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中国政府のIT情報開示要求に対して、存在意義が問われる経産省・産業界

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先週のニュースは、米国のオラクルによるサンマイクロシステム買収を採り上げようと思っていた。この話は単なる米国企業の買収劇ではなく、SoCビジネスの大きな技術トレンドを表しているからだ。そのことについてぜひ採り上げたいと思っていた。ところが中国からとんでもないニュースが飛び込んできたため、急きょ差し替えというか、こちらの話を重点に置くことにした。

この話は、中国政府が5月までにITセキュリティ製品の技術情報をメーカーに強制開示させる制度を制定するというもの。中国独自の強制製品認証制度(CCC認証)にITセキュリティ製品13品目を加える。日本経済新聞によるとCCC認証は、China Compulsory Certificationの略で、ひとの健康や安全環境などに悪影響を及ぼす可能性のある製品について強制的に安全性を確認するというものだったらしい。

インターネットで調べてみると、第1回品目として、電線及びケーブル類5品目、開閉器類・保護装置・配線器具類6品目、低電圧器具9品目、小出力電動機1品目、電動工具16品目、電気溶接機15品目、家庭用及び類似用途の機器18品目、音響設備類16品目、情報設備類12品目、照明器具2品目、通信端末機器9品目、車両及び安全部品4品目、タイヤ3品目、安全ガラス3品目、産業用機器類製品1品目、ゴム製品1品目、医療設備7品目、消防用製品3品目、防犯装置1品目という19分類132品目に渡っている。

今回の要求は、これにIT関係13品目を追加しようというもの。経済産業省へ5月までにこの制度の詳細を公開するとしている。この中にはソフトウェアやLSIを制御するOSも含まれていると日経新聞は報道しているが、まだ公表されてはいない。もし半導体のIPや知的財産も含まれるなら大変なことになる。絶対に飲めないばかりが、経済産業省は米国、EUと協力してWTOに提訴するように仕掛けていく必要がある。まさに経産省の存在意義が問われる。

中国ではソフトウェアの知財を使うことや、ハードウェアをコピーすることは文化を流通させる点で大事なことだという捉え方をする文化がある。知恵を絞ってソフトウェアを作成し、仕組みを作ることに対する価値を認めていないともいえる。もちろん特許庁という組織はある。しかし、国民全体が知財にはお金がかかるという意識がなければ、コピービジネスがはやるのはごく当り前である。

テレビで上海モーターショーの映像が流れていたが、試乗する男たちは中国の自動車メーカーの人なのだろうが、物差しを持ってダッシュボードにあるメーターなどの計器のサイズを測っていた。外国車に対してどうどうとスパイまがいの行為を行っていること自体、おかしいと言わざるを得ない。また、このような行為を見逃している国内自動車メーカーの態度もおかしい。セミコン展示会では、競争メーカーのブース立ち寄りを禁じている米メーカーもある。日本側がきちんとした対応を見せなければ、今回の中国政府の計画はまかり通ってしまう恐れがある。

マイクロプロセッサIPコアを開発する英ARM社は、中国へは決してソフトコアともいうべきRTLレベルのデータは渡さない。常にGDS IIフォーマットのハードコアとして提供する。ソフトウェアはコピーされてしまえばお終いだからだ。開発に要したお金に対する対価を払ってもらえない訳だから、ビジネスが成り立たない。

中国のジャーナリストと話をすると、中国は世界の生産基地だといわれるが外国企業は技術を渡してくれない、だからいつまでたっても技術力が付かない、と嘆く。例えば、デジカメの生産も世界一だが、肝心の半導体やセンサー部品は外国から購入するから技術力は決してナンバーワンになれない、とも言っていた。だからと言って、無料で技術を提供するわけにはいかない。ライセンシングにおいてもエクスクルーシブなライセンスにしてライセンス料金を高くとる、ロイヤルティも重ねる、などの工夫がいるだろう。ノンエクスクルーシブの安いライセンス料金だと、どこへ流れるかわからない。ライセンス料を何社かで割り勘する可能性がある。中国はいまや世界第2位の外貨ドル保有国であり、貿易相手国としてはもはや発展途上国ではない。

逆にいえば、重要な半導体チップを中国で作るべきではないだろう。常に日本で押さえておかなければいけない部品である。米国や欧州のメーカーは、キモとなる技術や製品を中国に輸出する場合には日本の企業以上に神経を使う。真似されないかどうか、そのためのセキュリティをチップにどう入れ込むか、リバースエンジニアリングしてもわかりにくい設計・プロセス技術を開発する、など新技術で知財を守ろうとすべきだろう。

経産省の方々には日本の知財を流出させないためにもこの制度に対してノーと言うようにお願いしたい。この要求を制度化されてしまえば中国市場における日本メーカーの大打撃は目に見えるからだ。経産省の存在を賭けて拒否し中国政府に再考を促していただきたい。メーカーもそのための手立てを考えていかなければならない。少なくとも中国が知的財産権を重視する文化に変わるまでは、ソフトウェアやシステムの仕組み、IPは2重、3重の守りを構築していくことが必須になる。

最後にオラクルによるサンマイクロの買収について簡単に触れる。このことは半導体産業からは華やかに見えるソフトウェアだけの産業がいかに危ないかを物語っている。グループウェアで定評のある製品を提供しているオラクルはこれまでハードウェアを持っていなかった。片やサーバーの専業メーカーであるサンマイクロは業績がずっと悪い状態が続き、買収先を探していたところにオラクルが飛びついた。オラクルにとってソフトとハードの両方を手に入れることができという訳だ。

ハードがなくソフトだけではシステムの性能を十分に発揮できない。システムを構築する場合、どこをハードにして何をソフトで変えられるようにしておくか、という視点がきわめて重要だ。例えばシステム全体の消費電力を下げるという命題に対して、ハードウェアだけではなく、ソフトウェアでも消費電力を下げるように設計する。ソフトウェアだけではその要求と実際に消費電力を下げる場合にどの程度まで下げるようにすべきなのか、全体が見えない。ハードとソフトの両方があって初めてシステム全体が見えてくる。

マイクロソフトでさえ、ゲーム機X-Boxに代表されるようになんとかしてハードへ進出しようとしているがなかなかうまくいかない。半導体ビジネスも全く同様で、今ソリューションへと発展させるなら、ソフトウェアをいかに素早く作るか、いかに少ない行数で間違いのないソフトウェアをプログラムするか、という点もしっかり握っていなければこれからの高集積SoCチップの開発は難しくなる。ソフト開発が自社で難しければ他社と組めばよい。

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