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ソフトウエアツール+AIチップで現場にAI導入を支援するジルファルコン

エッジAIチップが注目される中でいち早く量産に持ってきた企業が昨年3月に東京にオフィスを構えた。シリコンバレー生まれのGyrfalcon Technology社は小さなAIチップを誰でもすぐに使えるようにするためのソフトウエアスタックも昨年11月に発表、その販売会社ジルファルコン・テクノロジー・ジャパンを立ち上げた。日本でのAIを身近にしたいという思いがある。

図1 ジルファルコン・テクノロジー・ジャパン代表取締役兼CEOの西口泰夫氏 出典:Gyrfalcon Technology

図1 ジルファルコン・テクノロジー・ジャパン代表取締役兼CEOの西口泰夫氏 出典:Gyrfalcon Technology


これまでAIは、企業ごとに要求が異なるため、汎用なチップは受け入れられにくかった。例えば、製造業で外観検査を自動化する場合、良品と不良品との定義を決め学習させる必要がある。AIサイエンティストは現場のことがわからない。現場の人はAIのアルゴリズムや学習方法がわからない。このため一緒に共同作業をしながら必要な外観検査装置を作り上げていった。しかし、これではAIチップやソフトウエアは顧客ごとに作り直さなければならない。ビジネスとしては受け入れがたい。

一方、中小企業では、外部のデータサイエンティストやAI研究者と一緒にAI導入のテストする場合でさえ、数千万円もの必要なコストはとても支払えない。

ジルファルコン・テクノロジー・ジャパンの代表取締役会長兼CEOの西口泰夫氏(図1)は、何とかして中小企業の製造現場のエンジニアにAIを学んでほしいという思いでAIデザイナーを育成する講座を立ち上げた。「ジルファルコン・ジャパンとして講座を運営している訳ではないが、一人でも多くの人にAIを活用して現場に活かしてほしい」との思いが強い。中小企業が払える程度のコストでAIを導入できるようにすることが結局、日本を強くすることにつながる。特に、中小企業の命は、現場のノウハウであるが、AIを導入する場合にはそれを外部のデータサイエンティストらに見せなければならないが、そのことに躊躇(ちゅうちょ)する。だからこそ、中小企業の現場のエンジニアがAIを勉強して導入しやすくする方が手っ取り早い。西口氏は、このために講座を立ち上げたのだ。

Gyrfalconは、共通のプログラム可能なAIチップを作り、顧客ごとに異なるソフトウエアをユーザが自分でチップに埋め込みカスタマイズできるようなソフトウエアツールを提供し始めた。Gyrfalconが発表したツールAI-Xは、エッジAIを開発するためのフルスタックソリューションである。

チップは、ニューラルネットワークのマトリクス演算に向いた推論の独自アーキテクチャを使うという(図2)。チップには一時記憶のメモリを集積しており、システムとしての制御部分は含まない。制御は外部CPUから行い、推論演算だけを受け持つというアクセラレータである。このためチップは小さく、低消費電力である。また、どのようなチップにもPCIeやUSBなどのインターフェイスなどを通して使える。


メモリー内蔵ですべての処理をチップ内で完結。Deep Learning推論に特化したアーキテクチャ

図2 ニューラルネットワークの行列演算に適したチップ 出典:Gyrfalcon Technology


自動運転のための画像処理や、監視カメラで人物などを見分ける画像認識などの応用を想定しており、そのための画像モデルで性能を表示している。モバイルネットのモデルでは、応用によって異なるものの、500フレーム/Wという性能を得ている。実際にはスマートフォンで使うため、150フレーム/290mW程度で使っているようだ。実際、2019年に発売されたLGのスマホQ70に同社の製品「Lightspeeur 5801S」が使われているという。AIチップの発表は多いものの、量産レベルにある製品はまだ少ないとしている。

ソフトウエアプラットフォームであるAI-Xは、図3のように、AIチップを使ってAIを実行できるようにするための1ストップのソリューションツールである。主要な機能は3つ。


GTI AI-X / One Easy Stop Shopping For AI Dev. On Devices

図3 AIを実行できるようにするための1ストップソリューション 出典:Gyrfalcon Technology


一つはGchipと名付けた、AIチップそのものである。そしてAIチップを最適に活用できるようにするためのアルゴリズムの提供と、学習させるためのフレームワークキット(Tensor Flow、Caffe、PyTorch)Gnetの提供。もう一つは、データをタグ付けするサービスのGtagである。

Gnetでは、顧客が行っているワークフローをTensor FlowやCaffe、PyTorchなどに置き換えて、AIが使えるようにする。この3つのフレームワークがあればたいていのAIに使えるからだ。

Gtagでは、データを顧客から預かり、Gyrfalcon側でトレーニングさせるサービスであるが、顧客が自分でタグ付けする場合もあり、フレキシブルに対応する。西口氏がAIエンジニアを養成したいと述べたのは、現場のエンジニアが例えば外観検査装置ではどのようなキズを不良品とみなすのかというノウハウを現場のエンジニアがよく知っていることであるため、そのタグ付けは現場でやることが望ましい。

そして、このツールに搭載されているTensor Flowなどのフレームワークを使って現場で学習させることができれば、日本の製造業は技術の流出を防止しながらAIで生産性を上げることができるようになる。GyrfalconにとってもAIチップの量産規模拡大につながり、ウィン-ウィンの関係が出来上がる。

(2021/01/14)

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