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熱設計者に福音、加工しやすい放熱フィルムが相次いで入手可能に

ハイパワーLEDやパワートランジスタなどパワーデバイスの放熱設計を楽にしてくれるフィルム材料が相次いで登場した。化学品メーカーのADEKA(旧旭電化工業)とパナソニックが全く異なるアプローチから新しい放熱フィルムを開発した。

図1 ADEKAの透明なフィルム状の熱伝導率の高い絶縁材料 JPCAショーで展示

図1 ADEKAの透明なフィルム状の熱伝導率の高い絶縁材料 JPCAショーで展示


一般に金属は熱を通しやすく、絶縁体は熱を通しにくい。すなわち放熱しにくい。こういった常識に反する材料は、セラミックとしてこれまではあった。例えばAlNやAl2O3などである。AlNの熱伝導率は200 W/mK程度と高い。しかし価格も極めて高く、普及していない。また、熱伝導率が高めの液晶ポリマーで絶縁フィルムを開発する試みが4年前にあった(参考資料1)。低価格にできる可能性はあったものの、熱伝導率は1W/mK未満に留まっていた。

今回のADEKAの熱伝導性フィルムは、電気抵抗が200℃の高温で10の10乗Ωmと高い絶縁体であるのにもかかわらず、熱伝導率は5〜15 W/mKと比較的高い。製品として、5 W/mKのBUR-5590と、10 W/mKで製品化したばかりのBUR-6200がある。さらに、15 W/mKの製品を開発中である。

フィルムの厚さは、BUR-5590が75µm/110µmの2種類、BUR-6200は110µmであるが、絶縁破壊電圧は100µm厚で5kVもあるため、IGBTやCool MOSなど使えるパワートランジスタが多い。ADEKAによると、LEDの放熱に使っている例があるという。液晶ディスプレイのバックライト用に使われているようだ。バックライト用途では発熱を嫌い1W程度の消費電力で使っていたが、これを5Wにして輝度を上げれば、光の拡散版と共にLEDの数を減らすことができ、低コスト化できる。また、液晶ディスプレイの場合にはセラミックは加工性が悪く、重いという欠点もある。また、BUR-5590は、UVレーザーの放熱としても使われているという。

照明用のLEDでは、多数のLEDチップを並べて使う。一般に数個直列に接続したストリングを並列に数列並べて光らせることが多いため、電源電圧に直結するアノードに対して、カソードはドライバICの出力端子とつながり、接地されないことがある。通常、カソード(n側)はGaN基板側になる。このためカソード側でさえ、何らかの絶縁が求められる。放熱は必須であるから、熱伝導が高く、かつ電気伝導が低い絶縁性が求められるのである。パワートランジスタも同様で、IGBTやMOSFETなどのドレイン側が基板端子につながっている。例えばnチャンネルFETだとドレインには正の電源電圧を印加する。基板側の方が放熱効果は高いが、絶縁性も要求されることが多いため、電気伝導度が低く、熱伝導率の高い材料が必要となる。絶縁性のグリースを塗りフィルムやセラミックを使うことが多い。


図2 放熱フィルムの上にチップを載せる 出典:ADEKA

図2 放熱フィルムの上にチップを載せる 出典:ADEKA


ADEKA製品はPETなどの基板フィルムの上に形成した形になっており、放熱効果をさらに高めるため、Al/Cu板の上にこの絶縁シートを載せ、基板のPETフィルムをはがした後にCuの配線パターンなどを形成して使う。例えば図2のようにCu上に半導体チップを載せ、Al/Cu板の下にもこのフィルムを通して、放熱フィンを設ける。放熱板(フィン)は電気的に絶縁されているため、使いやすい。

このフィルムの価格もアルミナの1/5程度の価格で供給できるとしている。ただし、アルミナは中国製が出回り価格低下を引き起こしているが、まだ対抗できると見ている。しかも信頼性と品質の点では、中国製セラミックよりも勝っていると自信を見せる。

パワーデバイスでは、動作時は発熱する一方、オフ時は室温以下に冷やされる。このため温度サイクル加速試験はマストだ。-55℃〜125℃の温度サイクル試験では3,000サイクルをクリヤしているという。実はポリマー樹脂のフィルムに添加したフィラーはCuの熱膨張係数に近い材料を入れたという。これによってクラックの発生を防いでいる。

10 W/mKの製品や開発中の15 W/mKクラスの製品はクルマのヘッドライドや、フロントガラスをディスプレイとして使うHUD(ヘッドアップディスプレイ)の光源の放熱用に検討が始まっているという。

断熱/放熱フィルム2枚で熱を逃がす
一方、パナソニックのパワーデバイスの放熱アプローチは、熱伝導性は良いが、少し電流が流れるフィルム状のグラファイトと、断熱シートを使う。フィルム状のグラファイトPGS(Pyrolytic Graphite Sheet)は、熱伝導率がCuやAlなどの金属よりも高く、むしろダイヤモンドに近い。ダイヤモンドの熱伝導率2000 W/mKに対して、厚さ10µmのPGSは1900W/mK近くある。大雑把に言ってCuの2〜4倍の熱伝導率だ。ダイヤモンドの弱点は言うまでもなく価格。

このグラファイトPGSは、2次元カーボンのグラフェンを層状に重ねた構造をしており、平面上に沿って熱を伝えやすい。しかも折り曲げに強い。こればグラフェン層間にある物質を挟み込んだためだとしている。PGSは2500℃〜3000℃という高温の電気炉でポリイミドを溶かし反応させて作るという。

パナソニックはもう一つ、熱を伝えにくい断熱フィルムNASBIS(Nano Silica Balloon Insulator)も開発した。このフィルムは厚さ100µmで0.02 W/mKと熱を逃がしにくい。非常に小さなエアロゲル粒子の中に空気を閉じ込めたような構造で断熱効果を得ている。発砲スチロールのような空気を含むゲル状の物質がこのシートのカギを握る。この物質(図3)を有機溶剤などに溶かし不織布などに浸み込ませることでシート状に加工して使う。


図3 瓶に入れたパナソニックの断熱物質NASBIS

図3 瓶に入れたパナソニックの断熱物質NASBIS


例えばスマートフォンなどでは、RFパワー半導体やアプリケーションプロセッサなど発熱する半導体の温度が上がると、液晶ディスプレイ画面上に色むらが発生するという。そのような場合、ICチップとディスプレイの間に断熱フィルムをはさみ、さらにグラファイトフィルムPGSで面に沿って熱を逃がす、という用途を想定している(図4)。ICチップのピーク温度を下げられるため、色むらを抑えられるとしている。


図4 断熱/放熱フィルムでスマホの局所熱を平面状に逃がす 出典:パナソニック

図4 断熱/放熱フィルムでスマホの局所熱を平面状に逃がす 出典:パナソニック


断熱フィルムNASBISは、疎水性のフィルムであり、水をはじくため、プラスチックフィルムを使うプリンテッドエレクトロニクスに使える可能性がある。プラスチック上に電子回路を形成する研究は10年以上も前からなされてきたが、耐水性の問題が解決せず、製品寿命の短いスマホなどに有機ELフィルムが使われてきただけに留まる。

一般に、フィルムのメリットは加工性が優れていることだ。セラミックのような硬い板だと、加工しにくい。しかも大きさが決まっていて自由な大きさに変えられない。不織布やフィルム状だと、小さく切ることも簡単である上に、ロール-ツー-ロール方式のような量産工場での大面積も可能だという。パナソニックは、この不織布フォルムを不織布メーカーと共同で、この物質を浸み込ませ、開発した。このため、セットメーカーや放熱を必要とするメーカーには物質を販売するのではなく、フィルム上に加工した形で提供するとしている。

参考資料
1. 高い熱伝導性をもつ新しい絶縁材料、エポキシ樹脂とフィラーの開発進む (2011/08/17)

(2015/06/12)

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