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リチウムイオン電池は改善の余地多く今後も成長し続ける

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今年のノーベル化学賞は、リチウムイオン電池の発明者である米国テキサス大学オースチン校のJohn Goodenough氏、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校のStanley Whittingham氏と共にリチウムイオン2次電池の実用化にこぎつけた、旭化成の名誉フェロー、吉野彰氏が受賞した。今年の授賞理由は一般にもわかりやすい業績である。

リチウムイオン電池を最初に実用化したのは、ソニーが1989年に発表した携帯型ビデオカメラ「ハンディカム」に搭載された時だった。ソニーのハンディカムは、当時の盛田社長の号令の元、パスポートサイズのビデオカメラ実現を目指し、リチウムイオン電池、CCDイメージセンサ、高密度プリント基板技術など新技術が満載の製品だった。CCDイメージセンサは、今でこそCMOSセンサに代わったが、当時は真空管式の撮像管しか世になかった。高電圧を使うため持ち運びは事実上無理だった。多層プリント基板技術を民生用に持ってきたこともソニーが初めてだった。

当時のソニーは現在のAppleのように、誰も開発したことのない製品を世に送り出すことをミッションとしており、ウォークマンをはじめ、CD-ROM装置、MDディスク、CD-ROM搭載のゲーム機PlayStationなどの発明もソニーが先鞭をつけた。

2019年のノーベル化学賞を受賞した吉野氏が開発したのは、リチウムイオン電池実用化のカギとなる負極と正極の材料、負極にカーボン、正極にLiCoO2を用いたことで安全性が増した、今日のリチウムイオン電池の原型だ。リチウムイオン電池は今や世界中に普及しており、特にスマートフォンの心臓部ともいえる。現在、旭化成はセパレータを生産しているが、これはPolypore Internationalの買収により手に入れている。

リチウムイオン電池は基本的に、正極と負極の間に負荷を接続すると電流が流れるという電池である。正極材料のLiCoO2からLiイオンが負極に向かって電解液の中を流れていく、という仕組みだ。セパレータがなければ正電極からLiイオンが常時流れ出してしまうため、電解液の中を分離しなければならない。この分離膜がセパレータである。セパレータはLiイオンだけを通すような多孔質の膜である。

逆に充電する場合は、負極にへばり付いているLiイオンを正極側に戻すために逆バイアスをかける。Liイオンがセパレータをうまく通り抜け当初の正極材料結晶のサイトに戻れば劣化しないが、必ずしも全てのLiイオンがセパレータ膜を通り抜け、元のLiイオンの抜け穴に正確に収まるとは限らない。このため正極材料の結晶性が劣化していくことになり、充放電を繰り返していくと電池容量は劣化していくことになる。1000回程度も充放電を繰り返すと電池は劣化するが、今後劣化の少ない電池が発明されれば、リチウムイオン電池はさらに用途が広がっていく。

吉野氏の受賞インタビューの中で、リチウムイオン電池は実用化されてからしばらくは鳴かず飛ばずであったが、ブレークしたのは1995年だったと述べている。カムコーダはスマホほど数量が出ないため、じれったく思われたのであろう。95年は携帯電話機が普及し始めた年だ。携帯電話機は1980年代後半にショルダーフォンと呼ばれる肩掛け式の電話機から始まり、これも鳴かず飛ばずで、高級自動車所有者が使っていただけにとどまった。しかし、リチウムイオン電池を搭載するようになり、半導体の低消費電力化と伴い、ようやく携帯できる電話機となった。

すでに電気自動車にもリチウムイオン電池が使われており、電池を多数積むことで走行距離400km程度まで実現している。しかしたくさん積めば積むほど重くなるため、電池の数をもっと減らして1回の充電で遠くまで走行できることが求められている。このためにはリチウムイオン電池の改良が望まれる。また安全面では固体の電解質を用いる全固体リチウムイオン電池が開発されているが、電池容量の点ではまだ満足できる段階ではない。

バッテリの充放電が安全に行われるように管理する半導体BMIC(Battery Management IC)は中堅のアナログ半導体メーカーが参入しているが、BMICの進化もリチウムイオン電池の走行距離、電池容量性能などを大きく改善させる余地がある。リチウムイオン電池とその周辺技術はこれからも発展する成長産業といえる。

(2019/10/15)

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