タッチセンサなどは有機材料で行えば商用化は近い 出典:Flexible Hybrid Electronics Alliance


Si CMOS回路でフレキシブルエレクトロニクス回路を実現することはさほど難しくはない。このFHEは、SiのCMOS LSIに新しい機会を与えると同時に、プリンテッドエレクトロニクスからは、商用化に近づくことができる。SEMIとFHE Allianceの合併は自然の成り行きと言ってもよい。

プラスチックエレクトロニクスの代表製品は有機ELディスプレイであり、薄いプラスチックフィルムだからこそ、曲げられるディスプレイを製造できる。幸い、Appleが有機ELディスプレイを将来のiPhone(おそらくiPhone 8だろう)に使うと言われて以来、有機ELディスプレイへの投資が活発に動いている。

図2におけるさまざまな部品をフレキシブル回路基板に搭載できるが、有機ポリマーソーラーセルや薄膜バッテリでさえも試作が始まっている。例えば、ZnベースのZnポリマー材料を使った2次電池を開発している米Imprint Energy社(参考資料2)や、蒸着法による薄膜全固体リチウムイオン電池を開発している英Ilika社(参考資料3)などが薄膜バッテリ技術のベンチャーとして登場している。近日中にIlika社の全固体リチウムイオン電池についてはレポートする予定である。

フレキシブルエレクトロニクスの基板となるプラスチックフィルムは有機材料ゆえに水を通しやすい。いわゆる耐湿性に問題があるため、実用化には固いバリア層を必要とする。このバリア層は一般にSiOやSiNなどで形成されるが、その形成をロールツーロールの量産ラインの一部に入れられるCVD/PVD装置も完成している(参考資料4)。

フレキシブルエレクトロニクス商用化のためのインフラは揃ってきた。これまでの市場予測は全て絵に描いた餅にすぎなかったが、そろそろ現実的な「餅の絵」を描ける時代になりつつある。この動きを逃してはならない。市場調査会社のIDTechExによると、フレキシブルエレクトロニクスの代表製品の一つ有機EL市場は、2016年の265億4000万ドルから2026年には690億3000万ドルに成長すると予測しているが、あながち非現実的とはいえなくなっている。

参考資料
1. 既存技術で、プリンテッドエレクトロニクスを実現。新しいエクスペリエンスをつくる (2015/04/30)
2. Imprint Energy社ホームページ
3. 新材料を短時間で開発できるコンビナトリアル手法で大きな前進 (2015/07/01)
4. OLED/ウェアラブル市場に向けたフレキ基板のバリア層形成装置 (2016/04/12)

(2016/04/22)

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