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英国特集2011・M2M通信モジュールを生かし、市場拡大へのエコシステムを形成

データ通信は、従来の通信機器を超えて発展している。M2M(machine to machine)と呼ばれる通信モジュールは、あらゆる機器に通信手段を持たせるのに使われ始めている。Mobile World Congress 2011のUKパビリオンではM2Mに関するハードウエアからソフトウエアに至るエコシステムを構成する要素技術が集まってきた。

図1 M2M通信モジュールの大きさはコイン並み 出典:クアルコム社

図1 M2M通信モジュールの大きさはコイン並み 出典:クアルコム社


M2Mは音声を除くデータ通信を行うことのできるRF(高周波)回路とベースバンド変復調回路を載せたボードであり、音声アンプとマイク、スピーカーさえ付ければ電話機そのものになる。このM2M通信モジュールは3GからLTEまでの通信ネットワークやWiMAXなどのネットワークを使い、これまで搭載していなかったモノに通信機能を持たせることができる。

M2Mの部品、ハードウエア、ソフトウエアの開発からサービス提供まですべて揃ったワク組みをエコシステムと呼ぶが、この仕組みを利用するとベンチャー企業は自分の得意分野に特化して、不得意な分野を補ってもらいコラボレーションを図ることで、市場に製品を早く投入できる。

M2M通信モジュールの市場として、デジタルサイネージ(大きな広告板)や、メータリング(電力計やガスメーターなどの代わりとなり使用量を測定するメーター)、認知症の方の外出先把握、流通業界での配送車の追跡、自動販売機での商品在庫の確認、デジタルカメラの写真伝送、在宅ヘルスケア機器、電気自動車のテレマティックス(例えば日産リーフに搭載)、ドライブレコーダ、電子ブックなどがある。

ハードウエアとしては専用の回路を設計製造していれば比較的参入しやすいが、市場で成功するためには利用環境に応じて使い勝手を考慮に入れたソフトウエア開発や、そのツールなどさまざまな製品やサービスを揃える必要がある。1社で全てをこなすのにはリスクが大きい。エコシステムでは中小企業でさえ得意な技術を持っていれば比較的容易に参入できると同時に、不得意分野の企業と手を結ぶための仕組み作りが求められる。

UKパビリオンのM2Mエコシステムというテーマを掲げたブースに来た企業には、サービスやソフトウエアのベンダーが多い。3GやHSPAの通信モジュールそのものでは米クアルコム(図1)や英国ベンチャーのアイセラ(Icera)社のベースバンドチップの評判が良い。もちろん、この分野に日本メーカー参入の余地はある。このブースでは英国にも開発拠点を持つFreescale Semiconductorがカーレースのクルマと本部の間での情報のやり取りにM2M通信モジュールを使ったという例を展示していた。M2M通信モジュールを使った実例を紹介する。


Signagelive:デジタルサイネージのコンテンツ管理ソフト
渋谷駅前の交差点にいくつもある広告ディスプレイがデジタルサイネージの例だ。LEDディスプレイに流す広告や情報は、M2M通信モジュールを使えば遠隔地からでさえ操作できる。渋谷の広告ディスプレイには使われてはいないが、何時から何時までがA社の広告でその後がB社の広告、という具合に流す広告を管理するソフトウエアを製作しているのが、英サイネージライブ(Signagelive)社だ。ただし、これまでの管理ソフトウエアとは違い、ウェッブベースのソフトウエアでありPCで簡単に管理できるという特長がある。OSはWindowsでもMacOSでもLinuxでもAndroidでも可能だとしている。

同社は大きな広告板のデジタルサイネージだけではなく、もっと小さな外食産業のメニューに表示するコンテンツを書き換えることも手掛けている。例えば英国の高級デパートのハロッズ(Harrods)は、店内に広告ディスプレイを置き、そのディスプレイに広告コンテンツを流すことで、150万ポンドの広告収入を得ているという。ハロッズも重要な顧客のうちの1社である。

図2 サンフランシスコジャイアンツ球場内に設置された外食メニューのデジタル版

図2 サンフランシスコジャイアンツ球場内に設置された外食メニューのデジタル版


ハロッズ以外でもメディア産業のトムソン(Thomson)やスカイ(Sky)のショッピングセンター内に設置した広告ディスプレイ、最近では米サンフランシスコジャイアンツのAT&Tスタジアム内にある外食産業のメニュー(図2)にも同社の技術が使われているという。

同社の管理ソフトは、ウェッブベースで、テレビの番組表のようにいつどの広告を載せていくかというスケジュール表を作成する。音楽プレーヤーのプレイリストを作るような要領でデジタルサイネージに流すコンテンツのスケジュールを作っていく。「ウェッブベースでiPodのプレイリストを作るようなものさ」と同社シニアセールスエンジニアのJamie Bugler氏は言う。

英語以外にも中国語(繁体字と簡体字)、日本語をはじめとする42の言語にも対応していく予定だ。クラウドベースで翻訳するので、6週間もあればローカル化は可能だとしている。1年以内に21カ国をカバーしていきたいという。


buddi:高齢者に持たせるM2Mモジュール搭載リストバンド
英バディ(buddi)社は、高齢者などの弱者が一人で自由に歩いても看護師や介護する者に負担を軽減するデバイスを設計販売している。これはGSM/GPRSネットワークのM2M通信モジュールとGPS受信機を搭載したハードウエアであり、その大きさは54mm×52mmと手に持てる程度に小さい(図3)。


図3 54mm×52mmの小さなM2M通信モジュール(buddi社製)

図3 54mm×52mmの小さなM2M通信モジュール(buddi社製)


自由に外出したいが、自宅や療養所に帰れなくなるおそれのある認知症などの患者の腰のベルトや足首に取り付けて使う。看護師や介護者のいる病院や施設はウェッブで現在地を知ることができるうえに、行き先をあらかじめ入力しておき、その範囲から外へ移動したときは警告が施設の方へ鳴らされる。GPSが位置を検出するため行き先もGoogle地図などに表示する。患者にとっては一人で散歩を自由に満喫できる。

もし転倒したり動けなくなったりした時はGPSで居所を検出し、M2Mで施設や病院、自宅などに知らせる。逆に急に移動スピードが上がる場合も検出できる。例えば誰かに連れ去られる場合などはこれに当たる。もちろん、移動場所を追跡することもできるが、これは患者のプライバシーを考慮して使わないようにも設定できる。

英国の通信業者であるO2のSIMカードも標準装備されており、通信範囲が限られ使えないような所にO2の通信網を使うこともできる。同社CTOであるJose Sanchez氏によると、1回の充電で5日間は使えるという。ネックレスのように首からかけるタイプの製品もある。


Stream Communications:M2Mネットワーク専門の3G MVNO業者
英国のストリームコミュニケーションズ(Stream Communications)社は、M2M専用のネットワーク業者であり、フランスの電話回線ネットワーク業者のOrangeや英国のVodafone、Threeなどのネットワークを借りているMVNO(仮想移動体通信業者)でもある。同社は3G用のSIMカードとネットワーク管理用のソフトウエアであるOasysを販売する。

SIMカードにはオンラインのプロトコルを組み込んであり、M2Mネットワークを使うユーザーを管理する。同社の顧客には回線のリセラーをはじめソリューションプロバイダーや携帯機器メーカーなどがいると、同社ディレクターのNigel Chadwick氏は言う。

独自開発したOasysというソフトウエアでは、3GネットワークにつながるユーザーのSIMを管理する。SIMはデジタルサイネージなどのリモートモニターや自動販売機、車両のトラッキング、スマートメーターなどに取り付けておく。Oasysを使って、そのトラフィック量をモニターしたり、支払いレポートを作成したりする。請求書も作成できる。


Deltenna:WiMAXや3Gネットワークの高性能アンテナ
M2Mネットワークの小さな基地局として使うアンテナを設計・製造・販売しているのが英デルテナ(Deltenna)社である。このアンテナは3Gの電波が弱い地域でブロードバンドを実現するのに使う高感度のアンテナおよびチューナである。同社はWiBE(Wireless Broadband Extender)と名付け、セル間の境界など3G電波の入りにくい地方で使うためのアンテナであり、最低でも2Mbps以上、最大7.2Mbpsのデータレートを提供する。しかも、IEEE802.11b/g/n準拠のWi-Fiルータも内蔵しているため、そのセキュリテイとしてのWPA/WPA2プロテクションアクセスも備えている。


図4 4本ビームの最も強い所を検出、合わすことができる(Deltenna社製)

図4 4本ビームの最も強い所を検出、合わすことができる(Deltenna社製)


このアンテナは、マルチビームアンテナ技術を使い、例えばセルラー方式のセル間など電波の弱い所に設置して、その中から空間的に電波の比較的強い方向を自動的に捉える。この装置には、アンテナボードが90度おきに搭載されており(図4)、ビーム強度を探しながら、各アンテナを切り替えていき、3Gネットワーク電波の最も強い場所を探し、固定する。このアンテナもM2Mネットワークの信号を受信するために使う。

(2011/03/23)

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