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RF強化で「アンテナからビットまで」戦略を実現するADI

インターネット時代に不可欠でしかもカギを握る技術は、無線通信(RFとモデム技術)である。産業用アナログICに強いAnalog Devicesは、2014年にRF関係の専門メーカーHittite(ヒッタイト) Microwaveを買収した。この結果、「アンテナからビットまで」というRF技術からデジタル出力までの製品ポートフォリオを持てるようになった。

元々、A-D/D-Aコンバータ等のデータコンバータ製品に強いAnalog Devices Inc. (ADI)は、モデムのデジタル変調アルゴリズムを演算するDSP(デジタル信号プロセッサ)も持っている。加えて、RFに強いHittiteを買収することで、文字通りアンテナからデジタルまでを1社で実現できる。

2015年暮れのマイクロ波の専門展示会MWE2015において、ADIは無線通信のアンテナからデジタル処理回路のビットまで、さまざまな周波数帯域について展示物を見せた。インターネットとつながるデバイスでは無線すなわちRFを使うテクノロジーが圧倒的に多い。RF以外だとADSLや光ファイバなどの有線しかない。モバイルの世界はほぼ100%RF技術が使われていると言っても言い過ぎではない。

ところがRFの世界は、一般的なアナログやデジタルとは違い、マクスウェル電磁界方程式の世界であり、波としての性質を理解しておく必要がある。例えばアンテナは、空間を伝わる電波を増幅する「共振器」であり、一般の細くて丸い配線はインダクタンス成分をいっぱい含み電磁波を放出する「送信機」である。このため、周波数を合わせる(共振させる)チューナーでは、インダクタンス(L)とリアクタンス(C)を試行錯誤的に何度も合わせてみる必要があり、調整に時間がかかる。さらにアンテナからLNA(ローノイズアンプ)、局部発振器、フィルタなどの回路には、LやCの成分を多数含むため、電磁波の反射、吸収の様子を知るためのスミスチャート(sパラメータ)をチェックする必要がある。要は、電磁波の知識がなければ設計できない。

もしRF回路に煩わされることなく、デジタルに集中できるのなら、通信機を組み込んだIoT機器などの開発期間はずっと短くなる。RF回路の周波数調整コスト(ローディング時間)がぐっと減る。

もちろん、通信技術はRFだけではない。周波数変換して検波したアナログ信号やデジタル信号は変調(modulate)されているため、復調(demodulate)しなければならない。変復調器を両者のかしら文字を取って、モデム(modem)と呼ぶ。ADIはA-Dコンバータやモデム技術も持つため、RFのHittiteを手に入れることで、アンテナからビットまで全ての技術を提供できるようになったのである。このおかげで、ITやデジタル機器の設計者は、通信技術を知らなくても自分の得意な技術に集中できる。通信回路部分はまるで「レゴブロック」のように通信回路モジュールをはめ込むだけで済む。

今回、アナデバが展示会で見せた製品をいくつか紹介すると、24GHzのミリ波帯向けレーダー向けのチップセットADF5901(2チャンネルの送信回路)とADF5904(4チャンネルの受信回路)、ADF4159(FM-CWは発生用PLL)などを使い、小型化した。RF回路に必要なチップは全てADIが提供し、デジタル信号処理のモデムやデータ取り込みはFPGAを利用する。ADIはオーストリアのINRAS社と共同開発しフェーズドアレイアンテナを用いて小型レーダーシステムを開発した。クルマの衝突防止用レーダーの市場を狙う。

衛星通信やはやぶさ2など宇宙での通信用のKaバンド(30GHz帯)のアップコンバータ送信機も展示した。これはLバンド(1GHz帯)の入力信号を30GHz帯にアップコンバートする送信機である。このRFモジュールもHittiteのモジュール技術である。

さらに今後の5Gモバイル通信向けの60GHzトランシーバチップセットもある。57~66GHzのミリ波通信に使うチップで、HMC6300アップコンバータとHMC6301ダウンコンバータで構成されている。5G時代のスモールセルや基地間のバックホールに向けてGbpsのデータレートを実現する通信機器に使われるRFチップセットソリューションだ。Gbpsのデータレートを実現するためにミリ波という超高周波技術だけではなく、デジタル変調としても256QAMまでの高い変調方式も利用する。チップは4mm×6mmのBGAにパッケージングされ、SiGeプロセスで高周波出力を提供する。ベースバンドからRFまでを1チップで実現した。

ADIはさらに、VSWR(電圧定在波比)測定器や、ソフトウエア無線(SDR:software-defined radio)、データコンバータとFPGAとをつなぐ新しい高速シリアルインターフェースJESD204を使った1Gsps(サンプル/秒)という高速のサンプリングレートに対応する規格ボードなどを示した。JESD204規格は、従来のCMOSやLVDSに変わるCML(current mode logic)を利用したインターフェースで、サンプリングレートが高速になるにつれ、CMOSでは消費電力が許容できなくなるために作られたもの。ADIは高速データコンバータを手掛けているため、この規格採用に積極的だ。

(2016/01/08)

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