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センサが今後のモノづくりを変える〜少量・高価格から大量・低価格へ

「センサがこれからのモノづくりを変える」。こう述べるのは、オーストリアを拠点とするアナログ・ミクストシグナル半導体メーカーのams社のセールス&マーケティング担当上級バイスプレジデントのEric Janson氏。なぜセンサがそうなるのか。

図1 ams社の上級バイスプレジデントのEric Janson氏

図1 ams社の上級バイスプレジデントのEric Janson氏


MEMSで機械的な変位を電気に変換したり、光を電気に変換したりするセンサは、つい数年前まで工業用機器や自動車の一部などに使われていた。またセンサとは逆の働きをするMEMSアクチュエータは、インクジェットプリンタのヘッドやDMDプロジェクタなどに使われてきた。数量の多いインクジェットプリンタでさえ、年間出荷台数は7000〜8000万台しかなかった。MEMSチップの数をスマートフォンが変えた。スマホの出荷台数は2013年にはほぼ10億台。これまで少量・高価だったMEMSセンサが大量・低価格のセンサへと変身したのである。

センサの種類も増えた。スマホ1台の中にセンサは十種類以上搭載されている(図2)。タッチセンサ、加速度センサ(画面を縦から横に90度回転すると画像も一緒に回転する機能)、磁気センサ(電子コンパス)、近接センサ(スマホで通話しているときは画面を暗く、スマホを耳から遠ざけると画面を明るくする)、など豊富だ。マイクロフォンは、エレクトレットコンデンサマイクからMEMSマイクへと進展している。


図2 これからのスマホに使うセンサはもっと増える 出典:ams

図2 これからのスマホに使うセンサはもっと増える 出典:ams


スマホがセンサに与えたインパクトは、かつての工業用の高価なセンサから、スマホという民生用の応用製品をブレークさせたことで安価なセンサを作り上げたこと。これからは工業用途にも安価なセンサが大量に入っていくことになる。これは、IoT(Internet of Things)という大きな流れとも一致する。産業機械や製造装置などの工業製品や、自動車などにも大量のセンサを使える時代が到来した。これまで産業機械の一部にしか使えなかったセンサをさまざまな場所に取り付け、わずかな故障の兆候を見つけ部品を素早く交換できるようになる。これによって新しいビジネスモデルが使える。製品を販売して収入を得るだけではなく、故障しない機械を作ることで稼働率が大幅に上がりダウンタイムを削減できるため、時間単位の課金といった従量制ビジネスモデルを導入できる。ビジネスモデルまで含めたIoTの概念がIndustrial Internetと呼ばれるものだ。

加えて、スマホ自身にも今後多数のセンサが搭載される。図2の赤い文字で表された指紋センサや化学センサ、血圧センサなどがこれからスマホに使われるセンサだ。指紋センサはサムスンの最新モデルGalaxy S5にはすでに搭載されている。気圧や血圧などを測定する圧力センサは、今後スマホ用に伸びると予想されている。気圧測定により、誤差30cm程度で高低差を検出、GPSと組み合わせて、例えば3階か2階にいるのかを判別する。

さらにこれからスマホに搭載される多くの新機能は、ウェアラブルデバイス向けや、医療・ヘルスケア向けのセンサになりそうだ。血圧、血糖値、黄疸、皮膚の表面温度などを、リストバンドや腕時計型のウェアラブルデバイスで測定する。ウェアラブルデバイスが今後主流になるかどうかJanson氏は明言を避けているが、少なくとも今はスマホのコンパニオンデバイスという位置づけで見ている。

これからの産業用センサでamsが取り組んでいるプロジェクトには、スマートライティング、医療用、自動車、モータドライブなどがある。

スマートライティングの応用の一つを紹介する。一つの室内でも窓のそばと、窓から離れた奥の部分とでは明るさが違う。室内に複数の光センサを取り付け、明るさを検出し、LED照明への電流供給を変えることで、部屋中均一な明るさにできる。これにより省エネと快適な明るさを両立できる。エアコンでも同様に温度センサを多数取り付けることで、均一な温かさ/涼しさを実現できる。amsは今、コントローラ、LEDそれぞれの企業とスマートライティングシステムを目指しエコシステムを構築中だ。

医療の例として、CTスキャナー向けに光センサとA-DコンバータをTSV(through silicon via)で積層、集積することで感度を6dB上げたデバイスも同社は開発した。画像の解像度が8〜10%上がったことで、より精度の高い診断ができるようになったという。逆にこれまでと同じ解像度なら、照射するX線の線量を半減できるとしている。


図3 自動車に使われる磁気センサは多い 出典:ams

図3 自動車に使われる磁気センサは多い 出典:ams


自動車応用では、ホール効果を利用する磁気センサに力を入れている。磁気センサを使って機械部品の位置を検出する。例えばブレーキペダルの位置(ストローク)を正確に検出することで、素早いブレーキ動作を実現できる。自動運転には欠かせない。ブレーキやクラッチ、ギアボックス内での直線位置を最大50mmまで検出できるセンサ(図4)を持つ。また、回転軸外、軸上での回転制御のためのブラシレスモーター制御などにも使う。


図4 クラッチやブレーキを踏むと直線的に磁石が動くことで位置を検出 出典:ams

図4 クラッチやブレーキを踏むと直線的に磁石が動くことで位置を検出 出典:ams


その他の産業機器では、直線位置、回転位置を検出するために、磁気センサを利用するエンコーダや、ホールセンサを使う。amsはセンサだけではなく、センサ信号を増幅、A-D変換するためのインターフェースICも設計・製造している。また、化学分析には干渉フィルタを作り、光センサによって赤外吸収などのスペクトロスコピーを利用することで物質を検出する(参考資料1)。化学センサとして化学物質と直接反応させるのではなく、光吸収を測定することで物質を同定するため、信頼性を確保できる。

日本市場では、今や民生ではなく自動車と産業用が強いため、この二つの分野に注力していく。日本のユーザーは増え続けているとして、デザインセンターを強化する方針だ。一人一人をリクルーティングするよりも、できればセンサやセンサインターフェースを手掛けているチームを今年中に買いたいとJanson氏は述べる。加えて、同社は東京大学の学生のオーストリア留学を支援し、アナログの専門家を養成している。彼らの戦力にも期待している。

参考資料
1. 手のひらサイズのIRスペクトロスコピー、MEMS技術のおかげ (2012/09/12)

(2014/03/19)

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