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英ベンチャー、通信機能を付けたIGBTドライバボードを開発

「パワーエレクトロニクスのパートナーを探しに日本にやってきた」。こう語るのは英国ケンブリッジを拠点とするベンチャー、アマンティス(Amantys)のマーケティング担当VPのSteve Evans氏(図1右)とマーケティングディレクタのRichard Ord氏(同左)。

図1 AmantysのSteve Evans氏(右)とRichard Ord氏(左) 二人が手にしているのはドライブボード

図1 AmantysのSteve Evans氏(右)とRichard Ord氏(左) 二人が手にしているのはドライブボード


モバイル・ワイヤレス技術の企業がひしめく英国ケンブリッジに、パワーエレクトロニクスのベンチャー企業が3年前に生まれた。複雑なビジネスモデルを創出したがる英国では珍しく単純なモノづくりの企業である。アマンティスはIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)用のパワードライブ回路ボードを設計・製造し販売する。

IGBTは、ゲートに電圧信号を入力した時だけ出力電流が流れるトランジスタである。バイポーラトランジスタは入力に電流を流すが、IGBTはMOSFETと同様、入力電圧で制御する。パワーエレクトロニクスでは大電流の制御にはサイリスタが使われてきたが、サイリスタは入力電流パルスを加えると出力がラッチして電流が流れっぱなしになるデバイスである。オフにするためには出力電圧の向きを逆にする転流回路が必要で、そのために大きなコイルを設置しなければならない。その後、入力電流を逆転するだけで出力電流をオフできる、ゲートターンオフサイリスタが生まれた。複雑さは軽減されたものの、これでも入力に正負の電源が必要なためトランジスタ回路ほど簡単ではない。そこで電流容量を大きくしながらもトランジスタと同じように動作できるデバイスとしてIGBTが生まれた。IGBTはnチャンネルMOSFETのドレインにp領域を追加し、電流容量を増やすことができる。

パワートランジスタは1個だけなら回路は簡単だが、パワーシステムが数万V、数十~数百Aとなると多数のトランジスタを直並列動作させる必要が出てくる。このためにドライブ回路を精密に制御してモータや発電機を連続的に動作させることが求められる。アマンティスが提供するIGBTゲートドライブ回路ボードは、1枚で20〜30個のパワーIGBTトランジスタを制御できる。このボードは、IGBTの信号をスイッチする機能に加え、IGBTを雷やサージ、大きなノイズ、熱などから保護する、さらに、電力系全体を制御するシステムにIGBTの状態データを送るという三つの機能を持つ。加えて、IGBTの動作仕様や条件はパワーエレクトロニクス企業(ユーザー)ごとに違うため、顧客のシステムに合うようにカスタマイズするプログラムもできる。

想定する顧客のシステムには、電車や新幹線の制御、風力発電、スマートグリッドの制御、電気自動車、巨大なデータセンター用の無停電電源(UPS)、工業用モータ制御などがある。こういった大電力システムは、故障時間が長くては使いものにならない。このためアベイラビリティ(availability:可用性とも言う)を確保し、長期間故障せずに運転できることが必要となる。想定顧客にはパワーエレクトロニクス企業やIGBT半導体メーカーなどがいる。

アマンティスのドライブボード、Amantys Power Drive(図2)には、ARMコアを集積したSTマイクロエレクトロニクスのマイコンや、プログラムするためのフラッシュメモリなどが搭載されている。さらに、システムセンターにIGBTの動作状況(データ)を知らせるための光ファイバ通信コネクタがある。


図2 Amantysが設計・製造・販売するIGBTドライブボード 1枚で数十個のIGBTを制御できる 右側の黒い部分はIGBT

図2 Amantysが設計・製造・販売するIGBTドライブボード 1枚で数十個のIGBTを制御できる 右側の黒い部分はIGBT


このボードでは、最初に電源をオンすると温度が上昇することによって、パラメータが少しずつ変わるので、安定状態になるまでスイッチング特性を制御していく。パラメータには上限と下限を設定しておき、範囲から逸脱して故障と判断すれば、システムを止め、リアルタイムでメンテナンスする。特に、多数のIGBTを動かすシステムは高価なため、常にセンシング、モニターし、状況を通信でセンターへ送り、ただちにシステムを止める。

例えば風力発電は騒音が大きいことから海岸線の海側に設置することが多く、メンテナンスにリアルタイム性が求められる、とアマンティスは見ている。風車が回っている時、IGBTには常に熱応力が加わり、トランジスタのスピードが遅いと発熱量がさらに増加するという。発熱許容範囲を超えると、チップがはがれたり、クラックが入ったりする。また、インバータは問題なく動作しているように見える場合でも、さらに温度が上がるとチップがはがれることがあるという。温度上昇を考慮しておき、放熱対策をとるが、温度は常にモニターしておく。

産業用モータ応用では、パワーエレクトロニクス企業によって、間欠動作させたり、連続動作させたりする。スイッチングのサイクルが多かったり少なかったりもする。ユーザーのシステムによってドライブ条件は大きく変わるため、「パワーエレクトロニクスではインターフェースが重要だ」という。

また、列車応用では、数100個のモジュールを使うが、全てのモジュールをモニターする必要があるとする。さらにスマートグリッドとなると、特に直流送電では、交流を直流に変換するためのスイッチングトランジスタが必要で、IGBTは最も効率の良いトランジスタだとしている。今後は、SiCトランジスタにも対応するように、仕様を詰めている。

アマンティスには複数のベンチャーキャピタルに加え、ARMも出資している。Steve Evans氏は以前、ARMにいた。昨年11月に新たなベンチャーキャピタルMoonray Investorsから800万ドルの出資を受け、資本を強化した。

(2013/01/23)

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