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ET & IoT Technology 2019(1)〜クルマの仮想化時代が来る

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CPUやメモリ、ストレージ、I/Oインターフェイスなどからなる組み込みシステムに送受信機をつけるとIoTデバイスになる。ET(Embedded Technology)展がIoT展を組み込んでから数年経った。ETはクルマ用のECUから、データセンターのような仮想化技術にまで進化してきた。2019年11月に開催された展示会はクルマの仮想化時代を示した。

組み込みシステムとは、CPUやメモリ、ストレージ、I/Oインターフェイスなどコンピュータと同様な構成要素を持ちながらコンピュータではないシステムのこと。IoTデバイス(エッジ)は組み込みシステムにトランシーバ(送受信機)を取り付けたもの。ハードウエアだけではなく、ソフトウエアも重要な部品となっている。クルマのECUという組み込みシステムでも、データセンターと同様に仮想化システムが導入されそうだ。

ECUは高級車では80〜100個搭載され、大衆車でも30〜40個搭載されていると言われている。ECUをいくつかまとめて、仮想化技術を導入することで、クルマの電子化をもっと小型・軽量なシステムに転換できるようになる。ET & IoT Technology 2019では、クルマの仮想化に向けたテクノロジーが登場した。

仮想化には多種類のOSも独立して動かす

リアルタイムOS(RTOS)製品Integrityを持つGreen-Hills Softwareは、これまで1億7500万台〜2億台のクルマに実装されているという。クルマのように高速で走行するシステムにはリアルタイムで動作に必要なRTOSは欠かせない。加えて仮想化には、各OSやCPUを振り分けるハイパーバイザも追加で3000万台のクルマに搭載されているという。仮想化とは、1台のコンピュータをまるで数台のコンピュータが独立して動いているように見せかける技術のことである。RTOSに加え、LinuxやAndroidなどのOSを独立に動かし、さらにセキュリティの確立したコンテナを搭載する。クルマ用ではECUをいくつか束ねる技術と考えてよい。

仮想化の例として、今最も要求が強いのは、センサフュージョンだ。クルマでは、CMOSカメラにレーダー、Lidarなどのモノを見るという3種類のADASセンサで、しかもそれぞれ台数も多い。このためセンサフュージョンで多数のセンサからのデータの意味を理解し、ADASシステムで判断することが重要だが、Green-Hillsは2019年に多くのデザインインを勝ち取ったという。ISO26262のASIL-D認定も取得した。


図1 EVだけのレース、フォーミュラEに参戦するMahindraのクルマ

図1 EVだけのレース、フォーミュラEに参戦するMahindraのクルマ


Green-Hillsは長年ルネサスエレクトロニクスのSoCをサポートしてきたが、その一つR-CarチップにはIntegrityを搭載している。機能安全やコックピットなどのメータやパネルを1チップにして低価格を図っている。国内でGreen-Hills製品をサポートしてきたのはADaC社であり、1992年以来だとしている。

ET 2019ではインドのMahindra Racing Teamの実車を展示した(図1)。これは電気自動車だけのオートレースであるフォーミュラEに参戦しているクルマだという。

加Wind Riverと日本のAPTJとのコラボ
 
クルマ用のソフトウエア開発ではクルマ独特の仕様が含まれるため、それを網羅して標準化した総合的なソフトウエアがAutosarである。Autosarを組み込んだソフトウエアプラットフォームJulinarをクルマ関連企業と共同開発した名古屋大学の教授でAPTJ代表取締役会長兼CTOの高田広章氏は、これからのクルマ用ソフトウエアを開発するためには、仮想化技術を組み込んだAdaptive(適用型)Autosarをプラットフォームとして開発する必要があると考え、このほどWind Riverと提携した。

Wind Riverは、RTOSであるVxWorxで36%の市場シェアを持ち、商用の組み込みLinuxでは52%のシェア、仮想化に欠かせないハイパーバイザでは25%というシェアを持つ。Wind Riverの仮想化プラットフォームHelixは、その上にLinuxやAndroid、VxWorxなどのOSを載せ動かすことができる(図2)。この上にクラシックAutosarや新しいAdaptive Autosarを動かし、それぞれがアプリケーションを動かせるようにする。


Helix Virtualization Platform 構成図

図2 Wind Riverの仮想化ハイバーバイザHelixを利用したAdaptive Autosarのイメージ 出典:Wind River


両社の提携により、Adaptive Autosarを開発していく。複数のECUを統合化する場合でもソフトウエアの仮想化を利用できるようになる。従来のソフトウエアを再利用し、Autosarクラシックも利用できるうえに、マルチコアCPUによる新しいソフトウエアの仮想化にも対応できやすくする。Autosarの仮想化プラットフォームともいえるAdaptive Autosarソフトウエアプラットフォームの開発を目指す。

APTJはAutosarベースのプラットフォームの研究開発会社だが、あいにく日本のパートナーしかいない。高田氏は、国際的に強いWind Riverと組むことでグローバル市場へも打って出ていける、という提携のメリットも考慮している。

ImaginationがGPUのIPで仮想化

仮想化の手法は、GPUのIPにも採り入れられている。英国のIPベンダーであるImagination Technologiesは、GPUのIPコアを仮想化し、GPUとして用いたり、NNA(Neural Network Accelerator)として用いたりできることをデモで見せた。

同社のGPUコアであるPowerVRにおいて、2017年に発表されたシリーズ2NX NNAは今年チップ化され、中国Unisoc社(旧Spreadtrum社)のアプリケーションプロセッサに集積され、そのスマホが間もなく発売されるようだ。また、華為科技のアプリケーションプロセッサKirinにも集積され、推論処理の速さでトップレベルを誇るという。

ETでのデモは、写真の上にAR(拡張現実)を被せるようにスケルトンを表示したり、サラウンドビューモニターでは4台のカメラ画像の合成にグラフィックスを用いるが、この画像と周囲の物体との距離結果を色で表示したりするようなデモであった(図3)。サラウンドビューでは4台のカメラからクルマをグラフィックス表示すると同時に、周囲の物体を認識すると色で示す。オレンジ色なら物体を、黄色なら人間をそれぞれ認識する。


図3 ImaginationのPowerVRの仮想化技術により、クルマのグラフィックス(GPU)と認識物の色分け(NNA)を識別する

図3 ImaginationのPowerVRの仮想化技術により、クルマのグラフィックス(GPU)と認識物の色分け(NNA)を識別する


Imaginationは、昨年12月に発表した第3世代のNNAを現在サンプル評価中だとしている。今回は、FPGAに実装して、顔認識をデモした。今回は、学習データを圧縮してデータ量を6〜8割に軽くすることで、スピードを上げた。FPGAは機能を実証するだけだが、消費電力はmWレベルになりそうだという。

参考資料
1. ET & IoT Technology 2019(2)〜IoTネットワークでBluetoothの応用広がる (2019/12/04)

(2019/12/03

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