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2020年は難しいミリ波5G技術で未来を拓く年になりそう

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新年おめでとうございます。
2020年年始の新聞を見ると、デジタル革命、5G、AIなどの言葉が浮かぶ。まだ影も形もない6Gという幻想の言葉さえ登場する。5Gの次は6Gだから、という単純な動機で記述されている。ただ半導体に関わるものは、本物と幻想を見分ける力が必要となろう。

2020年1月1日の日本経済新聞の元旦第三部では「5Gの出番です」という特集記事で2020年のIT産業を表現していた。第5世代の携帯通信5Gは、確かに大きな流れではある。ただし、5Gは単なる携帯通信だけに留まらない。これまでの1G~4Gはスマトフォンを含む携帯電話の通信技術の世代分けであった。しかし、5Gは携帯電話以外のモノも全て通信回線でつなげてしまおうという新しい技術である。事業サービスは始まったものの、現時点でも完成していない。

5Gサービスを提供しているソフトバンク代表取締役兼CEOの宮内謙氏は、ソフトバンクグループ全体で「Beyond Carrier」を掲げている。5Gによって進むデジタル化とそれに必要なデータの活用、データを情報に変えるIoTやAI技術などを駆使しながらキャリア(通信業者)を超えるようなビジネスを展開していく、という意味である。

5Gは、高速データレートだけが注目されているが、これしかないと思っていると、すでに4GやWi-Fiでも速度は十分なのに、なぜ5Gが必要なのだろうか、という疑問を持つ。NTTドコモが2016年のMWC(Mobile World Congress)で、すでに10Gbpsを超える通信をデモしており、ドコモに質問したところ、「スタジアムでみんながスマホ動画をアップロードしたら、通信回線は止まってしまう」ということだった。1Gbpsを100人が同時に使えば、原理的には10Mbpsに下がってしまう。だからこそ、ダウンリンク最大1Gbpsの4Gをアップリンクで最大10Gbpsへ、ダウンリンクでは最大20Gbpsを目指す。

韓国で始まった5Gサービスでは、実はまだ1Gbpsにも達していない。目標の20Gbpsにするためには本命のミリ波技術が欠かせない。しかし、そう簡単ではない。だからこそ、ミリ波での技術開発が加速しているのだ。また、韓国とほぼ同時にサービスを始めた米国のVerizonの5Gは、実は携帯電話ではなく、固定電話のラストワンマイルのために28GHzのミリ波を使っている。つまり、米国のような広大な国では、日本と違い光ファイバが家庭まで届いていない。欧州でさえ、電柱が地中に埋まっているため、コストが日本よりも余計にかかることから光ファイバは家庭まで敷かれていない。Verizonの5Gでは28GHzのミリ波を家庭のアンテナに向けて発しているだけで、技術的に難しい高度なビームフォーミングを使っていない。

5Gのインパクトは、遅延(レイテンシ)が1ms以下とほぼリアルタイムで基地局からデータを受け取れることと、IoTのように携帯電話以外のモノとの接続を許すことも含む。このため、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)のようにリアルタイムでグラフィックス表示できると、遠隔地とスタジアムやコンサート会場での雰囲気を共有できるようになる。例えば、自分の好きな歌手のコンサート会場で、歌手と自分のアバターとが一緒に歌を歌うという没入(Immersive)体験ができる。リアルタイムで通信できなければ不可能だった。また、工場や倉庫、岸壁での荷物の上げ下ろしなどに向く「ローカル5G」技術も提案されている。

ここで必要な半導体技術はビームフォーミング用のチップとなる。このチップがなければ高速通信のスマホは実現できない。今ある5G対応のスマホのデータレートは1Gbpsには遠く及ばない。サブ6ギガと呼ばれる、現状の3.5GHz帯、4.5GHz帯の周波数ではGbpsの実現は難しい。ミリ波の搬送波とサブキャリア周波数1Gbps以上の帯域は最低限欠かせない。しかしながら、周波数が高くなればなるほど、データレートを上げられるが、電波は届かなくなり、しかも360度放射状ではなく、指向性が強まる。このため送受信する電波の向きを一人ずつ揃え強めるビームフォーミングが必須となる。しかも10人が使えるようにするためには時分割などでビームを振り分ける技術も必要になる。さらに自動車などでの移動でも途切れないためには、通話中の人を追いかけるビームトラッキング技術も加わる。

こういった困難な5Gミリ波技術で先頭を切るのはやはりQualcomm社だ。ビームフォーミングやビームトラッキングを、デジタル技術で空間の時分割や符号分割などで実現するためには、やはり同社のデジタル通信技術が強い。通話している人に向けて届かせる技術だけならアナログでも可能だが、複数の通話者と通信するためには、時分割や符号分割技術は欠かせなくなる。4Gで不利な立場に立たされたQualcommは5Gで巻き返すチャンスとなる。

これに対して日本の通信半導体は全く弱い。強くするためには「人(エキスパート)」が、世界との競争に勝てるかどうかの重要なカギを握る。人を採用するか会社を買うかの選択に迫られる。この判断をできる半導体経営者が求められている。

(2020/01/06)

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