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半導体設計のモデル化技術をコアにデジタルツインを目指す

半導体シミュレーションの経験を聞かし、デジタルツインを実現しようとするEDAベンダーが登場した。これまでLSI設計に使うモデルを開発してきたモーデック(MoDeCH)は、多数のモデルライブラリを揃えており、クラウドベースのSaaSをはじめとするモデルのプラットフォーム「Model On!」を開発、サービスの提供を開始した。

図1 モーデック代表取締役社長の嶌末正憲氏(右)と本垰秀昭氏(左)

図1 モーデック代表取締役の嶌末正憲氏(右)と取締役の本垰秀昭氏(左)


「これまでのモデルベンダーからの脱皮を図るのが、今回の新事業である」。こう語るのは、同社代表取締役の嶌末政憲氏(図1)。同氏は国内EDAでの経験が豊かな本垰秀昭氏を2017年に取締役に迎え入れ、モデリングを中核とするAI/エコシステムのソリューションベンダーへの脱皮を図っている。新事業の中核となるデジタルツインを構築する顧客と共にエコシステムを提供し、デジタル化を進めていく。

デジタルツインとは、現実の工場や製品そのものをシミュレーションだけで人や製品の流れを表現し、工場レイアウトや作業者の適正な配置、あるいは製品そのものをコンピュータシミュレーションだけで、瓜二つのモノやコトを表現しようというものだ。すなわち、デジタル技術(シミュレーション)を使って現場と同じものを実現するためデジタルツインと呼ばれている。正確なシミュレーションであれば、モノを試作したり現実の工場を動かしたりする前に、予めモノや動きを評価できる。半導体設計では、ずっと以前から使われてきた概念だ。

半導体以外では、クルマの衝突シミュレーションが好例だ。実際のクルマを壁に衝突させてどのくらいの衝撃があり現実のクルマのどこがどう壊れるかを評価する衝突実験は、昔は実際のクルマを何台も壊していた。これをシミュレーションで表現することによって、最低限の数のクルマを壊すだけで済ませることができるようになった。

半導体設計のシミュレーションでは、RTL(register level transfer)出力を得て論理設計が完了した後に、トランジスタ同士を接続するためのネットリストが必要になる。ここではアナログ回路技術の知見を活かすSPICEシミュレータが威力を発揮する。モーデックはネットリストをモデル化し、さまざまなパラメータを加え、シミュレータに提供してきた。

同社は、これまでの半導体だけではなく、プリント回路基板でのモデル、そしてカーエレクトロニクスのようなシステムのモデル化まで手を広げてきた。次に来るのがデジタルツインという訳だ。デジタルツインは、製造業だけではなく、スマートシティやスマート社会にも展開できる。実際にモノを作る前にモデル化してシミュレーションを徹底的に行うことで開発期間を短縮する。


ソリューション:モデリングを中核としたAI・エコシステム/MoDeCH

図2 モデル開発会社を中心にエコシステムを構築する 出典:モーデック


半導体を含めたモノづくりでは、半導体や電子部品のサプライヤーと、それらを設計するEDAベンダー、半導体を使って電子機器を製造するユーザーというグループがエコシステムとして存在するが、実はモデルを作る専門家はほとんどいない。モーデックはモデルを作る数少ない専門家の1社である(図2)。サプライヤーは部品製品を売ることがミッションであり、自分でモデルを作っても、その品質を保証するわけではない。また、EDAベンダーはソフト開発が専門だが、モデル開発の専門家ではない。モデルライブラリを準備はしているものの、品質や数量共に不足しているという。もちろんユーザーは製品の性能・機能を保証してもらうだけであり、モデルを作っている訳ではない。

これからのデジタルツインを実現するためのモデル作りを手掛けるモーデックは、Model On!プラットフォームを、SaaS(Software as a Service)、検索、クラウドの3種を用意した。これをEDAベンダーとパートナー契約を結びシミュレータにモデルライブラリをバンドルしてサプライヤーやOEMに提供しようとしている。サプライヤーとも受託契約でモデルを開発したり、モデリングソフトをライセンス提供したりする。ここでのユーザーをOEMと表現したが、シミュレーションに携わる企業や機関の部署などすべてが顧客となりうる。こういったエコシステムをビジネスの中核に据える。


Model On! AIシステム/MoDech

図3 AIを随所に組み込みモデル生成を自動化する狙い 出典:モーデック


同社は、これまでに8万種類ものモデルをライブラリとして揃えている。さらにモデルの種類を増やすためにAIを使って自動化することを狙っている。Model On! プラットフォームには、随所にAI(機械学習)を取り入れている(図3)。例えば、pdfに描かれている部品の特性図を画像データ化し、さらにそれを数値化して使えるようにする場合、モデル生成にAIを使うという。

例えば、進化的アルゴリズムと機械学習を使って、モデルを作成しようとしている。モデルのテンプレートを今はエンジニアが分類して作るわけだが、等価回路の中にモデル式を入れ、特性にマッチするパラメータ係数を最適化する必要がある。この最適化をAIにやらせようという。将来的には、モデルのテンプレートまでもAIに作らせたいと嶌末社長は語る。さらに、ユーザーがオンデマンドで独自のモデルが欲しいと言えば自動的にモデルを生成するシステムを目指す。

(2019/07/11)

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