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現実的になってきたソニーの自動車生産

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ソニーの電気自動車(EV)への参入がいよいよ現実的になってきた。ソニーがホンダと提携、共同でEV向けの新会社を設立することを3月4日の午後、急遽発表した(図1)。自動車産業の実態を知らないソニーは試作車を2 台発表していたが、量産は難しかった。ホンダとの新会社は自動車産業への本格参入となる。キオクシアの2工場が再開し、東芝社長が交替した。

図1 ソニーとホンダの両社長による共同記者会見 出典:ソニー、ホンダの会見場でのスクリーンショットから

図1 ソニーとホンダの両社長による共同記者会見 出典:ソニー、ホンダの会見場でのスクリーンショットから


自動車企業は不良率ゼロを求め、自動車の設計ではどのような乱暴な運転でも壊れないクルマ作りを目指してきた。最近は交通事故死ゼロのクルマ作りを目指している。このため高品質を要求する。半導体や電子部品の工場には自らが認定した工場でしか、製品生産を認めない。片や、IT機器や民生機器企業はそれほどの高品質でなくてもよく、T2M(Time to market)を優先してきた。企業文化が全く違うのだ。

ソニーグループとホンダ技研工業では、ソニー側のメリットが大きいように見える。しかし、ホンダは単に自動車産業の文化を教えるのではない。ソニーをITやゲームのエンタテインメント会社と見て、モビリティサービスの提供を支援してもらおうという考えがある。自動車メーカーはある意味実直なモノづくりの文化が染みついた企業であり、ITを使ったビジネスモデルの創出は得意ではない。これからのACES(Autonomy:自律化, Connectivity:つながり, Electricity:電動化, and Sharing:カーシェアリング。CASEとも呼ぶ)は百年に一度の自動車産業の改革、と言われるほどのインパクトがある。この改革を行うためにはITや半導体の力が欠かせない。

ソニーとしては、試作車はできても量産は難しく、このままでは無理だと思われていた。実際、自動車産業新参のTesla Motorsは欧州や米国の自動車エンジニアを大量に採用し、自動車業界の企業文化を十分に取り入れてきた。しかし日本では、最近こそ転職が常態化してきたものの、米国に比べると人材流動性が低く、優秀な自動車エンジニアの大量採用は難しい。ホンダとの合弁であれば、クルマの生産体制やサプライチェーンの構築、製品製造の優先度など量産に必要な様々な課題を見つけ、克服できるようになる。

これから成長するACESではこれまでの自動車づくりとは別の課題が多い。例えば、Connectivity(つながり)では、OTA(Over The Air)と呼ばれる、無線通信によるソフトウエアの更新技術がある。OTAを利用してさまざまなソフトウエアサービスが広がっていくだろうが、セキュリティを備え、ドメインコントローラやゲートウェイなど新しい半導体チップが必要となる。加えて、単なるクルマのミドルウェアだけではなく、アプリケーションソフトなどをいつでも更新できれば、それを利用するサービスを提供できるようになる。ソニーが持つエンタテインメントのサービスソフトの更新は魅力的だ。

ただし、ホンダは従来通り、EVは自社開発し、新会社はあくまでも新サービスの開発にこだわっている。ソニー主導でEVを開発しながらも量産化の知恵をホンダが提供し、ホンダはサービスソフトの開発ではソニーの知恵を借りることができる。うまくいけばウィン・ウィンの関係になるが、誤解が生じた場合に、ソニーの思惑とホンダの思惑の違いが大きく出てくる恐れもある。新会社の企業運営が命運を握るだろう。新会社は新EVの開発を行うものの、量産はホンダが担う。

ソニーはCMOSイメージセンサを主力として半導体を開発してきたが、これからはイメージセンサを補完する映像処理チップやAIチップ、ゲートウェイのドメインコントローラなどACES向けのチップ開発が車載向けの半導体として力を入れるべきかもしれない。少なくともホンダという潜在顧客がいるのだから。

キオクシアは、1月下旬に四日市工場と北上工場である種のコンタミネーションが生産ラインに入り込み生産を停止していたが、2月下旬には再開した、と発表した。キオクシアは損害額を発表していないが、同社と共同で製造ラインを運営するWestern Digitalは、稼働停止による22年1〜6月期の影響は、7 Exa-Byte (1TBの100万倍)分になると発表している。これに伴い、22年1〜3月期の売上額見通しを42〜44億ドルとしているが、これは22.5億ドル下方修正したものだと3月4日の日本経済新聞が報じている。

また、東芝の社長が綱川智氏から交替し、島田太郎執行役上席常務が3月1日に就いた。東芝は会社分割案を提示したものの株主から反対され、混乱が続いていた。綱川氏は取締役議長には留まる。島田氏はシーメンスソフトウエア社の役員を務めていた。この会社が提供するPLM(製品ライフサイクル管理)ソフトウエアであるTeamcenterの発表時にプレゼンしていた記憶がある。東芝には2018年に入社した。島田新社長は、分割を進めながらステークホルダーと早い段階で信頼を築きたいと述べている。

参考資料
1. 「ソニーとHonda、モビリティ分野における戦略的提携に向けて基本合意」、ソニーグループ (2022/03/04)
2. 「ソニーとHonda、モビリティ分野における戦略的提携に向けて基本合意」、本田技研工業 (2022/03/04)

(2022/03/07)

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