Xilinx、AI向けのソフトウエアスタックを発表、優位性を実証

FPGAの最大のメリットは、論理回路をフレキシブルに構成し直せることである。カメラからの映像認識は、クルマの自動運転に欠かせないだけではなく、衝突回避し軟着陸できるドローン、協調性のあるロボット（コボット）、医療用画像処理や手術支援ロボットなどにも期待されている。

ディープラーニングには学習過程において、入力データと重みとの積を加えていく、積和演算を行うが、従来のハイエンドコンピュータだと64ビットのデータ長で処理している。しかし、これでは重すぎる。このため、演算ビットを半精度の16ビットあるいはもっと粗い8ビットまで落として計算する方が速く、しかも消費電力が少なくて済む。Googleが開発したディープラーニング専用のエンジンTPU（Tensor Processing Unit）には8ビット演算が多用されていると言われている。CPU方式では、64ビットあるいは32ビットから8ビットへ切り出すためには変換が必要でそのための回路をハードワイヤードで作るか、FPGAで作るか、という選択が必要になる。

一方、ディープラーニングではもっと速く簡単に学習させるためのアルゴリズム開発が求められる上に、さまざまなアルゴリズムや規格の変更が求められる。このような変更に対して、すぐ対応できるのがFPGAだ。もちろん、割り込み命令に対応できるCPUや、並列に同じ処理を行うのに適したGPUでも対応できるが、FPGAの方が簡単のはず。しかし、簡単にソフトを書くためのプラットフォームやツールがなかった。

XilinxのreVISIONは、Responsive and Reconfigurable Vision Systemsの略であり、図1に示すように、プラットフォーム開発、アルゴリズム開発、アプリケーション開発の3つのプラットフォームを含む。これらのレイヤーのソフトウエアを開発するためのツールである。AlexNetやGoogLeNet、SqueezeNet、FCNなどを含む最も一般的なニューラルネットワークをサポートし、画像認識によく使われるDNN/CNN（ディープニューラルネットワーク/畳込みニューラルネットワーク）の構築に必要なライブラリも提供する。

図1　AI向けのソフトウエアスタックの開発システム　出典：Xilinx

さらに、reVISIONのメリットには開発期間の短縮もある。アプリケーションの開発に対して、Xilinxはマシンラーニング向けのライブラリCaffeと、コンピュータビジョン向けのAPIのOpenVXを含む業界標準のフレームワークもサポートしている。このため、reVISIONを使うと開発期間が大幅に短縮する(図2)。

図2　reVISIONで開発期間を大幅に短縮する　出典：Xilinx

競合するGPUや標準的なSoCと比べて、XilinxのFPGA内蔵SoCであるZynqシリーズにreVISIONを組み込むと性能はアップする。マシンラーニングでは6倍優れた画像枚数/秒/W、コンピュータビジョン処理では42倍高速のフレームレート(フレーム数/秒)、さらにリアルタイム応用では、1/5のレイテンシ(ms)という性能の優位性が見られたとしている。reVISIONスタックの供給は2017年第2四半期を予定している。

今後、Xilinxは8ビットから4ビット、2ビット、1ビットへと、精度を可変できるように学習と推論を発展させていく。これもFPGAが得意とするところだ。現在は自動運転向けの画像処理・映像処理のためのマシンラーニングに特化しているが、今後はさらに加速度センサやジャイロセンサ、超音波センサ、レーダー、IR、LIDARなどさまざまなセンサからのデータを処理し、クルマの動作を瞬時に判断・制御するためのセンサフュージョン機能が付くことになる。そのような場合でもFPGAなら再構成できるため、FPGAにとってAIは新しい市場になりそうだ。