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三菱電機はいかにして高効率のインバータを設計したか〜SPIフォーラムから

三菱電機のパワーコンディショナは、ライバルが一目置くほどの性能を示しているが、SPIフォーラム「災害に強い電力網を目指して〜次世代グリッドの早期実現へ」(参考資料1)の中で、同社はその技術コンセプトを明らかにした。

図1 太陽光発電のフロー 出典:三菱電機

図1 太陽光発電のフロー 出典:三菱電機


パワーコンディショナは、ソーラーパネル(フォトダイオードの巨大なアレイ)の直流を200Vの交流に変える役割と、さらにソーラーモジュールの電力特性を最大にするMPPT(maximum power point tracking)制御という、大きく分けてこの二つの機能を持つ(図1)。ポリシリコンの太陽電池だと15%程度の光電変換効率しかないため、この効率をいかに落とさずに交流まで変換するか、が求められる。

MPPT制御とは何か。シリコン系半導体のpn接合の順方向電圧が0.6〜0.7Vしかないため、光出力電圧もやはり0.7V強しかない。太陽電池はセルを直列に接続し、出力電圧を増やしていく。このため日陰や木の葉などで光を遮られると、そのパネルだけ出力電力が下がる。そこで、電流の低下をカバーするため電圧の高い点を探すことによって電力を最大に持っていくようにしている。フォトダイオードの電流-電圧特性から、横軸に電圧、縦軸に電力をとると、ある電圧で電力はピークになる。このピークの電力を追跡していく機能がMPPT制御である。

インバータは、パルス幅変調(PWM:pulse width modulation)によって直流から交流を作りだす。交流のピークの時にはパルスの幅を最大にし、底(マイナス)に来る時にパルス幅を最小にし、このパルスの幅を徐々に広げて電圧を徐々に高めることができる。ピークを過ぎると徐々に狭めることで電圧を下げることができ、のこぎり状の正弦波を作り出す。このパルスを作り出すのがスイッチングパワートランジスタである。この後平滑フィルタを通せばきれいな正弦波を交流として出力する。

トランジスタのスイッチング速度を上げると細かくパルスの幅を制御できるため、のこぎり状の正弦波は滑らかになる。その分コイルのインダクタンスLは小さくて済み装置は小型になるため、高速にスイッチング動作を行う方向でインバータ技術は進展してきた。しかし、高周波化によってトランジスタのスイッチング損失も目立つようになり、効率が下がる傾向が出てきた。


図2 三菱電機が開発した階調制御型インバータ技術の概念

図2 三菱電機が開発した階調制御型インバータ技術の概念


高速動作をさせずにきれいな正弦波に近づけるためにどうすべきか。三菱電機のエンジニアが考えたソリューションは、パルス幅変調に加え電圧の振幅も3ビット分だけ加えるという、階調制御型インバータ技術だった(図2)。加える電圧V0を2V0、4V0と3種類使い、最も低い電圧のV0のパルス周波数を高く、最も高い電圧の4V0の周波数を低くするのである。4V0のスイッチング周波数は低いためノイズも低く、損失も少ない。

ここで、凸形状のサインカーブ(0〜180度)になるように0Vか4V0の電圧と、0Vか-2V0か2V0の電圧、0Vか- V0かV0の電圧という電圧を全て足すことで、0VからV0、 2V0、3V0、4V0、5V0、6V0、7V0という8段階の電圧を表現できる。これで0〜180度の擬似サインカーブを描くと図2の上の赤いギザギザ曲線になる。

この階調制御技術はさまざまなバリエーションが可能だ。電圧レベルをV0、2V0、4V0の3種類ではなく、V0、3V0、9V0と三進数を採用すると、0Vから13V0までの14段階に細かくできる。また、最小ビットのV0のパルス幅だけをPWMで制御すると8段階の中でもさらに細かい曲線が描けるようになる。一方、2進数の最大になる電源4V0だけを直流電源とし、V0と2V0の電源をコンデンサに置き換えてエネルギーの流用を図れば補助電源を不要にできる。


図3 効率が定格出力で97.5%と高まった 出典:三菱電機

図3 効率が定格出力で97.5%と高まった 出典:三菱電機


この階調制御方式を使って太陽光パワコンを開発し(図3)、商品化したが、この商品が定格出力において効率97.5%という値を実現した。従来品の95%と比べるとわずかな改善のように見えるが、損失という観点から見ると44%も減らしたことになる。この階調制御方式では、交流200Vを出力するためにピーク値の281Vを得るのに3B-INVインバータのパルス高を245Vとし、残り1B-INVと2B-INVのインバータのパルス電圧を合計して36Vになるように設計した。このインバータのスイッチング用パワー半導体ではシリコンのMOSFETを使った。

同社は今後、SiCをスイッチングパワーMOSFETに使いたいとしている。同社の先端技術総合研究所では、SiCパワーモジュールを使ったDC-ACコンバータを試作したが、5kW出力時の損失はSiC MOSFETによって40%減り、DC-ACコンバータの効率は98%を超えていた(参考資料2)。Siと比べてSiCが有利な点は、絶縁破壊耐圧が10倍も高いためにシリコンでは耐圧を確保するために高抵抗基板を使わざるを得ないが、SiCだと低抵抗基板を使えるため抵抗分の損失が減ることだという。ただし、SiC MOSFETの量産化にはもう少し時間がかかりそうだ。


参考資料
1. SPIフォーラム「災害に強い電力網を目指して〜次世代グリッドの早期実現へ」 講演予稿集 (2011/07/13)
2. 三菱電機がSiC MOSFETのDC-ACコンバータで98%強の効率を達成 (2011/01/21)

(2011/07/20)

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