政府、半導体製造装置を輸出規制の対象に追加
政府は、半導体製造装置など23品目を輸出管理の規制対象に加えることを3月31日に発表した。日本経済新聞は同日の夕刊で、日本は外為法に基づき武器など軍事向けに転用できる民生品の輸出を管理しており、今回政府は外為法の省令を改正した、と報じた。米国が中国に対する製造装置の輸出規制を2022年10月7日に発表しているが、これに追従するものとみられる。
日経は、「日本は外為法で『国際的な平和及び安全の維持』をうたい、武器や軍事転用できる民生品の輸出を管理している。詳細を定める経済産業省令を改正し、半導体の製造に必要な洗浄、成膜、露光、検査などの各工程の先端品向け装置23品目を規制対象に加える」と報じた。これによってほとんどすべての半導体製造装置がその対象となり、輸出には経産省の許可が必要となる。
図1 記者会見する西村経済産業大臣 出典:経済産業省YouTube
西村経済産業相大臣は、全地域を対象とした、軍事転用への防止を目的とした今回の措置という表現をとっており、特定の国を意識したものではないと述べているが、中国を対象とした米国と歩調を合わせたことは言うまでもない。高性能な先端半導体を製造するための装置は軍事に転用される恐れがあるため、輸出管理項目の中に入れたとしている。
この措置はワッセナール協定を補完するとともに、製造装置に関する関係国の輸出管理動向も見ながら、これまでは対象としてこなかった高性能な半導体製造装置も加えた、と西村大臣は述べている。
同氏はこのように述べていたが、ワッセナール協定は、先端半導体製造装置を輸出管理の対象としていた。先端より1〜2世代前の製品なら自由に輸出できた。ところが、華為科技(ファーウェイ)の子会社であるファブレス半導体メーカーのHiSilicon社は、先端の7nmプロセスを使ったICを設計・販売していた。ロジックがファブレスとファウンドリに分かれてしまったために、7nmプロセスの設計は中国で行い、製造を台湾のTSMCに依頼していたから、7nmのチップを手に入れることができた。これではワッセナール協定は骨抜きになったことを示していた。
そこで、米国は、先端半導体を製造できる台湾のTSMCを念頭に、米国製半導体製造装置を使って製造した半導体チップを中国へ輸出することを禁止した。これはあくまでも華為科技を対象とした措置だったが、米国は昨年10月7日の措置(オクトーバーセブン;参考資料1)で製造装置全体に網をかけたのである。かつての半導体時代なら、先端品の定義がはっきりしていたからだ。今は、先端半導体とは何を指すのかもはやはっきりしなくなった。昨年9月28日の会員限定ウェビナー「TSMC研究」(参考資料2)で明らかにしたように、x nmプロセスと言っても実際の寸法は14〜15nmもあり、もはや比例縮小側は失われている。
米国政府はリソグラフィのトップメーカーになったオランダのASMLを念頭にオランダ政府に対して、ディープUVの装置の輸出規制を求めた。しかし、350nmプロセス以降は、i線、g線、KrFなど全てディープUVの装置を使う。これではASMLは中国へ1台も輸出できなくなる。そこで、ASMLは妥協案として、14/16nmに使われる液浸ArFレーザーリソグラフィとEUVは輸出規制の対象とするという提案をしたが、米国がこれを受け入れるかどうかはまだ結論が出ていないようだ。
4月29日までに今回の措置の-パブリックコメントを募集するが、7月に実施する予定だとしている。今回の発表は記者クラブに向けた定例の記者会見であるが、YouTubeでもみられる(参考資料3)。
参考資料
1. "Commerce Implements New Export Controls on Advanced Computing and Semiconductor Manufacturing Items to the People’s Republic of China (PRC)", Bureau of Industry and Security, U.S. Department of Commerce (2022/10/07)
2. 「【動画】TSMC研究〜会員限定Free Webinar(9/28)」、セミコンポータル (2022/10/04)
3. 「2023/03/31大臣/西村大臣閣議後記者会見」、経済産業省Metichannel