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メガチップス傘下で急成長しているSiTime

日本最大のファブレス半導体メーカーであるメガチップスが、かつてのASICベンダーから汎用ICメーカーへと脱皮を図っている。それも民生用から産業用への変化だ。2014年に米国のMEMSタイミングデバイス会社のSiTimeを買収したのは、この狙いに沿った戦略の一つ。セミコンポータルがその1年前にSiTimeの製品を報道してから5年たつ(参考資料1)。SiTimeがメガチップスに買収された後、どう変わってきたかをレポートする。

図1 SiTimeマーケティング担当Executive VPの Piyush Sevalia氏 写真は2011年に筆者撮影

図1 SiTimeマーケティング担当Executive VPの Piyush Sevalia氏 写真は2011年に筆者撮影


セミコンポータルが2013年にSiTimeを報道したときは、ようやく水晶発振器並みのMEMSオシレータ製品ができたばかりだった(参考資料1)。今や、MEMSタイミング市場に数十億個の製品を出荷し、90%の市場シェアを握るようになった、と同社マーケティング担当Executive VPの Piyush Sevalia氏(図1)は言う。MEMSタイミング市場規模は60億ドル。2025年までに180のビジネス分野の機会があるとみている。

これまではMEMSタイミングデバイスの改良が進み、昨年の製品は10年前のものに比べ、堅牢性は20倍、精度(確度)は30倍、信頼性は30倍と格段に上がった(図2)。ビデオで示された温度や機械的な安定性は従来の水晶をはるかに凌ぐようになった。ビデオは、そのURLページの最後部分の「Watch our video」をクリックすると、その様子が示されている。


Disrupting Timing with Innovation Firsts

図2 MEMSタイミングデバイス製品は急速に進歩 出典:SiTime


このビデオでは、従来の水晶発振器と、最新のMEMSタイミング製品「MEMS Super TCXO」とを比較し、その周波数の変化波形を示している。まずファンを使って空気の流れを起こし、それによって発振周波数のわずかな影響を調べている。従来の水晶はその微妙な変化をまともに受けているが、MEMS製品の変動はほとんどない。ファンによる安定性は特に高性能ネットワーク機器のようなインフラ機器では特に重要で、周波数が安定しなければ使えない。また発振周波数の経時変化も少ないとしている。さらに温度変化に対する周波数の変化もヒートガンを使って調べている。これも水晶では周波数のアンダーシュートとオーバーシュートが起こり、変動が激しい。これは温度補償回路が応答するからオーバーシュートが起きるとしている。MEMSは同じシリコン上に補償回路が載っており応答が素早いため、アンダーシュート・オーバーシュートを起こさないようだ。また電圧変化や鉛筆でたたくというタップ変動に対しても、やはり小さい。

同社のMEMSタイミング製品の強みは、何と言ってもMEMSデバイスとアナログCMOS ICを設計できる能力を持っていることで、CMOS ICの上にMEMS共振器を搭載している(図3)。さらに温度センサもCMOS IC上に搭載しているため、温度制御性能が優れている。 製造プロセスは外部のファウンドリを使う。MEMSはBosch、CMOS ICはTSMC、後工程組み立てはOSATを使っている。


図3 SiTimeはMEMSもアナログCMOS ICも自社設計 出典:SiTime

図3 SiTimeはMEMSもアナログCMOS ICも自社設計 出典:SiTime


同社は今後期待される市場としては、5G通信、モバイルIoT、自動車エレクトロニクス、とみており、これらの市場にフォーカスしていく。これらの市場は、MEMSに限らない全半導体製品をドライブする。5G通信市場では、きわめて正確なクロックや安定な周波数発振器が必要であるため、SiTimeは2017年からこのインフラ市場に参入できた。

これからの技術として、携帯電話間の同期をとる5Gネットワークだけではなく、工業内のモータやサブシステムとEtherCATなどを使って同期をとる場合などには、TSN(Time Sensitive Network)プロトコルが工業用IoTなどの分野で要求される。このためMEMSタイミングデバイスの必要性は高まるとみられる。

メガチップによる買収後、SiTimeはメガチップの子会社となったが、Sevalia氏は独立に運営されているという。SiTimeはもともとBoschからスピンオフして生まれた会社であるが、Boschの財務的な支援はなく、もっぱらVC(ベンチャーキャピタル)からの資金調達に頼っていた。しかし、買収された後は、メガチップの経営陣から強いサポートがあり、以前よりも多くの投資ができるようになったと言う。このことは、ソフトバンクに買収されたArmも同様なコメントを述べている。

SiTimeの売上額は、その絶対値は明らかにできないが、2014年度から2017年度にかけてCAGR(年平均成長率)75%という驚異的な速度で成長している。それ以前は、MEMSタイミング製品の差別化が十分ではなく(参考資料2)、2012〜2013年にようやく水晶と差別化できるレベルに到達し、それ以降の急速な発展に変わった、とSevalia氏は述べている。やはり小型・低消費電力、安定、高精度というMEMSタイミング製品の強さが明確になったため、モバイルやIoT、ウェアラブルなどの用途で伸びたとしている。

さらに同じような成長率を求めて、5G通信、モバイルIoT、カーエレクトロニクスにフォーカスすることを決めたとしている。

参考資料
1. SiTime、性能も機能も水晶振動子の上を行くMEMS発振器を製品化 (2013/03/29)
2. MEMS特集:デジタルマイクICに徹するAkustica、水晶置き換え狙うSiTime (2011/05/19)

(2018/07/04)

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