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イマジネーション、モバイルから家電全般へ、IPからアルゴリズム重視へ

イマジネーションテクノロジーズが得意分野の周辺に手を広げはじめた。もともと低消費電力の携帯機器向けグラフィックIPやビデオコーデックIPのPOWERVRやデジタルテレビ受信回路ENSIGMAといったIPコアを中核にビジネスを進めてきたが、クラウド接続、VoLTE、光効果を採り入れるグラフィックなどに手を広げている。CPUコアのMIPS買収も表明した。

図1 製品ポートフォリオをIPからアルゴリズム(Solution)まで拡大 出典:Imagination Technologies

図1 製品ポートフォリオをIPからアルゴリズム(Solution)まで拡大 出典:Imagination Technologies


イマジネーションの製品ポートフォリオは、モバイルから家電のテレビや自動車エレクトロニクスなどへ拡大している(図1)。それもIP開発から、ソフトウエアアルゴリズム開発にも広がりを見せる。ハードウエアにせよ、ソフトウエアにせよ、独自のアルゴリズムを開発、保持していればどちらにでも実現できる。例えばARMはプロセッサIPを知財意識の乏しい中国には決してソフトウエア(RTL)では売らない。必ずハードウエアのマスク(GDS-II)に落とす。模倣されるのを防ぐためだ。

加えて、ハードとソフトを組み合わせたり、製品戦略上ハードを優先させたりすることもできる。これこそ、半導体ビジネスの最先端に位置する。

半導体産業に未来があるのは、半導体チップにアルゴリズムや独自技術を焼き付けることができるようになっているからだ。アルゴリズムは人間の知恵そのものだから無限に生まれてくる。微細化がたとえ止まるとしても、チップに焼き込む知恵は無限にある。

イマジネーションは、従来のIPに加え、例えばRay Tracingと呼ぶアルゴリズム(図1のCaustic Professional)を、オートデスクの一部門を買収して得た。この技術を使うと、光の陰影や光線強度などを考慮して、写真と遜色のないグラフィックを描くことができる。最近のハリウッド映画でよく使われる手法だ。ただし、消費電力が大きく、携帯機器にはまだ載せられない。すなわち、テレビや自動車などの市場で使う技術となる。

同社が応用分野を広げている様子を、開催中のInternational CES(注)で見ることができる。この展示会で、韓国LGはCINEMA 3Dスマートテレビ製品を発表するが、ここに最新鋭のグラフィックスIPであるPOWERVRシリーズ6が使われているという。これからはテレビにグラフィックス機能は欠かせなくなると見ている。テレビはこれまでの受け身の放送受像機から、スマートフォンと同程度の「賢さ」を持つようになる。同社マーケティング担当VPのトニー・キングスミス氏(図2)は、「賢いテレビの次の時代は、携帯機器が持つユーザーインターフェースやグラフィックス機能が優れたアプリケーション、インターネット/クラウドとのつながり、を持つようになる」と述べる。


図2 イマジネーションのトニー・キングスミス氏(左)と、広報のデビッド・ハロルド氏(右)

図2 イマジネーションのトニー・キングスミス氏(左)と、広報のデビッド・ハロルド氏(右)


このような時代には、テレビはスマホと同じ機能を持ち、ただ単に画面が大きいだけのデバイスになり、その中間にタブレットが来るようになる、と同氏は見る。テレビが生き残るためには、スマホ並みの見栄えや速い応答速度などが欠かせなくなる。

同社には、放送受信機能を、プログラム可能なハードウエア回路Ensigmaと、デジタルラジオにソフトウエアモデム機能を持たせるためのマルチスレッドCPUコアMeta(参考資料1)がある。Ensigmaは世界中のテレビ放送(DVB、ISDB、ATSC、DABなど地デジや携帯テレビなど17種類以上)やデジタルラジオ放送(7種類以上)を受信できるモデム機能に加え、IEEE802.11a/b/g/n/ac、MIMO、Bluetoothなども集積したモデムIPだ。Metaはソフトウエアだけでモデム機能を実現する32ビットプロセッサであり、32ビットDSPを内蔵することもある。このCPUは制御用ではなくアルゴリズム演算用である。

さらにFlowと呼ぶ、電子製品をクラウドへつなぐ技術も持つ(図1)。これを使えば、IoT(Internet of Things)製品をクラウドに完全に接続するための技術を民生、産業などの機器に組み込めるという。Flowを使えば製品エンジニアは、クラウドベースのソリューションを望み通りに作ることができるとする。

昨年、買収を進めたMIPSに対しては(参考資料2)、同じIPベンダーのCEVAも名乗りを上げているが、決着はまだ付いていない。制御用のCPUコアとして64ビットへの拡張も容易なMIPSのコアは、イマジネーションがカバーしていないIPであり、上で見てきたイマジネーションの戦略上、やはり欲しいコアとなる。

イマジネーションは直接の顧客である半導体メーカーだけではなく、その先の顧客にもアプローチしており、将来の応用を常にウォッチしている。しかし、ファブレス半導体メーカーになるつもりは決してない。

参考資料
1. マルチコアよりマルチスレッドで性能を上げながらシリコン面積を削減 (2007/11/08)
2. イマジネーションがミップスを買収するインパクトを考察する (2012/11/12)

注)International CESはもはや国際家電見本市ではない。主催者のCEAは、CESをConsumer Electronics Show(家電見本市)と呼ばないでほしいという注文をメディアに付けている。正式名称が、International CES、だという。

(2013/01/10)

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