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ローム傘下のラピス、2方式のIoT専用LPWA通信ICを開発

旧沖電気工業の半導体部門を源流とし、現在ローム傘下にあるラピスセミコンダクタが、得意な通信技術を生かし、IoT専用のLPWA(Low Power Wide Area)通信チップ「ML7404」を開発した。妨害波に強いIEEE802.15.4kと、普及しつつあるSigFoxの両モデムを内蔵することで、対応範囲を広げる狙いだ。

図1 Sigfoxと802.15.4kの両規格を持つロームのLPWA用通信チップ このボードの左上の黒いチップがML7404 真ん中下の少し大きめのチップは制御マイコン

図1 Sigfoxと802.15.4kの両規格を持つロームのLPWA用通信チップ このボードの左上の黒いチップがML7404 真ん中下の少し大きめのチップは制御マイコン


ラピスは、かつて沖電気時代にBluetoothのRFとベースバンドを1チップCMOSに集積した製品を持ち、無線通信技術に強い。今回、二つの方式のIoT専用通信規格に合った製品は、RFの受信用LNA(ローノイズアンプ)と送信用PA(パワーアンプ)を集積したモデムチップ。出力はSPIデジタルコマンド信号、データもデジタルで出力する。

IoT専用のワイヤレスネットワークは、スター構成を採り、15.4kもZigBeeなどのメッシュトポロジーではない。このためIoT端末から基地局へデータを直接送ることができる。IoT専用ネットワークはLPWAと呼ばれ、データレートはkbpsないしbpsの単位で表されるほど遅く、消費電力も低い。しかもデータを何度も送ることが許されるため遠くまで送信できる。LPWAにはLoraやSigFoxなどの規格があるが、SigFoxは実用化では最も進んでおり、すでに30ヵ国で展開されている。日本では京セラがSigFoxの専用通信業者となっている。またLoraもロンドンなど世界で展開している都市もあり、400近いアライアンスメンバーがいる。

LPWAのIoT専用ワイヤレスネットワークでは、データレートが遅い分、通信距離を延ばすことができるため、設置しなければならない基地局が少なくて済む。セルラーネットワークだと半径2kmおきにデータのハンドオーバーも加味して、セルの範囲を重ねながら基地局を設置しなくてはならず、例えば山手線内の区域には数十局も設ける必要があるのに対して、SigFoxのようなシステムでは1〜2局で済む。このため、セルラーの通信オペレータと比べ、資金がなくてもIoT基地局ビジネスに参加できる。また、Lora方式も世界各地でSigFoxと競争している。

ラピスが進める802.15.4k方式は、I/Qの直交性を持ち、拡散符合を使うDSSS(直接拡散方式)方式で、他の無線通信方式に比べ、同じ周波数帯域内での妨害波の耐性が高いという特長がある。この方式は、ベースバンド信号を広い帯域に分散して送信し、受信時はその逆拡散を行う。このため、妨害電波ノイズは周波数拡散され、その影響が小さくなる。その結果、より多くの端末をネットワーク内に収容できる。使用する電波の周波数はサブGHz帯の免許不要バンドである。ただし、弱点はこの方式を検討している企業が少ないこと。このためコンソーシアムやアライアンスもない。ラピスには、ソフトウエアスタックを構築したり、通信モジュールや開発ツールを提供したりするパートナー企業はいるが、コンソーシアムといえるほどではないという。

IoT端末は低消費電力が最優先。専用の無線回路も消費電力を減らさなければならない。ラピスは制御マイコンの消費電力を減らすため、SigFox部分のBPSK(バイナリ位相シフトキーイング)モデムをハードウエア回路で構成した。従来は変調演算のためにマイコンで演算していたため消費電力が大きかった。このため、通信中にマイコンを休ませることができ、電力はRF動作だけで済ませるようにした(図2)。


図2 SigFoxの変復調回路(モデム)をハードウエア化したことで消費電力を減らした 出典:ローム/ラピスセミコンダクタ

図2 SigFoxの変復調回路(モデム)をハードウエア化したことで消費電力を減らした 出典:ローム/ラピスセミコンダクタ


ラピスは、この製品ML7404のサンプル出荷を始めているが、量産は12月からの予定。チップに加え、開発キットも用意している(図3)。IoTの応用として、ガス/水道メータ、構造物のヘルスモニタリング、スマート農業、防災など長距離・低速の産業機器にも使えるとみている。


図3 IoT専用通信開発キット ラピスはソフトウエアも用意している。

図3 IoT専用通信開発キット ラピスはソフトウエアも用意している。


これからは、802.15.4k方式を普及させるために、まずはその妨害に強く通信が切れにくいことを実証し訴求していき、コンソーシアムにつなげていきたいとしている。

(2017/08/09)

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