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モノづくりの国内回帰が相次ぐ

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日本のモノづくりが国内に回帰している。スバルが2027年をめどに群馬県大泉町に電気自動車(EV)の専用工場を設置すると発表、TDKはEV部品の新工場を岩手県の北上市に設立する。背景には円安があるが、サプライチェーンを国内で完結させる狙いもあるようだ。中国ではパワー半導体の工場が続出、供給過剰の懸念も出てきた。

スバルは、既存工場の改修を含めてEVの生産に2500億円を投じる、と5月13日の日本経済新聞が報じた。「年数万台規模から始めて順次増強していく。資本提携するトヨタ自動車のEVの受託生産も検討する」と日経は報じている。スバルは群馬県太田市にある既存工場も回収して25年をめどにEV車の生産を始めるとしており、2030年に世界で販売する新車の4割以上をEVやハイブリッドの電動車にする。

最新のEV車では、トヨタの新型EV「bZ4X」はスバルの「ソルテラ」と同じEV技術で作られている。つまり同じEVの車台プラットフォーム(床一面に電池セルを敷き詰める方式)を採用しており、その車台の上に載せる車両の形を変えている。

TDKは、EV用の電子部品を生産する工場に約500億円を投じ、2024年末に生産能力を現在の2倍にする計画であることを、10日の日経が報じている。TDKが生産するのは積層セラミックコンデンサで、自動車ではノイズが出やすい環境にあるため、ノイズを吸収する目的で信号ラインや電源ラインを配置した回路ボード上のさまざまな場所にコンデンサを配置する。特に積層セラミックコンデンサは高周波特性が良いため、過渡応答に対応できノイズ吸収に威力を発揮する。

国内回帰の動きは他にも相次いでいる。村田製作所は約120億円投じてコンデンサの新たな生産棟を島根県に建設し、三菱電機も200億円を投じFA(ファクトリオートメーション)製品を生産する工場を愛知県に新設する。

実は円高を有利に考える産業はあくまでもコスト競争力の点だけであり、価値の低い製品と言えないこともない。逆に価値の高い製品は価格が多少高くても売れる。かつて日本の半導体が初めて世界のトップに立った1985年は、前年のプラザ合意により変動相場制に移り円高が顕著に表れた年でもあった。円高になりドルで換算すると日本企業の売り上げが多く見え、いつの間にかトップになっていた、という感じを半導体関係者は持っていた。当時日本のDRAMは品質が非常に高く、米国製よりもコストではなく品質の点で優れていたため、円高でも売れた。つまり価値が高かった。

これに対し、現在の円安は、輸入品や原材料の価格を上げ、日本で輸入して日本で消費する限り不利に働く。円安が有利になるのは、輸出する製品が他国の製品よりもコスト的に安くなるから競争力がつくという点だ。このため輸出する場合には円安は、コスト競争力の点で有利に働くが、輸出せず日本国内で消費する限りメリットはない。

今の輸出産業の典型である半導体製造装置産業や半導体材料産業は円安により、コスト競争力の点で有利になる。少なくともライバル企業よりは安い価格で勝負できるからだ。このところの日本の半導体製造装置は極めて調子がよい。12日に発表した東京エレクトロンの2022年3月期(2022年度)の売上額は前年比45.5%増の2兆38億円と初めて2兆円を突破した。営業利益率も29.9%と財務的にも絶好調。FPDを除く半導体製造装置(SPE)部門の売上額1兆9437億円の内、海外売上比率は88%にも上る。同社は国内で製造しており、輸出を中心に伸ばし続けてきた。

半導体ウェーハ結晶メーカーのSUMUCOの2022年度第1四半期(1〜3月)の売上額は、前年比32.3%増の1004億円、営業利益率は23.3%と好調だ。

一方、中国ではEV車生産の懸念が出始めたと同時に、パワー半導体生産工場が相次いでいる。11日の日経によると、政府の補助金販売奨励や一定比率の新エネルギー車の製造販売を義務付けたことなどで、21年の中国の新エネ者全体の販売は20年に比べて2.6倍の352万台まで伸びた。さらに21年末時点の新エネ社の乗用車向け製造設備の稼働率は58%とすでに過剰感が出ているという。

EVは、パワー半導体の今後の大きな市場になるが、SEMIジャパンによると、2月末現在での進行半導体メーカー22社の内、12社がパワー半導体を生産品目に定めているという。300mmウェーハのパワー半導体工場も計画されており、また政府系ファンドが株主になっている企業もある。パワー半導体は先端的な微細化を必要としないため、参入しやすい。

(2022/05/16)

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