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ミリ波レーダーがプライバシー遵守、防犯など人流・人感センサに(1)

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77GHzのミリ波レーダーは自動車向けに前方検出に使われ始めているが、レーダーがいよいよ本格的に立ちあがりそうだ。77GHz帯では帯域4GHz、60GHz帯は7GHzと広い帯域を持つことが日本で認められ、半導体各社が人感センサや人流センサなど非接触のセンサとして製品を相次いで出してきた。先行するInfineonに続き、Texas Instruments、Analog Devicesが続々リリース。ミリ波レーダーセンサ動向を3回に分けて紹介していく。

図1 60GHzレーダーを使った人感および人流センサ アンテナをパッケージの上に設けたAoP(Antenna on Package)パッケージを用いている 出典:Infineon Technologies

図1 60GHzレーダーを使った人感および人流センサ アンテナをパッケージの上に設けたAoP(Antenna on Package)パッケージを用いている 出典:Infineon Technologies


ミリ波レーダーは自動車向けでは79Hzレーダーも使われようとしているが、77GHzと60GHzで広帯域にすると、単なる点から線あるいは面への情報となり、鮮明ではないイメージング情報に近づく。カメラだと丸見えになるためプライバシーが問題になるが、ミリ波レーダーでは何かが動いている程度にしか見えないため、その心配はない。このため、プライバシーを担保できる新しいワイヤレスのセンサとなる。

Infineonは10年以上前からGaAs、そしてSiGeという半導体で自動車向けレーダーセンサを開発してきたが、結局安価なシリコンCMOS技術で77GHzセンサを開発できるようになり、レーザーが普及し始めた。自動車では霧や吹雪のように視界が悪い状況ではカメラが使えないことから、ミリ波を使ったレーダー技術が使われてきた。一般に電磁波の周波数が高くなればなるほど、指向性が強くなると共に到達距離は短くなる。ただ、出力を上げれば到達距離を伸ばすことはできるが、強い指向性は変わらないためクルマの前方検出には適していた。

レーダーセンサは電波を発射して、何か物体があれば電波が反射され戻ってくる時間から距離を測定する検出器だ。ToF(Time of Flight)と呼ばれるこの方法は古くは戦闘機や軍艦が敵機の位置を検出するために使われた技術だが、今は自動車の安全を保障する技術に替わった。対象物が動いていてもドップラー効果で周波数が変わるため、それも計算に入れて距離を求める。

広帯域となれば、チャープ信号(周波数を掃引して帯域の下限から上限まで変えられる信号)で距離データを大量に取ることができるため、点データから線または面のデータを作成できる。電波は各国が管理する(テロなどによる放送局の乗っ取りを防ぐ目的)ため、日本では総務省の許可が必要だが、最近60GHzで最大7GHzという帯域を使えるように認められた。これによりセンサとしての応用を広げることが可能になる。


世界最小60GHz電波センサー、オールインワンソリューション / Infineon Technologies、新日本無線

図2 60GHzレーダーセンサのモジュール ソフトウエアも搭載している 出典:Infineon Technologies、新日本無線


Infineonは、人そのものや人の動き検出と人流検出にレーダーをソリューション(図2)で提供するため新日本無線(NJR)とパートナーシップを組んだ。InfineonはAoP(Antenna on Package)を含めたチップ開発を行い、NJRがモジュールに組み込む。NJRは船舶などの高出力レーダーや衛星通信などマイクロ波技術が得意な無線製品と半導体のメーカー。今回のミリ波チップと人感・人流のアプリはInfineon、モジュールの販売はNJRが開発したが、今後、モジュールの応用に応じてアプリケーションソフトウエアはNJRが開発を担当する。

Infineonは、図1のチップに60GHzのレーダーICと信号処理用のマイコン、周辺部品などを1パッケージに集積した。レーダーのアンテナもパッケージ上に形成している。アンテナは、長さが電磁波の1/2波長や1/4波長で決まる共振器であるから、波長が1~10mmのミリ波ではIC上にアンテナを形成できるようになる。もちろん、ユーザーによっては自分でMIMOアンテナを取り付ける企業もあるため、AoPパッケージにしない製品も揃えている。

想定する人感センサの応用として、パソコンやモニターではちょっと席を立つと画面をオフにしてプライバシーを守る、あるいは画面を暗くして消費電力を下げる、テレビを消すなどに加え、ジェスチャー入力や、人間の呼吸や新拍数の計測のようなバイオセンサなどもある。Googleはすでに自社のスマートフォンPixel4以降の世代にジェスチャー入力を採用しているが、手の動きを検出するのがInfineonのミリ波レーダーである。

人流センサではビルやオフィスなどの入り口や廊下、あるいは各部屋に設置して、何名が入り何名が出たかを管理できる。また入退出管理と併せ、新しい防犯システムとしても使える。また、人の混み具合を定量的に把握できるほか、新型コロナ対策としてソーシャルディスタンスを保てる人数も把握できる。また、水や液体などのレベル(水位、液位)を測定するという応用にも使える。それぞれ応用ごとにアプリケーションソフトを作る必要がある。

赤外線を利用した人感・人流センサと比べ、太陽光による誤動作はなく、あるいは服装によっては検出できないということがない。加えてほこりや煙、水蒸気などがガラスに付着して見えなくなることもない。プラスチックなどの絶縁体でカバーすると製品のデザイン性が上がり、センサであることが見破られることもない。メリットは多い。

ミリ波レーダーは電波を発する製品であるため、総務省の認可が必要である。このモジュールを使う場合には、NJRがすでに認可を受けており、ユーザーは総務省に届け出る必要はない。無線機器で実績のあるNJRは認可の手続きには慣れている企業の一つであり、すでに現在複数社が評価しており、来年には売り上げを見込めるとしている。

次回は、米Texas Instrumentsがリリースしたレーダー製品に関して触れていく。

(2021/10/21)

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