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米中対立の流れが生む、新しいビジネス

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この1週間はニュースが盛りだくさんで、中国のDRAM計画、NTTとNECの通信提携、TSMC対Samsungレポート、そしてシリコンバレーのVCであるSequoia Capitalの日本進出、スーパーコンピュータ富岳の世界一などがあった。これらのニュースの大半に共通するのは米中貿易戦争との深い関係であることが読み取れる。

中国の紫光集団が元エルピーダメモリの坂本幸雄氏を擁立し2022年のDRAM量産計画を6月27日の日本経済新聞に語った。中国は米中対立が激化することを見越して、半導体の自主生産に力を入れる。これまでの製造2025計画は、半導体分野の20兆円もの過剰な輸入超過額を解消するためのプロジェクトだった。この計画は中国市場における国産半導体の市場シェアを2020年に40%、2025年に70%という目標を掲げ、進めてきた。しかし、20年でさえ20%程度しか達成できそうにない。しかもこの20%の大半が、TSMCやSamsung、SK Hynix、Intelなど外国資本の中国工場であり。地場の半導体企業の売り上げは20%の内の半分にも満たない。

しかし米中対立によって、国産化の目的は変わった。輸入に期待できなくなったからだ。中国の政府系ファンド紫光集団が出資して進めてきたプロジェクトとして、これまでNANDフラッシュを量産するYMTCが立ち上がったものの、DRAM工場はとん挫していた。そこで旧エルピーダの坂本氏を副総裁に招き、DRAM立ち上げを急いだ。DRAMの設計は日本で行い、そのマスクデータを元に量産は重慶に建設する工場で行う。10年間でDRAM事業に8000億元(約12兆円)を投じる方向で検討していると日経が報じた。ただ、米国製半導体製造装置がこれから手に入らなくなるため、計画通りに進むかどうかはわからない。製造装置の自主開発となると米国にいる中国人を連れ戻せることができるかどうかがカギとなろう。

YMTCでは、新型コロナウイルスの都市封鎖時でさえ、武漢工場はフル生産ではないものの稼働を続けていた。封鎖解除後はもちろんフル生産に入っている。23日の日経は、YMTCが新工場建設を始めたと報じた。これまでの第1期工場の月産10万枚と併せて、月産30万枚になるという。第1期と2期の総投資額は240億ドルになる見込み。

米中貿易戦争では、世界トップになった中国の通信機器メーカー、華為科技を米国市場から締め出し、華為への半導体チップの供給を止めるだけではなく、米国製半導体製造装置を使って製造した製品を中国へは輸出できない、という制限も米国政府が課した。今や弱体化した日本の通信機器メーカーにとってこれはチャンスになる。NECがNTTと資本提携し、華為排除の動きに乗じてNECが世界進出できる可能性が出てくる。NTTは第三者割当増資を引き受け、NECに株式の4.77%分を出資する。NECの世界進出は、NTTにとってもVPN事業の拡大の助けとなる。

携帯電話からスマートフォンに移行した頃から日本の通信機器メーカーはスマホに追いつけず弱体化した。NEC、富士通などの携帯電話事業は海外には出られなかった。あとから出たシャープをはじめとする家電メーカーも撤退を強いられた。国内のスマホメーカーは国内市場に向け細々と製造しているにすぎない。しかしNTTドコモやKDDI、ソフトバンクなどの通信業者(オペレータ)はみんな潤っていた。だからこそ、今回NTTがNECに出資することはNECにとってはありがたいはずだ。第2世代の5Gのミリ波時代は技術的なハードルが高いため、NECにとってこれからトップランナーに並ぶチャンスでもある。すでに東京工業大学と共同で28GHz、39GHzのミリ波技術の開発に成功している(参考資料1)。

米中対立のあおりを受けたのがTSMCだ。同社売上額の10数%を占めていた華為の半導体設計子会社HiSiliconの売り上げを失うため、他のメーカーからの受注で埋めなければならない。幸いにもSTMicroelectronicsやNXP Semiconductor、AMDなどからも量産をせがまれているため、当分は困らないだろう。しかし、Samsungからの追い上げを受けており、Qualcommの一部の製品はSamsungに流れた。エンジニアもSamsungに引き抜かれた。油断できない。

そしてシリコンバレーの老舗のベンチャーキャピタル(VC)のSequoiaがいよいよ日本に進出する、と26日の日経が伝えた。日本のスタートアップにとってはうれしい知らせだ。シリコンバレーのVCは日本企業にはほとんど出資してこなかった。日米ではリアルタイムで活動状況を話し合えないからだ。VCは資金を提供するが、取締役などの立場から口も出す。もちろん成功させるためのアイデアの提供だ。これまでもAppleやGoogleのスタートアップ期に出資し、中国のアリババ集団やTikTokなどへも出資してきた。しかし、米中対立や中国経済の減速、香港への統制強化などで中国リスクが高まったことから、年内にも日本にやってくるという。日本にとってはITや経済の活性化にとって渡りに船だ。デジタルトランスフォーメーションなどのスタートアップに資金を提供することは、半導体業界にとってはセンサやマイコン、低消費電力技術などを生かせることになりそうだ。

参考資料
1. 5G通信の本命ミリ波、39GHzチップでビームフォーミングを実証 (2019/07/05)

(2020/06/29)

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