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NI、プラットフォーム戦略を追求して40年、さらに磨きへ(後編)

National Instrumentsが主催したプライベートイベント、NIWeek 2016(参考資料1)では、昨年の同じイベントで方向性を打ち出した、IIoT(工業用IoT)と5Gの具体例を紹介した。IIoTでは、データ解析にマシンラーニング(人工知能:AI)を使い始める例が数件あった。IoTはAIとの組み合わせがメジャーになりそうだ。

図1 Flowserve社がデモしたIIoTシステム

図1 Flowserve社がデモしたIIoTシステム 工業プラントの配管や液体ポンプなどにIoTデバイスを設置し稼働状態をチェックする


予兆を知るIIoT
IIoTの典型的な応用の一つとして、石油化学プラントや火力発電所などにおける予兆メンテナンスがある。これまでのように予期しなければダウンタイム(故障・修理時間)が起きた時の損失は大きく、2015年に米国で200億ドルもの損失を招いたという。IoTを使ってモニターするだけではなくフィードバックも重要で、稼働時間を可能な限り伸ばしていく。

最も典型的な例として、ポンプやバルブ、シール、油圧などの部品やシステムを供給するFlowserve社は、NIとPTC、Hewlett-Packard Enterprise社と共同で、IIoTシステムを構築した。顧客のプラントの配管やポンプの近くにIoTデバイスを取り付け、温度や圧力、流量、振動、パワーなどを計測しデータを解析する。データ量は2.5MB/秒で取り込むという(図2)。データ解析にはPTC社のソフトウエアプラットフォームThingWorxを利用しマシンラーニングよる解析を目指す。HPEはエッジコンピュータEdgeline 4000あるいは1000を提供する。コンピュータは64コアのXeonプロセッサシステムからなるハイエンドのコンピュータシステムである。


図2 Flowserve、NI、PTC、HPEのコラボによるIIoTシステム 出典:National Instruments

図2 Flowserve、NI、PTC、HPEのコラボによるIIoTシステム 出典:National Instruments


NIの設計テストツールLabVIEWでシミュレーションを行い、ハードウエアシャーシCompactRIOを使ってこれらのデータを計測する。センサからのデータをモニターし、予め設定しているしきい値と比較し診断する。許容範囲内だとグリーンランプが点灯する。しかし許容範囲から逸脱するとアラームが鳴る。今回開発したシステムではAR(拡張現実)技術も組み入れた。スマートフォンやタブレットでフローシステムの映像を映しながら2次元バーコードを読み取ると、最新のゲームソフト「ポケモンGo」のようにポケモンに相当するIoTデバイス部分がグラフィックスで表示され(図3の黄色い帯の部分)、温度や流量などの数値をセンサごとに示す。


図3 システム内のセンサのデータをARで表示

図3 システム内のセンサのデータをARで表示 図1のモータ上にある2次元コードを読み取ると、スマホやタブレット上にセンサ部分(黄色の帯状データ)が浮かび上がる。その画像データをPCに転送したもの。


アラームが鳴るとポンプを止め、内部をチェックし診断を下す訳だが、今回センサ(IoTデバイス)の近くを調べると、アラームを出したセンサの50%は日常的な揺らぎであって異常ではなかったという。このため、次のシステムソリューションにはNIのCompactRIOを多数追加しAIのマシンラーニングを使って、センサデータのパターンを認識できるようにし、さらに故障するまでの残りの稼働時間を予測できるように持っていきたい、とFlowserve社R&D担当VPのEric van Gemeren氏は述べている。

128本のマッシブMIMO
第5世代の携帯通信システム(5G)では、データレートが最大10Gbps以上とこれまで光ファイバで実現していたスピードを、ワイヤレスの携帯通信で実現しようとしている。これだけ速いとARは簡単にできるはずとNIのRF and Communicationsマーケティング担当ディレクタのJames Kimery氏は言う。しかも応答は速く、遅延はわずか1ms以下というほぼリアルタイムでなされる。そのための技術的課題は簡単ではない。マッシブMIMO(Multiple Input Multiple Output)やミリ波、ビームトラッキングなど新しい技術の導入なしでは実現できない。

LabVIEWを使ってコンセプト試作品をテストするために、SDR(ソフトウエア無線)技術を使ってさまざまなモデム方式に対応できるようにしようとした。そこで、NIはSDR専門メーカーのEttus Researchを買収した。Ettus社はSDR装置USRPファミリーを揃え、ムーアの法則に沿って微細化した半導体を使って筐体の装置からモジュールにまで小型化を図ったという。

5Gの実験にはマッシブMIMOを使うが、さまざまな変調方式にはSDRで対応したマッシブMIMO装置を試作したのが、スウェーデンのLund大学と英国のBristol大学のチームであった。マッシブMIMOは、基地局に多数のアンテナを設置し、空間的に多重化を図りさまざまな端末に電波を届けられるようにする技術だ。彼らは128アンテナを持つマッシブMIMOを、NIのLabVIEW Communications 2 MIMOアプリケーションフレームワーク(図4)を使い、実験装置を試作した。


図4 128アンテナのマッシブMIMOを実験したNIの測定器USRP RIOとソフトウエアツールのMIMOアプリケーションツール 出典:National Instruments

図4 128アンテナのマッシブMIMOを実験したNIの測定器USRP RIOとソフトウエアツールのMIMOアプリケーションツール 出典:National Instruments


実験したマッシブMIMOは、NIが提供するハードウエアのUSRP RIO(ソフトウエア無線を利用するRF回路のテスト用ハードウエア)を64台配置し、それぞれにアンテナを2本ずつ設けたもの。さらにNI が最近発表したソフトウエア無線ハードウエアプラットフォームであるMIMO アプリケーションフレームワークやPXI(PCI eXtentions for Instrumentation)ハードウエアと組み合わせた。MIMO アプリケーションフレームワークは、MIMO 通信システムに向けたアルゴリズムの開発や、カスタムIP(Intellectual Property)の開発を支援するツールでもある。

実験の結果、20MHz帯のLTE通信を用いて、145.6ビット/秒/Hzという結果を得た。これは現在の4Gネットワークの22倍のスペクトル効率だとしている。

参考資料
1. NI、プラットフォーム戦略を追求して40年、さらに磨きへ(前編) (2016/08/04)

(2016/08/17)

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