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カーエレECU市場を全部取るという強い意志が集約されたルネサスのRH850

「できれば自動車用市場は全部取りたい」。ルネサスエレクトロニクスがカーエレクトロニクスに使われるECU(電子制御ユニット)市場に意欲を見せている。エンジン制御、シャシー、エアバッグ、カーオーディオ、EV/HEV(電気自動車/ハイブリッド)、ボディ制御、メータ、予防安全といったカーエレシステム(図1)の全てにフラッシュマイコンを提供する、その第1弾としてボディ制御用RH850をリリースした。

図1 自動車システム全部のECU市場に向かうルネサス

図1 自動車システム全部のECU市場に向かうルネサス


ボディ制御システムと一口に言っても、ワイパー制御からハンドルロック、ドアロック、照明制御など多数の用途にECUを使ってきた(図2)。ルネサスはカーエレシステムから判断して、ボディ制御に使われるECUが最も多いことに注目した。これまで、ボディ制御は8ビットマイコンでパワーウィンドウやワイパーなどを制御していたが、クルマメーカーはもっとインテリジェント化を求めていることがわかった。例えばワイパーは、スイッチを入れればモータを駆動して動くという、これまでの単純な動作ではなく、雨を検出して自動的に動く、あるいは異物が窓にくっついていればゆっくりと動かす、というような賢い動作に切り替わりつつある。


図2 ボディ制御には大量のECUを使う 出典:ルネサスエレクトロニクス

図2 ボディ制御には大量のECUを使う 出典:ルネサスエレクトロニクス


一方、ボディ制御用の8ビットマイコンなどのデバイスをまとめて1チップ化しようという動きもある、と同社自動車システム統括部自動車制御システム技術部の小林克衛担当部長は言う。それも従来ならCANやLINといったデータレートの遅い通信規格で十分だったが、同時にさまざまな動作をマイコンで処理するとなると、Ethernet通信をはじめ、それらを制御するための32ビットアーキテクチャを用意する必要が出てきた。

そこで、今回、32ビットのフラッシュマイコンRH850ファミリを製品化した。RHのRはルネサスだが、HはHigh performance、High scalability、High reliabilityの三つのHから採ったものだという。自動車向けに高信頼性は言うまでもないが、ローエンドからハイエンドまでスケーラブルに拡張できるようにするためフラッシュメモリ構成や周辺回路、I/Oピンを変えられるようにした。

RH850/F1シリーズは3つの基本ファミリからなる;低消費電力のRH850/F1L、ミッドレンジのRH850/F1M、高性能重視のRH850/F1Hである。このシリーズの中でも低消費電力のRH850/F1Lの要求が最も強いため、製品化の先陣を切った。2013年第1四半期からサンプル出荷を開始し、2014年に量産を開始する。2015年度には月産300万個を見込む。F1HおよびF1Mは2013年終わりから14年にかけて順次発売する(図3)。


図3 RH850/F1シリーズの主要3製品ロードマップ 出典:ルネサスエレクトロニクス

図3 RH850/F1シリーズの主要3製品ロードマップ 出典:ルネサスエレクトロニクス


RH850/F1Lは、40nmプロセスを使い、「低リーク電流トランジスタ」を採用したという。HKMG(高誘電体材料+メタルゲート)プロセスかどうかは不明だが、フラッシュメモリ部分は、これまで実績のあるMONOS構造を採る。CPUコアの性能は2ドライストーンMIPS/MHz以上であり、消費電流は0.5mA/MHzとライバル製品の1/3だという。最小48ピンから176ピンのQFPパッケージを用意している。

消費電力の削減には、プロセス技術だけではなく、回路技術も使っている。一つはIC全体の回路を大きく二つに分け、絶えず動作しているAWO(always-on)領域と、不要な時は電源を切っておくISO(isolated)領域とに分けた。動作時は全てに電源が入っているが、超低消費電力モード時はISO領域の電源を切っておく。超低消費電力モードは動作モードの1/1000の電力だとしている。この方式は、スマートフォンやタブレットのアプリケーションプロセッサの低消費電力化技術として使われている。

さらにAWO領域でさえも、電源を入れっぱなしにしている訳ではなく、周期的にパルス動作を行うデューティ比の考え方を採り入れている。この回路は、例えばキーレスエントリでドアのカギを開ける時に電波を受信できるようにしておくためのものだ。自動車メーカーの仕様によってデューティ比が決まるため、オンとオフの比率は明らかにしないが、動作は数100μs程度で受信回路を動かしているようだ。キー入力の電波が飛んでくると受信回路が働き、タイマの割り込みが入りCPUが起動する。CPUが起動するまでのレイテンシは数msオーダーであるため、運転手にはずっと動作しているように見える。

ルネサスはこの40nmプロセスのマイコンを那珂工場で生産する。マイコンのようなプログラマブルICは、受注段階から開発環境も揃えなければならない。同社は、統合開発環境CubeSuite+とオンチップデバッギングエミュレータE1、フラッシュメモリプログラマを提供すると同時に、自動車のソフトウエア規格Autosarに準拠するソフトウエア製品もサポートしていく。これまでのところ、海外からの受注が圧倒的に多く、15年の量産時期でも海外比率は7割程度ではないかとみている。

ルネサスはクルマを中核事業の一つと見ており、クルマのソリューションプロバイダになる、と同社自動車システム統括部の金子博昭統括部長はその意気込みを語る。

(2012/09/28)

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