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環境対策の決め手となるか、パワー半導体

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先週は、日本ビクターの国内向けテレビ事業の撤退というニュースがもっとも衝撃的だった。日本で初めてテレビを作り、「イ」の文字を画面に映し出した高柳健次郎、元浜松工業高校(現在の静岡大学工学部)助教授は、戦後日本ビクターに移り、テレビ事業を創出した。今でも日本ビクターといえば高柳健次郎氏の名前が脳裏に浮かぶ。

日本ビクターはかつては国内でもテレビ事業でトップグループを行っていたが、海外では今でもJVCブランドとして名をはせている。数年前に秋葉原の部品街を見て回っていた時、欧州から来たという女性がJVCのスピーカーはないの?と店員に呼びかけている姿はきわめて印象的だった。

比較的地味なパワー半導体のニュースが続出していた週でもあった。三洋電機が厚さ1.5mmのパワーMOSFETシリーズをサンプル出荷するが、最大定格100Aという大電流を取り扱える。大電流にもかかわらず小さなパッケージに収められたのは、ボンディング技術と放熱技術によると報道されている。

Intersilは、効率95%と高い同期型のバックコンバータ(入力電圧よりも低い電圧を出力するDC-DCコンバータ)を発売した。これは2mm×3mmと小型ながら1.5Aも取り扱える8端子のDFNパッケージに入ったDC-DCコンバータである。

ルネサスが力率改善制御ICを出荷するというニュースもあった。これは交流電源の無効電力削減に効く。力率改善は交流の電圧と電流が同じ位相で流れるように調整する技術である。インダクタが負荷にあると電流サイクルは電圧サイクルより遅れるためコンデンサを導入して位相を進ませるようにして改善する。位相のずれによる無効電力を減らすことができる。

ロームが基板材料をSiCに換えて、高温まで動作できるパワーモジュールの実用化を目指すというニュースもある。SiCはエネルギーバンドギャップがSiよりも広く高温動作できるため将来の自動車用途や産業用に向く。米国の研究所SemiSouth LaboratoriesはSiCを使ったJFETを試作している。太陽電池のインバータへの応用を狙う。

しかし、SiCは高温動作できるという裏返しにSiプロセスなら1000℃ですむ熱処理が1400〜1500℃も必要になるため、それ以上の高温に耐える炉心菅など特殊な製造装置が必要になり、チップの価格は一気に跳ね上がる恐れはある。

パワー半導体は、モーター制御やパワーマネージメントなどに使われるが、その目的は省エネである。全世界の電力の約半分がモーターに消費されているといわれている。エアコン、洗濯機、冷蔵庫、ファン、ハードディスクドライブ、その他さまざまな電子機器に入っている冷却ファンなどすべてモーターに頼っている。これを半導体ICで回転数を連続的に変えると消費電力は格段に下がり、原子力発電所が数ヶ所分不要になるとさえ計算されている。

モーターだけではない。電源、最近ではパワーマネージメントといわれるDC-DC、AC-DC、DC-ACなどの電源用ICも需要が旺盛である。電源はすべての電子機器に欠かせない。電池だけで動作する携帯機器にもDC-DCコンバータは必須だ。3.6~4.1Vのリチウム電池1個から11V、5V、1.2V、3.3Vなどさまざまな電源を作り出さなければならないからだ。CCDイメージセンサーやLCDをドライブするのに高い電圧が要るが、90nmや65nmといった微細なLSIには1.2Vや1.0Vなどの低い電圧が必要となる。これは電池を長持ちさせるために効率の高いパワーマネージメントICが使われる。

パワー半導体はどのような応用でも環境にやさしい省エネが求められ、しかもそれに応えられるデバイスだといえる。つまり環境対策はパワー半導体が決め手になる、といっても過言ではない。米国では省エネ規格のEnergy Star v2.0が今年の後半には実施される(http://www.edn.com/article/CA6531582.html)が、力率改善への要求は、75W以上の電源に必須となる。またAC-DCコンバータの効率は64%以上に上げることがマストになる。これらをクリヤーしなければ米国へ電源製品を輸出できなくなる。

コンピュータメーカーの試算では世界中のコンピュータが消費する電力を減らすことも原発数基分の節約になるとしている。先週はプロセッサの発表も多かった。Freescale がLCD向け32ビットColdfireプロセッサにタッチスクリーンインターフェースを集積したり、AMDの64ビットクワッドコアプロセッサOpteronが生産遅れながらようやくパソコンやサーバーに入ることが決まったりしたというニュースがあった。Microchipの低消費電力16ビットマイコンはスタンバイ時の消費電力が100nAと小さい。Freescale の32ビットプロセッサPowerQUICCをソニーのハンディカムに収めたというニュースもある。

いずれのプロセッサも狙いは低消費電力であり、省エネである。


分析:津田建二

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