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衛星からの同期信号で地産地消を目指すデジタルグリッド

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「電話ビジネスが黒電話時代、5兆円の市場だったのが30年後の今、84兆円の市場に拡大した。ここにはインフラの破壊的発展があった。これと同じことを電力分野で自由化すれば、市場は爆発する」。東京大学総括プロジェクト機構兼技術経営戦略学専攻特任教授の阿部力也氏は、第3回GPICシンポジウムでこのように述べた。

ただ自由化すればよい訳ではなく、破壊的なイノベーションが欠かせないという。現在のスマートグリッドやマイクログリッドだと、系統送電網の周波数と電圧が変動したら電気的な制約を受ける。もし、系統網で電力の消費量が発電量を上回るような状態が起きると、スマートグリッド側の発電を増やすように無効電力、すなわち電力潮流が起きる。そうなると停電せざるを得なくなる。系統網に対してローカルなグリッドが影響を受けないようにするためにはグリッドの自立が必要とする。これが同氏の主張するデジタルグリッドである。

電力網では、火力発電所から原子力発電所、水力発電所、さらには再生可能な太陽と風力など、さまざまな発電所がある。電気はある場所で起こせば、別の場所で消費しなければ不安定になる。このため、発電したら必ず使うか貯めるかしなければならない。再生可能エネルギーは変動が極めて激しい。太陽光は夜には全く発電しない。風力は風任せである。そのような変動が大きな電源が基幹系統網に加わると、電力潮流を起こしやすくなる。このため、現在の電力システムでは、再生可能エネルギーをむやみやたらと導入できない。九州電力が太陽光の買い取りをやめると言いだしたのは、このことが背景にある。

デジタルグリッドは、基幹系統から電力を切り離し手独立させ、地域ごとに発電と消費を調整するシステムだからこそ、周波数や電圧の変動を許容範囲内に抑えることができる。系統網に電力潮流を起こす心配がなくなると阿部氏は言う。では、どのようにして自立した電力網を形成するのか。阿部氏の提案する電力網は、地産地消を細かくすることで、ある地域で周波数と電圧が多少変動しても他の地域に影響を与えないようにすることだ。

では、地域内のいろいろな場所で発電する場合に具体的にどのようにして、電圧と周波数の同期をとるのだろうか。従来の電力系統では50Hz±0.2Hzの範囲に渡って消費を調整している。しかも需要を見ずにともかく周波数の変動を抑えているという。阿部氏は、一地域に複数存在している発電所において、それぞれインバータで周波数を制御する場合、そのパルス波形の位相のズレを抑えるために、人工衛星のGPS信号を同期信号の基準に使うべきだと提案する(図1)。最近ではGPSよりもさらに位置精度の高いGNSS衛星が使えるようになりつつある。


図1 衛星からの信号によって複数インバータの同期をとる 出典:東京大学阿部力也教授

図1 衛星からの信号によって複数インバータの同期をとる 出典:東京大学阿部力也教授


基幹系統から引き込むマイクログリッドネットワークには、各マイクログリッドにルーターを設け、それぞれにIPアドレスを付与する(図2)。このようにすると、阿部氏が以前から提案していたデジタルグリッドの現実解が実現可能かどうかの課題であった、周波数・電圧の確立、基幹系統からの独立した非同期接続、複数発電機の同期の確立などが解決できるようになる。


図2 マイクログリッド内もAC-DC/DC-ACの変換器を付け独立性を保つと、電力を融通し合える 出典:東京大学阿部力也教授

図2 マイクログリッド内もAC-DC/DC-ACの変換器を付け独立性を保つと、電力を融通し合える 出典:東京大学阿部力也教授


デジタルグリッドルーターには1次側AC-DC、2次側DC-ACとして、いったんDCに変換してからAC電圧を変えるようにすれば、さらにマイクログリッド同氏を非同期で独立に制御できるようになる。マイクログリッド内には発電機(ソーラーや風力)と蓄電池を備え、できるだけ地産地消で電気を活用することで、独立性を高める。しかもマイクログリッドからマイクログリッドへも融通し合うことが可能になる。いったんDCに変換することで、周波数・電圧変動から独立させることができるからだ。

独立したマイクログリッドをネットワークで接続し、まるでインターネットのようにデータ(電力)を送受信できると、基幹系統に何ら影響を及ぼさないシステムができる。こうなると再生可能エネルギーだけで、日本の電力を賄うことができるようになる。さらに半導体産業にとっても大きな市場が開けることになる。インターネットの仕組みが電力グリッドにも使われるようになり、センサ、デジタルデータ伝送、ネットワークスイッチやプロセッサ、パワー半導体など半導体市場にとっても宝の山となる。そこにはサービスプロバイダも登場する余地ができ、ビジネスが拡大する。阿部氏は、「未来は自分で作るもの」と言う。まさに将来の日本の電力インフラを構成する青写真ができたといえよう。

(2015/11/04)

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