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FPGAの低コスト技術、時分割3次元デバイスの米Tabulaが日本オフィスを開設

Xilinx(ザイリンクス)のFPGA、Vertexシリーズを指揮、3次元メモリーのMatrix Semiconductor(San Diskが2005年に買収)のCEOを務め、革新的なデザインで名をはせたメモリーメーカーのMostek社でスマート(賢い)エンジニアと呼ばれた、Dennis Segers氏率いる米Tabula社(参考資料1)が日本オフィスを開設した。

Tabula社(タビュラと発音)が設立されたのは2003年。ケイデンス社(Cadence Design Systems)社でCTO(最高技術責任者)を務めていたSteve Teig氏が起業し、2006年にDennis Segers氏をCEOとして迎え入れた。全く新しいアーキテクチャのFPGA、ABAXシリーズを出したのは2010年である。この40nmデザインのFPGAが同社最初の製品となった。

同社は米国カリフォルニア州サンタクララ(インテル社のある地域)に本社を構え、従業員がまだ100名強という小さなベンチャー企業にすぎない。これまでベンチャーキャピタル(VC)から投入された資金は3回に渡って合計1億600万ドルになったが、今年になってさらに1億800万ドルを追加出資させることで本格的にビジネスを立ち上げた。この資金を使い日本オフィスを設立した。米国のVCはビジネス立ち上げまでに数回に渡って資金を提供するが、有望ではないと見ると出資を断ち切る。Tabulaは今年が4回目の出資だということであるから、米国のVCは有望と見ている。

このABAXは、時分割3次元FPGAという技術が新しい。これまでのFPGAの最大の問題はチップ面積が大きくなってしまうことだった。FPGAは配線接続情報をSRAMで実現する訳だから、チップ面積が大きくなってしまうのは当たり前。このためプロセスには微細化を要求していた。TSMCなどのファウンドリが開発する最初の先端プロセスは常にFPGAメーカーが利用してきた。プロセスドライバはFPGAといえる。一方、高価な最先端の微細化技術、大きなチップ面積、ということを加味するとコストは高い。

ABAXは、FPGAでありながらリコンフィギュアラブル構造になっている。極めて高速の時分割を利用して回路規模やLUT(ルックアップテーブル)数を増やすのである。時分割の数を例えば3分割なら理論的には3倍の集積度のFPGAを実現できる。手順として、例えば2100個のLUTロジックを実行した後、最初のロジックを全て白紙に戻し、次に別の2100個のLUTロジックを実行する。再びロジックを白紙に戻し、3回目のLUTロジックを実行する。


図1 時分割によって回路規模を安価に上げるABAX 出典:Tabula

図1 時分割によって回路規模を安価に上げるABAX 出典:Tabula


模式的に図を書くと図1のように時間的な3次元でロジック数を増やしていることになる。チップ面積は小さなままですむ。演算するロジックの構成やデジタル回路によって優位性は異なるが、信号をサンプリングするような時間軸を考慮した信号処理には圧倒的な優位性がある(図2)。Tabula社日本オフィスのシニア・マーケティング・ディレクターである荒井雅氏によると、「FPGAは通常、回路の10~15%程度しか動作させていないため、時分割で少しずつ回路を構成していくことが可能だ」としている。最大可能な分割規模は8分割程度だという。チップ面積は従来のハイエンドFPGAの数分の1ですむ。このため価格は、数分の1ですむことになる。


図2 FPGAよりも回路規模、性能を増加できる 出典:Tabula

図2 FPGAよりも回路規模、性能を増加できる 出典:Tabula


この方式の詳細は語らないが、いかに高速に切り替え、ロジック演算あるいはLUTを割り当て、演算させるか、そのアルゴリズムであろう。マルチスレッドプロセッサのスケジューリング機能とよく似ており、どのジョブをどう割り当てるか、にノウハウがある。

この新しいFPGAの狙う市場は大規模ハイエンドのテレコム市場。通信トラフィックの増大に対して少しでも回線を太くすることが求められており、一般消費者が音声から画像、映像、しかもより鮮明な映像へと要求が続く限り、大規模なFPGAが求められる。荒井氏によると、NTTから基本仕様が与えられても、デザイン変更は100回にも及ぶことがあるという。だからプログラム可能で汎用的なデバイスとしてFPGAしかない。テレコム以外にも放送映像機器/マルチファンクショナルプリンター、CTスキャナー/MRI等の医療機器などの応用を狙う。

FPGAは民生機器でも使われている。液晶テレビなどのタイミングジェネレータはASIC等で作製できない。というのは、テレビのインチサイズが違うとASICだとゼロから設計し直さなければならないからだ、と荒井氏は言う。基本構造をASIC、変更可能な仕様をFPGA、という、ASIC+FPGAのシステムで作っておけばFPGAのプログラムを変更するだけで新しいインチサイズのテレビにも対応できる。ここに最大の案件である低コスト技術が加わるとビジネスチャンスが広がってくる。TabulaのABAXはまさにFPGAの低コスト技術である。


図3 ABAXの開発ツールStylus 出典:Tabula

図3 ABAXの開発ツールStylus 出典:Tabula


FPGAのようなプログラムデバイスは、開発ツールの出来不出来がビジネス成功のカギを握る。Tabulaは開発ツールStylusをクラウドコンピューティングを通じて提供する。RTLでのシステム設計を終えた後、Stylusを使うと、RTLデータの合成、配置・配線、configライターを経てビットストリームを出力する(図3)。従来のFPGAのRTLデータから以降の処理をStylusが行うという訳だ。クラウドを利用するのは、ユーザーによって開発ツールのバージョンがまちまちで各社ごとにバージョンを揃える手間が大変だからである。クラウドを利用すればどのユーザーでも最新のバージョンをダウンロードできる。半導体メーカー側の負担は大きく軽減される。Tabulaはこの開発ツールを無料で提供するとしている。

参考資料
1. 好調な電子部品・重電企業の決算と、新聞に初登場した注目の半導体Tabula社 (2011/05/23)

(2011/06/23)

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