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IIoTアーキテクチャが鮮明になってきたNIWeek 2015 (2)

米National Instrumentsが主催するNIWeek 2015(参考資料1)では、工業用IoT(IIoT)を使い、さまざまなシステムを開発した例が発表された。心臓移植の支援、Cirrus LogicのオーディオコーデックICのテストデータを解析する企業、航空機の翼や機体の異常を超音波で検出する例などを紹介する。いずれもデータ解析機能を設けており、「IIoT Ready」になったとしている。

心臓移植の迅速化を図る
心臓移植では、ドナー(提供者)が現れるまで通常は8ヵ月かかると言われている。さらにドナーが見つかった後でも、患者の心臓を素早く交換するために、最適な心拍タイミングなどを予めシミュレーションしておくことが望ましい。移植は一刻を争う。その適合性や患者の体に合った心拍挙動を予め知っておけば、スムーズな移植ができるようになる。心臓病患者向けの心臓シミュレータや人工心臓を開発しているドイツのBerlin Heart社は、テキサス州の少女Sarahさんに心臓シミュレータシステムを適用し、心臓移植を成功に導いたという。図1は用いたシステムである。血液に似せた液体のポンプを作り、ポンプに送る空気圧、使用する2次電池やその制御回路などを組み込んだ。NIのLabVIEWでテスト設定や回路設計を行った。シミュレーションに従ってポンプに送り込む空気圧を決定する。テスト結果をパソコンへレポートする。


図1 Berlin Heart社が開発した心臓シミュレータ

図1 Berlin Heart社が開発した心臓シミュレータ


なお同社の心臓移植支援システムは、米国のテキサス小児病院だけではなく、この7月に日本の厚労省の認可を取得しているという。

半導体ICのテストデータ解析ビジネス
民生用半導体メーカーCirrus LogicがNIの半導体テスターSTS(参考資料23)を使うことで、オーディオコーデックICのテストカバレージを維持しながらテスト時間を30%短縮できたと述べた。この結果、テストコストを抑えることができた、とCirrus Logics社の製品テストエンジニアのJohn Cooke氏は明らかにした。NIのSTSテスターが従来のテスターと比べて、有利な点は、開発した半導体チップの特性評価に用いたテスターをそのまま量産へ拡張して移行できることだとしている。テスト用のソフトウエアや測定アルゴリズム、PXI装置、フィクスチャーとケーブルをそのまま量産機にも使える。


図2 NIのSTS半導体テスターのメリットは試作と量産のテスターをそのまま使えるできること 出典:National Instruments

図2 NIのSTS半導体テスターのメリットは試作と量産のテスターをそのまま使えるできること 出典:National Instruments


今回、NIは半導体テストデータを管理するコンサルティングサービス会社のOptimal+(オプティマルプラスと発音)社も紹介した。Optimal+社の製品マーケティング担当VPのKeith Arnold氏(図3)によると、半導体メーカーのテストデータを全て、Optimal+社のデータベースサーバに送りそこに蓄積する。半導体チップの特性評価(characterization)やAC/DCデータ(パラメータテスト)、ファンクションテストデータ、ハードウエアプログラムなどテストに必要な全てのデータを管理し、解析、歩留まり把握、データパターンの特長抽出などデータ解析に関する全ての情報を顧客に提供する。顧客には、STMicroelectronicsやFreescale Semiconductor、AMD、Qualcommなどがいるが、Cirrusはまだ顧客になっていないという。


図3 Optimal+社製品マーケティング担当VPのKeith Arnold氏

図3 Optimal+社製品マーケティング担当VPのKeith Arnold氏


この新しいコンサルティングサービスは特に問題が起きた時に威力を発揮する。テストを行うOSAT(Out-Sourced Assembly and Test)のテストデータとOptimal+のデータベースサーバはインターネットを通じて常に接続されており、リアルタイムにデータの一致性を保証する。たまにはOSATの作業者の入力ミスなどでデータが異なる場合があるが、そのような場合でも即座に発見し、Optimal+は常にデータを保証する。同社の顧客はファブレスやIDMなど半導体メーカーである。OSATはテストするだけであり、そのテスト内容には関与しない。このため、Optimal+は半導体メーカーとの信頼関係を築き、守秘契約を交わす。同社のビジネスモデルは、データベースソフトウエアをサブスクリプションモデルで販売すると共に、OSATにはテスト解析エンジニアを常駐させておく。9ヵ月前に東京にもオフィスを設置するようになったという。

超音波による非破壊検査
NIのテストシステムを使い、超音波による非破壊検査イメージング装置を開発したのがDiagnostic Sonar社である。妊婦の体内を検査する超音波診断装置と原理は同じであるが、カラーで可視化して航空機の翼や機体の欠陥がないかどうかをリアルタイムでカラー表示する。表面をスキャンして内部の異常を可視化する(図4上)。超音波を発しその反射波を受けるため、表面に水を塗りながらスキャンする(図4下)。デモでは、下地の黒っぽい基板の上を、白いハンディなデバイスでスキャンしながら、基板内部の異常を非破壊で検査している。航空機の翼などは通常、蜂の巣状のハニカム構造になっているが、この構造に異常があれば翼の劣化につながり危険な状態になりうる。スキャンしながら、異常を赤い色でリアルタイムに表示する。


図4 NIのテスターを使った超音波非破壊検査による可視化装置

図4 NIのテスターを使った超音波非破壊検査による可視化装置


この装置を開発するにあたって、コントローラ用にNI社のFlexRIO製品を使い、カスタマイズすべきところをXilinx社のFPGA「Kintex」を利用した。超音波からの強度データを色付けしてリアルタイムで表示する演算に苦労したという。

これらの例で見られる共通項は、センサから得られたデータを収集・解析し、システムにフィードバックしていることである。IIoTの新しいアーキテクチャは、データを解析し整理したうえで、インターネットに整理されたデータとして送ることで、ビッグデータ解析のデータ量を減らすことができる。ビッグデータ解析ではHadoop関数を用いて、データを多数のコンピュータに振り分け、それぞれ演算したのちにもう一度束ねるという操作を行う場合が有力だ。このため最初からデータを整理しておけば、ビッグデータの演算は軽くなり、フィードバックの時間を短縮できる。NIは、「IIoT Ready」の時期に入った、と見ている。


参考資料
1. IIoTアーキテクチャが鮮明になってきたNIWeek 2015 (1) (2015/08/05)
2. NI、RF/ミクストシグナルIC向けフレキシブルなテスターをリリース (2014/08/07)
3. フレキシブルに進化するテスターで半導体業界に本格参入する日本NI (2014/10/29)

(2015/08/13)

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