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SiCパワーMOSFETの新市場は急速充電スタンド

パワー半導体のSiCがコスト高の点でその採用が遅れている。SiC パワーMOSFETは超高電圧用途などですでに使われているが、電気自動車(EV)にはコスト高でインバータにはまだ採用されていない。量産という点でSiCの救世主となりそうなのが、EV用の急速充電器での採用だ(図1)。急速充電器はクルマに搭載したバッテリパックに高圧をかけて電荷を電池に送り込む。

図1 SiCパワーMOSFETを実装した急速充電スタンド 大容量バッテリ搭載のEV車を10分程度で80%充電できる スペインの街で実証実験中 出典:Ingeteam、bigD


EVの泣き所の一つが急速充電である。EVはガソリン車と比べて走行距離が短いため、大量のバッテリを搭載して走行距離を稼いでいるのが現状だ。日産自動車の「リーフ」の初期のモデルや、BMWの「i3」のような第1世代のEVのバッテリ容量は33kWh程度しかなく、1回の充電で240km程度しか走行距離が伸びなかった。最近発表されたトヨタ自動車のEVレクサス「UX300e」は400km走行できるというフレーズだが、54kWhという大きなバッテリを搭載している。同様に日産の最新SUVのEV車「アリア」では最大65kWhのバッテリを搭載、走行距離は最大450kmとなっている。90kWhのバッテリだと610kmの航続距離だ。EVメーカーのTeslaのクルマは最初から大きなバッテリを搭載するバッテリのプラットフォームを考えた設計であり、走行距離不足の問題をあまり感じさせなかった。

要は、走行距離を伸ばすためにバッテリ容量をひたすら大きくしてきた。ところが反面、バッテリが大きくなった分だけ車体は重くなり充電時間も長くかかるようになった。夜間に充電すればよいという考えもあるが、自宅に充電装置を導入するためのコストが余分にかかる。

そこで街にある充電スタンドで充電時間を短縮しよう、という考えが急速充電器だ。スマートフォンではすでにその規格が策定され、急速充電器が普及している。この用途ではGaNのパワー半導体(HEMT)が普及し始めている。高電圧をかけると共に充電器を従来並みの大きさに収めたいからだ。

計測器メーカーのKeysight Technologyは、先日開催した同社のTechnology Worldにおいて、急速充電器の測定器「SL1047A Scienlab CDS High-Power」を発表した。この充電測定器を使えば、高出力充電中のテストや相互接続性の確認に必要なテストを世界中の充電標準規格に基づいて行うことができる。同社は、急速充電器がこれからのEV充電スタンドに求められるとして、そのロードマップを描いている(図2)。


High-Power &Fast Charging is MEGA Trend

図2 Keysightが描く高速充電のロードマップ 出典:Keysight Technology


現在、普及している充電スタンドは50kW(500V×100A)、あるいは150kWでは、電圧が500Vしかないため、急速充電は難しい。EV車のバッテリは300〜350Vまで昇圧しているため、500V程度の充電電圧では急速には充電できない。これを400kW(1000V×400A)にすると10分程度で80%充電(満充電の80%まで)が可能になる。このためには、1000V、400Aを出力するためのパワートランジスタが必要になる。そこで、SiCが有望だという訳だ。

SiC MOSFETを量産しているInfineon Technologiesは、すでに急速充電スタンドの実証実験を行っており、ここに自社のSiCパワーMOSFETを搭載している。InfineonはスペインのパワーエレクトロニクスメーカーIngeteam、および充電スタンド企業Repsol、充電技術サービスIBILとチームを組んだ。Infineonが提供するSiCパワーMOSFETは、CoolSiCと呼ばれるチップで、EasyDUAL 2Bパッケージ(図3)にハウジングされている。このSiCパワーモジュールにはデュアル構成の1200V、オン抵抗6mΩのSiC MOSFETとNTC(Negative Temperature Coefficient)温度センサを集積している。


Infineon CoolSiC MOSFET Easy2B

図3 InfineonのSiC パワーMOSFETを2個実装したパッケージEasyDUAL 2B 出典:Infineon Technologies


このモジュールパッケージが充電装置1台に8個ずつ組み込まれている。急速充電器にはIngeteamが手掛ける400kW出力のコンバータINGEREV RAPID ST400が搭載されている。実証実験は、2019年10月にスペインのビスケー湾近くの小さな都市、アバント・イ・シェルバナ市内にあるEVトラック用のドライブインの充電スタンドで進められてきた。この充電スタンドでは、交通量の多い高速道路A8号線沿いに4台の超急速充電装置が設置されており、EVトラック4台を同時に充電できる。この実証実験を通して、利用可能な電力の最適な分配が実現され、充電開始からほとんど充電能力が落ちることなく、スムーズに充電ができた、とこのほどその成果を報告した(参考資料1)。

参考資料
1. 欧州で最もパワフルな400kW級DC充電装置:CoolSiCで超急速充電スタンドを実現 (2020/07/08)

(2020/09/08)

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