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QualcommがTDKとの合弁RF360の全株を買い取る理由

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米Qualcommが5G(第5世代のワイヤレス通信)でイニシアティブを取ろうと動き出した。5Gのモデムチップでは、Qualcommに加え、MediaTek、HiSilicon、Samsung、Appleが開発している。まだサブ6GHz周波数帯が中心だが、5Gの本命ミリ波では、モデムよりもRFチップが重要な役割を果たす。このためTDKとの合弁で2年前に設立したRF360社でTDKが保有していた株式49%を買い取った。

下手をすると、見逃してしまいそうな小さな記事だが、9月18日の日本経済新聞に「クアルコム、5G部品を完全子会社化」という記事が載った。QualcommはTDKと2017年2月にRF360ホールディングスを設立し、TDKが全株式の49%、Qualcommが51%を握った。TDKはフェライト(磁性体)材料を中心とする磁性材料を使った部品やデバイス、システムなどを得意とし、Qualcommはワイヤレス携帯通信技術を得意とする会社である。合弁会社であるRF360をQualcommが全面的に傘下におくことになった。

次世代のワイヤレスブロードバンド通信は、いうまでもなく5Gだが、サブ6GHzの周波数帯では5Gで目標とする下り20Gbps、上り10Gbpsという高速性能は得られない。やはりデータ速度も向上させるためには、さらに周波数を上げてミリ波まで到達しなければならない。ミリ波といえるのは、30GHz以上である。光の速度である3×10の8乗メートル/秒を30GHzで割り算すると10mmという波長が得られる。つまり、30GHzの周波数の波長は10mmということになる。

ところが、電磁波の周波数をミリ波まで上げるとなると、電波の到達距離は短くなる。しかも、4G(第4世代のワイヤレス携帯通信)までは、電波はほぼ360度放射状に届いていたが、ミリ波では指向性が強まり、特定方向にしか届かなくなるのだ。自動車で77GHzのミリ波を使ったレーダーは、直線的に電波が発射されるというメリットを使ってその反射波を観測するツールである。

5Gでは到達範囲が狭いから4Gまでのように直径2kmの範囲をカバーすることができない。このため、小さな距離範囲しかサービスができないのでは、コスト的に厳しくなる。そこで、アンテナを多数張り付ける平面アレイアンテナを使い、ビームフォーミングと呼ぶ技術で距離を稼ごうという訳だ。ビームフォーミングは、一人の携帯所有者と基地局との間の通信を実現するが、それは互いに相手の向きを知り、互いの向きに合わせて電波を送受信する技術である。2人以上に同時に通信することも可能であり、電波を時分割駆動のように両方に超短時間で切り替えながら送受信する。

しかも、半導体技術にとって、ミリ波は有利な面もある。アンテナの長さは波長の1/4あれば共振できる。つまり、半導体パッケージにアンテナを取り付けることが可能になる。となると、RFチップのパッケージにアンテナをメタルのパターンによって描くことができる。つまり、ミリ波5Gでは半導体パッケージを利用するRF回路も極めて重要になる。

携帯電話技術は、1Gのアナログから2Gのデジタルに変わり、周波数の利用効率の高さから、3Gから4Gは、CDMA(符号分割多重アクセス)技術からOFDM(直交周波数多重変調)技術へと変わったが、実は5Gへは、QAM16やQAM64から、QAM256あるいはQAM1024へと進化するだけだった。しかし5GではRF回路のミリ波回路が大きく変わるのである。ここに多数のノウハウを詰め込むことになる。

RFアンテナモジュール基板は、RFICパッケージか、アンテナ回路基板かいずれかに搭載されることになる。半導体パッケージ技術や実装技術と5Gミリ波技術は新たに開発すべきテーマとなる。

Qualcommはこれまではモデム技術、デジタル変調技術に長けており、そこからCPUやGPUなどを集積するアプリケーションプロセッサのビジネスまで発展させたが、RF関係はそれほど強くなかった。しかしミリ波5GではRFICこそがカギとなるため、ここに開発のリソースをつぎ込む必要に気づき、RF360を設立した。このほどさらにRFに力を入れるため、自社で賄うことに決めた。ミリ波5G向けのアンテナパッケージ技術を一刻も早く開発しなければ、技術の全てをQualcommが持っていくことになる。

(2019/09/24)

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