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特集:英国株式会社(8)シリーズ電源/スイッチング電源のいいとこどり

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古くて新しいビジネスとして電源IC、最近ではパワーマネジメントICと呼ばれる分野にも新規のベンチャーが挑戦している。もちろん、このような確立した分野では生半可な技術を持っていてもベンチャーとしてはやっていけないため、従来のスイッチング電源よりも安く、しかもノイズを出さず、効率もシリーズ電源よりも高いという、「いいとこどり」の電源レギュレータ、AC-DCコンバータをケンブリッジのベンチャー、CamSemi社が開発した。

元欧州大陸のフィリップス社から来たという事業開発担当副社長のJohn Miller氏は、「競争の激しい、既存の市場に新規参入しながらも差別化技術を持っている強みを生かしていく」、と意気込む。2002年に創業したCamSemi社は、顧客に効率の高い電源レギュレータを安く提供することをミッションとしている。


CamSemi社事業開発副社長のJohn Miller氏

写真13 CamSemi社事業開発副社長のJohn Miller氏


海外のベンチャーにはすごい技術を持ったところが多いが、その技術が市場の要求に合っていなければ成功しないというリスクはある。しかし、最近の環境問題、CO2削減、省電力化、原油価格の高騰、といった効率の高い電源が求められている現在、ビジネス環境としては追い風が吹いている。DC-DCコンバータの効率アップの競争は激しいが、AC-DCコンバータの効率アップは実はあまり顧みられなかった。CamSemi社のライバルはAC-DCコンバータを手掛けている米国のPower Integration社になろう。

2002年に設立した同社に出資したベンチャーキャピタル(VC)は欧州大手の3i社、スコットランドの大手TTP社などがある。CamSemi社は将来性を見込まれて、2007年7月にはさらに2600万ドルの出資を別のファンドから受けた。最近、英国政府系の企業であり省エネのイニシアティブを推進しているCarbon Trust社からも400万ドルの資金を得ている。CamSemi社の仕事が省エネに貢献しCO2削減にも寄与することが認められたためだ。


CamSemi社CEOのDavid Baillie氏

写真14 CamSemi社CEOのDavid Baillie氏


ファブレス半導体メーカーとして設立以来、はじめての製品が昨年10月に発売したC2470シリーズである。このチップは110V〜240Vという世界中のAC電源から5Vあるいは3.3VなどのDC電圧を出力する。このパワーICを使ったAC-DCコンバータは電源プラグの大きさにほぼ収まる(写真15)。供給できる出力電力が6W程度とはいえ、ここまでの大きさに収めることができるのは効率が高いからである。


プラグの大きさにほぼ収まる直流電源

写真15 プラグの大きさにほぼ収まる直流電源


従来のシリーズ電源はノイズを出さないが、効率は悪く50%程度しかない。一方、スイッチング電源では効率は高いがノイズを出す。しかもシリーズ電源よりも値段が高い。省エネ基準のEnergy Star(エナジースター)の要求レベルは効率70%以上。これに対して、CamSemi社のレギュレータは負荷20Wから70Wにかけて80%以上ある。スタンバイ電力も小さく、シリーズ電源では典型的には1000mW程度だが、Energy Starは300mW以下、CamSemiのレギュレータは100mW以下だという。

スイッチング電源では、スイッチング周波数を上げれば上げるほどトランスを小さくできるというメリットがある。しかし、周波数が上がれば上がるほど、シャープで大きな電流が瞬時に流れやすくなる。これがノイズとなる。ノイズを抑えるため、切り替えスイッチングの立ち上がり時間を緩くなまらせると今度は周波数が下がってしまう。このため切り替えスイッチのタイミング時間を電圧がゼロになったときを狙って切り替えていた。しかし回路が複雑になり、コストは上がってしまう。シリーズ電源(リニア電源)だとノイズは発生しないが効率が50%しか上がらず電力の無駄が多い。

今回、CamSemi社が考案したRDFC(Resonant Discontinuous Forward Converter)方法は、トランスの1次側の漏れインダクタンスを利用し、ここにキャパシタンスを導入することでそのインダクタンスとの共鳴回路を作る。この共鳴によって、電圧波形は周波数を変えないまま丸くなり、ソフトパルスができる。このソフトパルスはサインカーブを描くため急峻な電流は発生しない。キャパシタンスを入れるだけでソフトスイッチングを実現したことになる。漏れインダクタンスを利用するため、基本的に「トランスにはエネルギーを溜めない」とMiller氏は言う。このため、このAC-DCコンバータチップを使う場合にEMIフィルタ回路は要らない。

また、低コスト化を考え、ラテラル構造のIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)をスイッチングトランジスタに使っている。CMOSプロセスとのコンパチビリティを考慮しラテラルトランジスタを使うわけだが、ラテラルMOSFETと比べると、パワートランジスタ部分のコストは1/3ですむという。プロセスの詳細については明らかにしないものの、IGBTの下のシリコン部分をバックエッチングするということがこのプロセスのカギの一つだとしている。

狙う市場は、民生品で数多く使われているシリーズ電源の置き換えだ。オーディオやコードレス電話、ルーター/ハブ、モデム、デジカメ用電源、セットトップボックスなど、家庭用電子機器のシリーズ電源を置き換えれば消費電力はかなり小さくなる。

今回の新製品では、小さなパッケージの製品を発売した。SOT23-6のC2472PX2や、SOP-8のC2473PX1、PDIP-8のC2474PW1がある。いずれも小型パッケージである。さらに、2008年にかけて現在開発中の製品を続々、市場へ送り出していくとしている。

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