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コスト的にもSiに勝てるメド、TransphormのGaNパワートランジスタ

Si IGBTやパワーMOSFETの性能を超える、SiCやGaNといった高温半導体トランジスタが期待されながら大きく成長していけない最大の問題はコスト。SiCはSiよりも10倍も高い。Siのパワートランジスタは製造プロセスがSiCやGaNに比べて完成しており、従来の設備が使え、低コストである。化合物半導体はどうやってコストの壁を突破するか、その一つのアイデアをTransphorm(トランスフォーム)社が提案した。

表1 TransphormのGaN HEMT/ダイオード製品 RDSの単位はmΩ

表1 TransphormのGaN HEMT/ダイオード製品 RDSの単位はmΩ


TransphormのGaNデバイスはSiウェーハ上に形成されたもの。同社の工場でSiウェーハからバッファ層、GaN層をエピタキシャル成長で形成している。製品としてGaN HEMT構造トランジスタのTPH3006PS/PDとTPS8A600PA/6A600PA/4A600PAのGaNダイオードを持っているが、いずれも耐圧が600Vで、JEDECの認定を通った初めてのGaNメーカーだ、と同社マーケティング担当バイスプレジデントのCarl Blake氏は胸を張る。JEDECの認定試験では、3ロット、77個の部品にわたって1000時間のテストに不良ゼロだったと語る。同社の製品は米国エネルギー省(DOE)の認定にも合格したという。

同社はGaNトランジスタを使ったさまざまな評価ボードを設計しており、GaNトランジスタを使ったPFC(力率改善回路:power factor correction)ボードを2種類、同期整流のトーテムポール構造のPFCが1種類、LLC(二つのコイルLとコンデンサCを直列に共振させる回路)コントローラ1種類、3相モータ制御用インバータ1種類といった評価ボードがある。変換効率が高いため、小容量のコイルやコンデンサで済む。このため、ボードを小さくでき、しかもフィンを含め外付け部品点数を減らせる。GaNトランジスタの評価ボードを使って特性をチェックできるため小型、高効率、低コストを評価ボードで顧客にアピールできる。

例えば、同期整流回路は、ダイオードブリッジを構成する場合の順方向電圧ドロップを除去する目的で開発された回路。ダイオードの代わりにMOSトランジスタ(ここではHEMT)を使うことで順方向のロスを減らす。直列接続したGaN HEMT2個とSi MOSFET2個を使ったトーテムポール構成の整流回路では、ゲート電圧の制御によって導通時に順方向ロスがないため効率が極めて高い。ここでは交流100〜240Vの入力で390Vの直流を出力する。さらに、GaN HEMTをLLCコントローラでゲートを制御するDC-DCコンバータも接続、390Vの直流入力電圧から12Vの出力を得る。トランスの2次側にSi MOSFETの同期整流回路を作った(図1)。


図1 Transphormが開発した同期整流回路(左)とDC-DCコンバータ 出典:Transphorm

図1 Transphormが開発した同期整流回路(左)とDC-DCコンバータ 出典:Transphorm


この結果、97.5%という効率を得た。98%まであと一歩というところまで来ているという。目標は99%を狙う。従来のSi MOSFETだけで構成した同期整流回路では最高で96.5%だったとしている。効率が97.5%ということはロスが2.5%しかなく、Si MOSFETは3.5%のロスを生じているという意味である。効率が高いため、ヒートシンクが不要になり、ボード、装置の小型化につながる。従来のダイオードブリッジではヒートシンクは必要だった。

ハーフブリッジにSi MOSFETで同期整流すると、ノイズが顕著に出るため、EMIノイズフィルタを設ける必要がある、とBlake氏は言う。パッケージの持つボンディングワイヤによる寄生インダクタンスの影響もあるためパッケージを開発し直さなければならないのだ。しかし、この新製品は標準的なTO-220パッケージに封止できるため、アセンブリに要する価格が上がるという心配はない。


図2 GaNトランジスタを使ったパワーコンディショナー 安川電機アメリカ法人のYaskawa America社製で体積は40%減に

図2 GaNトランジスタを使ったパワーコンディショナー 安川電機アメリカ法人のYaskawa America社製で体積は40%減に


同社はソーラー用のパワーコンディショナーも試作してみたが、フィンが不要でしかもノイズフィルタもいらないため、回路としてはシンプルになった(図2)。SiのMOSFETを使ったインバータや電源システムに性能だけではなく、コスト的にも勝てるという自信がついたと同氏は語る。ちなみに、今回のGaN HEMT製品のOEM単価は、1000個購入する場合は5.89米ドル、ダイオードの単価は同様な条件で2.75ドル(8A品)、2.06ドル(6A品)、1.38ドル(4A品)。GaN HEMTのOEM購入の場合はNDA契約を結ぶ必要あり。

(2013/07/31)

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