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ローム、SiCトレンチMOSFETで250℃動作、モータへの内蔵ボードを実現

半導体デバイスの電気的特性を測る測定器は、その半導体の持つ特性よりもより高速、より高周波、より低ノイズ、より大電流、より高電圧、といった性能が要求される。大電力のパワーデバイスの測定器も同様だ。計測器メーカー大手の米テクトロニクス社が主催したセミナーでSiC MOSFETパワーデバイスの現状をロームが明らかにした。

SiC パワーMOSFETは、昨年製品化が始まったものの、まだ量産という規模ではない。先頭を走るロームでさえ、シリコンのプロセス工場に間借りする形で3インチ、4インチのラインを作っており、少量生産という段階だという。

SiCのショットキバリヤダイオードはドイツのインフィニオン社(Infineon Technologies)が10年前から生産を始めているが、ショットキダイオードは半導体と金属との接合を利用し、形成する過程で界面は合金になる。表面に結晶欠陥があっても合金処理によりつぶされるため、事業化は早かった。しかしMOSFETは電流がSiC結晶と酸化膜との界面を通るため、表面欠陥の影響をまともに受ける。このため電子の通りやすさを表す移動度はシリコンの数分の一と小さい。

SiCの魅力は何と言ってもエネルギーバンドギャップがシリコンの1.1eVに比べ3.0eVもあるため、破壊電界がシリコンの10倍と高い点だ。しかも動作温度が高く、熱に強い。破壊電界がもともと高いと、耐圧を高くするための高抵抗(不純物の少ない)半導体層を薄くすることができる。シリコンだと耐圧を高めるために高抵抗層を厚くせざるを得ず、オン抵抗が高くなってしまう。SiCは薄くて済むため耐圧を高めながらオン抵抗を減らすことができる。このため600V耐圧で数十Aのトランジスタやダイオードを作ることは容易という訳だ。

SiCの泣き所は結晶欠陥がシリコンと比べると極めて大きい点だ。シリコンでは1000Aクラスのサイリスタやダイオードは実用化されているが、SiCは100A以上を作るのが難しい。例えばショットキダイオードでは20Aクラスが製品であり、75Aクラスはまだ研究開発段階である。大電流をとるためには、大面積にする必要があるが、動作面積が大きいと結晶欠陥にぶつかる確率が大きくなってしまう。この結果、「大面積のデバイスはまだコスト・パフォーマンスが合わない、」とロームの研究開発本部新材料デバイス研究開発センター長の中村孝氏は述べている。

SiC MOSFETを開発してきたロームはSiCの結晶欠陥の多さに気が付き、結晶作製工程から欠陥が入らない形成技術を開発しようとの思いから、ドイツのSiCメーカーであるSiCrystal社を買収した。これによって結晶からプロセス、デバイス生産、さらにモジュール製造まで一貫した生産体制が整った。

昨年生産を始めたMOSFETは耐圧600Vで電流容量が5Aと10Aの製品。これ以上の大型・大面積化はまだ製品化できていない。MOSFETでは、酸化膜-半導体界面を流れる電流に大きな影響を及ぼす酸化膜の構造と界面に発生する欠陥が問題だとする。酸化膜はSiO2が形成できると理想的だが、このためにはCがCO2となって放出されることが前提である。もしCが酸化膜内に残っていると酸化膜の品質が低下する。加えて、ドレイン・ソース領域形成のためにイオン注入した不純物を活性化するためのアニールは1800℃と極めて高い。このためSiが蒸発してなくなり欠陥が発生してしまうことがある。こういったプロセス上の問題が残っているため、歩留まりはまだそれほど良くはないようだ。

とはいえ、SiC MOSFETの特性は魅力的だ。生産しているプレーナ構造では、シリコンのMOSFETやIGBTと比べてオン抵抗は1/3と性能はよい。開発中のトレンチ型のMOSFETは1/10とさらに小さく、もっと大電流を流すことができる。開発者の中村氏は、「シリコンと比べ2〜3倍性能が良くても顧客は買ってくれない。10倍すなわち1桁良くなければ難しい」という。シリコンデバイスの性能は毎年進化しているからだとする。


図1 250℃動作に成功 出典:ローム

図1 250℃動作に成功 出典:ローム


SiCのトレンチ構造はもともと京都大学の松波教授が提案したものだが(参考資料1)、ロームは松波研究室に研究員を送り90年代後半からSiCの研究を進めてきた。京都を舞台にした産学連携の成功例といえる研究テーマとなった。ただ、SiCは内部電界が高いため、トレンチ構造の角の部分で電界集中を起こしやすい。これを緩和するため不純物層の最適化設計にロームは取り組んできた。2007年にオン抵抗2.9 mΩcm2、耐圧900Vを試作、2010年には同2.8 mΩ cm2で1250Vを実現している。量産中のプレーナ型では7.0 mΩcm2で1000Vだが、1.95 mΩcm2で1290Vのトレンチ品を最近、開発している。


図2 200kHz動作で1/10の大きさに 出典:ローム

図2 200kHz動作で1/10の大きさに 出典:ローム


ロームは開発したSiCパワーモジュールの実使用での評価も実施している。高温に強いセラミック基板上に実装し、周囲温度225℃でTj=250℃の高温動作も確認している(図1)。さらに10kWのDC-DCコンバータに適用した例(図2)ではSiのIGBTでは10kHzのスイッチング周波数でしか動かせなかったが、SiC MOSFETでは200kHzで動作させることに成功した。この結果、リアクトルコイルを1/10以下に小型化でき、リアクトル(コイル)容器の重量は21kgから720gへと1/30に軽量化した。

SiC MOSFETを組み込んだインバータモジュール自身のサイズも小型になった。600V/300Aのインバータモジュールの大きさは、2cm×3cm程度でSi IGBTの1/10の体積になったとしている。


図3 モータに内蔵可能に 出典:ロームおよび安川電機

図3 モータに内蔵可能に 出典:ロームおよび安川電機


実際のインバータはモータ制御するために使う訳だが、インバータなどの電力制御装置とモータとの距離が長いと大電流のためノイズを拾いやすくなる。そこで高温に耐えられるSiC MOSFETモジュールをモータ内部に組み込み、配線そのものを短くカットしたモータを安川電機と共同で開発している(図3)。最新型のSiCトレンチMOSとショットキダイオードを組み込んだSiCモジュール(14cm×16cm×1.9cm)の制御ボード(600V/1000A)をモータに内蔵している。

参考資料
1. 低炭素社会支えるシリコンカーバイド、デバイス実用化への道を切り開く、産学官連携ジャーナル、vol.6, no.12,2010

(2011/09/13)

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