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オーディオを変えるQualcommのCSRとのコラボ

Bluetoothチップの創業企業とも言えそうなCSR(元Cambridge Silicon Radio)が2年ほど前にQualcommに買収されたが、このほど両者のコラボともいえる新製品が発表された。CSRが買収される前からBluetoothにオーディオを加えることに力を入れてきたが、Qualcommの得意なSnapdragonをベースにした製品もあり、コラボが実ってきたと言えそうだ。

図1 Qualcomm音声・音楽部門のシニアVP兼ジェネラルマネージャーのAnthony Murray氏

図1 Qualcomm音声・音楽部門のシニアVP兼ジェネラルマネージャーのAnthony Murray氏


Bluetoothはいまやコモディティとなっているため、さまざまな半導体メーカーが製品化しているが、世界的にはBroadcomとCSRが強い。しかし、QualcommがCSRは買収したのはBluetooth技術だけではない。オーディオがかつてのようなアナログからデジタル化が進展しており、デジタルで初めて実現できるようなソフトウエアアルゴリズムを組み込むことで新しい音質レベルの音を実現できるようになっている。例えば、ノイズキャンセルをソフトウエアアルゴリズムによって実現したり、音声認識でコマンドを入力したり、人間の耳の錯覚を利用するサラウンド機能を実現するアルゴリズムを開発するなど、デジタルを利用するオーディオ技術は広がっている。

来日したQualcomm Technologies International社の音声・音楽部門のシニアVP兼ジェネラルマネージャーのAnthony Murray氏(図1)は、オーディオにはメガトレンドが6つあると述べている。それは、音楽をネット経由で楽しむストリーミング、低価格のハイレゾ、ヘッドフォンなどのワイヤレス、音声入出力動作、不要なヘッドフォンジャック、そしてウエアラブルの究極の一つであるヒアラブル(hearable)デバイス、である。こういった音のメガトレンドはデジタルゆえのテクノロジーが多い。オーディオ用のICプラットフォームとして、今回4品種発表したが、CSRとのコラボの影響の強い2つのプラットフォームを紹介する。

一つはBluetooth Audioのプラットフォームだ。これまではフラッシュメモリを利用したハイエンド商品からミッドレンジ、ローエンド商品とそれぞれのシリーズを出してきたが、今回、フラッシュメモリと、ROMベースだけの2種類のプラットフォームに統合した。Bluetoothは、どのデバイスとどのようなコンテンツについてペアリング(つながる)し、どのようなデータを収集・保存・利用するかなどの細かい仕様をソフトウエアスタックを使ってカスタマイズしている。このため、ソフトウエアを作りこみ、最終的にROMに焼きこみカスタム仕様を提供している。より価格の安いROMベースのプラットフォームはQCC3000ファミリだが、フラッシュベースのフレキシビリティを備えたICはCSRA68100(図2)である。


図2 Qualcomm社のCSRA68100の内部ブロック図

図2 Qualcomm社のCSRA68100の内部ブロック図


CSRA68100は、デュアルCPUコアとデュアルDSPコアを集積、Bluetooth/Bluetooth Low Energy、NFC、さらに周辺の容量式タッチセンサ回路やLEDドライバ、オーディオCodec、パワーマネジメントなどの周辺回路も集積したチップであり、フラッシュメモリは外付け。デュアルコアの内、一つのシステムプロセッサは制御プログラムやBluetoothのソフトウエアスタックを動かすためのCPUであり、もう一つはユーザーが自由にプログラムできるCPUとなっている。デュアルのDSPは並列動作で性能を上げるために使う。クロックスピードは180MHzで動作させている。この1チップの中に、音質を上げるアルゴリズムだけではなく、音声入力のアルゴリズム、ファーフィールドのエコーキャンセルのアルゴリズム、センサ処理、オーディオのポスト処理などを受け持つ。これらのソフトウエアをプログラムするフラッシュメモリとして、シリアルフラッシュを採用した。シリアルフラッシュは、一般にNOR構造で出来ており、NANDよりも高速で省ピンと小面積がメリットだが、集積度は小さい。

音に関するデジタル技術では、上記のようにCPUを使った様々なデジタル処理を使って、これまでにない音を作り出すが、アンプ側でもデジタル化が進んでいる。今回Qualcommが発表したもう一つの主要な技術は、デジタルアンプ、すなわちD級アンプのテクノロジーDDFA(Direct Digital Feedback Amplifier)を使ったチップである。

これまでのデジタルアンプでは、アナログプロセッサとPWM(パルス幅変調)の2チップ構成だったが、今回は1チップに集積した。しかも、デジタルフィードバックアンプを採用し、これまでにない高音質のデジタルアンプに仕上げた。これまでの開ループのデジタルアンプでは、スピーカーにつなぐ直前のパルス波形が多少崩れてしまい、電源も揺らついていた。このため高調波歪が発生しやすかった。今回のデジタルフィードバック方式では、終段の崩れたパルス波形をアンプの初段に戻すことによって、波形の崩れを補正し修正する。これによってアンプの性能は大きく上がった。

S/N比とダイナミックレンジはいずれも20Hz〜20kHzで113dBと十分高く、全高調波歪とノイズを示すTHD+Nは0.002%未満と最高級アナログオーディオに遜色のないレベルにまで来た。QualcommのCSRグループは、デジタルアンプ技術では10年以上の研究開発の実績があり、今後このDDFA技術をもっと広い範囲のデバイスにも使っていくとしている。音声のCPU処理をはじめとするQualcommの得意なコンピューティング技術、通信用のデジタル変調技術と、CSRのデジタルアンプ技術による新しいオーディオ技術は、民生の枠を超え、新しいユーザーエクスペリエンス技術へと発展する可能性を秘めている。

(2017/06/23)

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