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グローバルなオープンイノベーションで5年目を迎えたホルストセンター研究所

オランダのTNO(応用科学研究機構)とベルギーのIMECが共同で設立した研究開発所であるホルストセンター(Holst Centre)が設立5周年を迎えた。オープンイノベーションを掲げ、アイデアと強みを共有しグローバルな研究所として、オランダ政府とベルギーのフランダース政府が資金を提供した。フィリップス社の跡地に設立したハイテクキャンパス内でこの研究所は何を行っているか、お伝えする。

オランダのアイントホーフェンにあるホルストセンター研究所

オランダのアイントホーフェンにあるホルストセンター研究所


設立は両国の行政府であるが、国内外を問わず世界的な企業と連携しながら求められる研究を行うといった目的がある。このため海外28カ国からの参加している。世界の大学や研究所39カ所と連携、23の企業とパートナーを組んでいる。日本からは唯一パナソニック社のみ参加している。2009年は世界不況の影響を受けたが、2010年はさらに研究開発パートナーを求めていくとしている。特に、中小のベンチャーの参加を促すことを決めた。

何年先にものになるかわからないといったブルースカイ研究ではなく、ものづくりにまで行き着くため、試作まで行い開発のエコシステムを広げていくことを目指している。ベンチャーに対しては市場へ製品を出すことまでも支援する。


ホルストセンターの国内外パートナー企業  フィリップス関係企業が多い

ホルストセンターの国内外パートナー企業  フィリップス関係企業が多い


技術的には、SiF(System in Foil)と、ワイヤレスで自律可能なセンサーソリューションを共通のプラットフォームとして、多くの企業のシナジー効果を期待している。SiFはプリンタブルエレクトロニクスともプリンテッドエレクトロニクス、プラスチックエレクトロニクスとも言われるが、プリントという言葉を使えば印刷技術に限定される技術という分類になってしまうため、フレキシブルな基板の上あるいは中に作るエレクトロニクスシステム、という捉え方をしている。後者のテーマは、ZigBeeなどのセンサーネットワークだけではなく、エネルギーハーベスティングや超低消費電力技術、BAN(ボディエリアネットワーク)なども含めた広い概念である。

この二つのテーマを細分化して、SiFでは以下の具体的なプログラムがある;
1.大面積プリント技術
2.電極とバリヤ層の形成
3.フレキシブル基板への集積化技術
4.印刷された導電構造
5.有機デバイス回路
6.フレキシブル基板へのリソグラフィ

ワイヤレスで自律可能なセンサーソリューションでは以下のプログラムがある;
1.超低消費電力DSP
2.超低消費電力のワイヤレス技術
3.マイクロパワーの発電(自然エネルギーのハーベスティング技術)
4.センサーとアクチュエータ
5.低消費電力アナログIC設計


ホルストセンターの研究テーマ

ホルストセンターの研究テーマ


これらのプログラムを、次の4つの基本的な応用に当てはめていく;
1.プリンテッド有機照明とサイネージ
2.BAN
3.スマートパッケージング(RFIDやトレーサビリティなどチップを付ける包装)
4.有機太陽電池

こういったテーマの中でも有機エレクトロニクスの完成度は高く、フレキシブルなプラスチック基板に作ったディスプレイなどの試作品は多い。有機ELすなわちOLEDは基本的には照明の用途を目指す。ホルストセンター研究所の所長であるヤープ・ロンベアー(Jaap Lombaers)氏は、まず照明から入り、サイネージ(電子看板だけではなく、レーシングカーに張るラベルなどの広告も含む)、自動車のインテリア照明などの応用を考えている。自動車の内部には曲面が多いため、フレキシブルなOLEDの応用が生きてくるという。

さらに、これまでの英国取材では太陽電池への応用は5年以上先の話とみられていたが、同氏は「有機太陽電池は、バリヤの問題を解決できるまで待たなくてもディスプレイのように欠陥が目立たないため、効率は少し落ちるが、実用化はディスプレイよりも前にやってくるかもしれない」とみている。


フレキシブル基板上に作製したOLED(左)と透明な太陽電池(右)

フレキシブル基板上に作製したOLED(左)と透明な太陽電池(右)


バリヤの問題は、固いシリコンナイトライド系膜と柔らかい基板との組み合わせによる、曲げ範囲の制限という問題がある。シリコンナイトライドのバリヤが割れてしまう恐れがあるからだ。これに対してはナイトライド膜を薄くすることである程度まで実用化に近づけると、研究者のトン・ファンモル(Ton van Mol)氏はいう。

これらのテーマのうち、医療・ヘルスケアの分野はIMECの研究分野とダブるように見えるが、ロンベアー氏はホルストセンターとIMECでの個別の研究テーマは異なるため、ダブりはないとしている。そのために両社でのミーティングは密に行われ、お互いに得意な所に集中し、共通のテーマやアイデアをディスカッションしながら共有しているという。

(2010/06/09)

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