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クルマのトレンドはACESで:カーエレ展2019(前編)

1月中旬、東京ビッグサイトで開催された国際カーエレクトロニクス技術展(図1)では、ACES(エースの複数を意味しエイシスと発音:Autonomy, Connectivity, Electrification, Sharing)に沿った新技術が続出した。カーエレクトロニクスでは安全を確保しながらコストを上げない技術の優先度も高い。

図1 国際カーエレクトロニクス技術展のひとコマ 東京ビッグサイトにて筆者撮影

図1 国際カーエレクトロニクス技術展のひとコマ 東京ビッグサイトにて筆者撮影


自律運転は、運転の楽しみを奪うものではなく、例えば長距離運転で疲れた時や、延々と続く渋滞でブレーキとアクセルを交互に踏み続ける気怠さなどの状態を補佐してくれる技術であり、事故を起こさないクルマが前提となる。このため人間の目の代わりとなるカメラだけではなく、目以上の働きを求めて濃霧や猛吹雪のような視界が悪い状態でも「見える」技術と言えるレーダーやLiDARも必要となる。

低コストの通信バス

もちろんカメラは、前後を見るだけではなく、サラウンドビューモニター用には4台必要。そして右ハンドルなら左前方の死角となる位置にも必要になる。複数台のカメラがマストとなれば、カメラからの画像データを通信するプロトコルを専用にして低コスト化を図る手もある。そこで、Analog Devices(ADI)は車内のカメラからの画像データをC2B(Car Camera Bus)と呼ぶ専用バスでECU(電子制御ユニット)やディスプレイまで送信する技術を提案した。

C2B専用バスラインはNTSCアナログ伝送のインフラを使える上に、重いシールド線を必要としないツイステッドペア(UTP: Unshielded twisted pair)ケーブルで最大720p/1080iの解像度の画像を送ることができる。フルHD画像は送信できないが、車内の小型ディスプレイを動かすECUへポイントツーポイント(P2P)で送るにはこれで十分であろう。C2B送信機も受信機もUTPラインも安くすむというメリットは大きい。最大30メートルまでの配線が可能で、I2CやGPIOなどの制御信号をサイドバンド信号でやり取りする。ADIは、映像データ伝送用のC2B送受信ICを提供する。

さらに高解像度の映像データやEthernet、USB2.0などの高速デジタルデータ信号を1本のライン(UTP)で送る場合には、HDBaseTが適している、と主張するのはイスラエルのファブレス半導体メーカーValens社だ。ここでは、マルチギガビット伝送が可能で、HDBaseTバス信号には、音声や映像、Ethernet、USB2.0、各種制御信号や電源の全てを1本のLANケーブルで100メートル先まで送ることができる。自動車だけではなく工場や企業内の映像伝送にも使われているという。

MEMSミラーのLiDARを試作

クルマの前方や周辺を見渡す目の役割として、LiDAR(ライダー;Light Detection and Ranging)がある。これは、レーザーのパルス光を照射して、当たった物体からの反射パルス光を検出することで物体との距離を測定する技術である。レーダーは電磁波を発射するのに対して、LiDARはレーザー光を照射する。原理はToF(Time of Flight)と呼ばれる技術で波の照射と反射の時間差を利用して距離を測る。

LiDARでは傾けた反射板(ミラー)にレーザー光を当て、その反射光を物体に照射するが、ミラーを回転させることで周囲の水平視野角を走査し、ミラーの傾斜角度を変えることで垂直の視野角を走査していた。これまではミラーと回転させるシステムが大掛かりで装置が大きくなっていた。そこで、Infineon Technologiesは小型化するためにMEMSミラーを開発、複数のレーザーで垂直方向を走査し、MEMSミラーを±15度水平に変化させて走査する駆動ICを開発した(図2)。これまでLiDARは、大型車や特殊なクルマに搭載されてきたが、このMEMSのLiDARだと低コスト、小型が可能になるため大衆車にも使われるようになる。


図2 Infineonが開発したMEMSミラーシステム 出典:Infineon Technologies

図2 Infineonが開発したMEMSミラーシステム 出典:Infineon Technologies


Infineonは、MEMSミラーとミラーのドライバIC、レーザー駆動IC、受光制御IC、自社のセキュアマイコンAURIXファミリなどを搭載したシステムを作りデモした。MEMSミラーは2016年にドイツとの国境近くにあるナイメーゲンに本社を置くオランダInnoluce社を買収して手に入れた。このMEMSミラーを動かすためのドライバICをInfineonが開発し、今回のデモにこぎつけた。

レーダー利用のバイタルセンサ

カーエレクトロニクスで使う24GHzのレーダーでは、これまで左右後方にある物体を検出するためのデモがあったが、24GHzのレーダーを運転手の健康状態(心拍数と呼吸回数)をリアルタイムでチェックする目的のMIMO(Multiple Input Multiple Output)レーダーセンサシステムをADIが提案した(図3)。このシステムでは、複数の乗客をカメラとAIで検出し四角い枠で囲い、さらに乗客の心拍数と呼吸数をレーダーで測定する。

図3 車内の運転手の健康状態をリアルタイムでチェックするADIのバイタルセンサモジュール""

図3 車内の運転手の健康状態をリアルタイムでチェックするADIのバイタルセンサモジュール


このデモでは2チャンネルの送信ICと、16チャンネルの受信ICを用いてレーダーモジュールシステムを作り、人間の検出や囲み(マーキング)、演算などのロジックにはFPGAを使っている。もちろん、このレーダーシステムもLiDARのように距離を測ることもできる。ここでは人間の心臓が血液を送り出すために収縮する時と膨張する時の差を距離として検出、呼吸も肺で息を吸い込む時と吐き出す時の差を検出する。従来のセンサシステムだとクルマの振動によるノイズの影響を受け、実際の測定がうまくいかないことが多いが、ADIのシステムはMIMOアンテナを使って、人との距離と方向をピンポイントで検出できるためノイズの影響をほとんど受けないという。この2送信×16受信のMIMO構成のmiRadar 32は2月に量産し、さらにもっと高解像度な16送信×16受信および32送信×32受信構成のmiRadar 256/1024は今年の9月に量産する予定である。

カーエレクトロニクスではこれまであまり使われてこなかったNANDフラッシュメモリにも新たに市場が開けるようになる。Western Digitalは、車載グレードのフラッシュストレージを提供する。車載規格のAEC-Q100のグレード2(-40~105°C)およびグレード3(-40~85°C)でUFS2.1準拠の組み込みフラッシュドライブiNAND AT EU312シリーズ(16/32/64/128/256GB)と、e.MMC5.1HS400準拠のストレージiNAND EM122シリーズ(8GB~64GB)のカードなどを紹介した。

参考資料
1. クルマのトレンドはACESで:カーエレ展2019(後編) (2019/01/23)

(2019/01/22)

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