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日本の研究開発が衰退、その問題点や解決策を模索

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昨日までのゴールデンウィークの間大きなニュースがない中、日本の研究開発を巡るあり方についての解説記事が目についた。5月3日の日本経済新聞は日本企業の研究開発費の伸びが海外企業に劣っている、と伝えた。6日には日経の科学技術の競争力が低下していると感じる研究者が多いことをアンケート調査で明らかにした。

2017年までの10年間における研究開発費の伸びは、アジアの4.1倍、米国の86%増に対して日本は12%増しかないと日経は伝えている。2007年にAppleの7倍もあったパナソニックの研究開発費は17年3月期に4300億円と10年間で25%も減少した。これに対してAppleの2017年における研究開発費は115億ドル(約1兆2000億円)と10年前の15倍に膨れ上がった。かつて松下通信工業があった横浜市綱島地区にAppleが研究所を設立したことは極めて象徴的だ。

日経が調べた過去10年の研究開発費の世界ランキング(東証1部上場企業と米S&P500株価指数、欧州のストックス600、日経アジア300指数の構成企業)では、世界100位までに日本勢は17社、と10年前の24社から大きく減少している。世界3位だったトヨタ自動車はドルベースで10位に、パナソニックは15位から36位に、ソニーは18位から35位にそれぞれ後退した。この10年間で研究開発費を大きく増やしたのはIT企業である。Amazon.comは226億ドルと10年前の28倍になった。Samsungは10年間で4倍に増やし第3位となっている。

国が指導する研究開発の手法も欧州とは異なる。4月30日の日経によると、英国の産学連携拠点の一つ「Catapult Centre」は欧州における自動運転の一大研究拠点だが、ここでは日本の日立製作所と日産自動車も参加している。日本でも産学連携プロジェクトは盛んだが、参加企業を日本企業に限ることが多いのと対照的だ、と報じている。また、欧州では理系だけではなく文系も参加するフランスの「Dataia」プロジェクトが発足した。健康や環境などの10テーマで8年間取り組む。日本のプロジェクトは理系の研究者ばかりでAI研究などは両者の理解が社会に受け入れられるために必要だとしている。

日経は3月23日〜4月19日に未来技術推進協会と日本ロボット学会の協力を得て、20~40代の研究者141人を対象にアンケート調査を行い、その結果を5月6日に発表した。これによると、8割近い研究者が「日本の科学技術の競争力が低下した」と答えた。このことは研究論文数にも表れている。2000年代前半では日本の科学技術論文数は、米英独に次ぐ4位につけていたが、直近のデータとして2013~15年には中仏に抜かれて9位に下がっているという。

16年度の科学技術研究費は18兆4326億円と米中に次ぐ世界3位だが、前年度に比べ2.7%減少し、2年連続で減っている。研究者の空洞化も進んでいる。大学院の博士課程に進む院生は、2003年の1.8万人をピークに年々減少、16年はピーク時の2割弱減少しているという。日本が2030年に科学技術立国であり続けるために必要なことを聞くと(複数回答で)、「長期的な視野で研究できる環境」が61.7%、「研究者の研究時間の確保」が52.5%とそれぞれ多い回答だった。

教育改革への取り組みを経済産業省が2018年1月に進めているが、その試みを3日の日刊工業新聞が伝えた。ITを駆使した教育を「EdTech(エドテック)」と命名、米国や中国、シンガポールが進めてきたIT利用教育を日本でも進めよう、と経産省が旗を振っている。その学びの場を「未来教室」と命名しており、学校教育と企業研修にEdTechを導入しレベルアップを図ろうというもの。

この1週間の出来事で一つだけ紹介しておく。米国の通信業者で第4位のSprintと第3位のT-Mobileの合併だ。Sprintはソフトバンクが買収した企業であり、ソフトバンクはT-Mobileとの合併を進めていた。しかし、合併に至らなかった。ソフトバンクグループの孫正義会長がSprintの経営権を握りたいと固執したからだ。今回SprintとT-Mobileの合併では、T-Mobileの親会社であるDeutsche Telekom(ドイツテレコム)が経営権を握り持ち株比率は41.7%となり、ソフトバンクは27.4%の持ち分法適用会社となる。つまりSprintはもはやグループ会社ではなくなる。孫会長の心変わりはなぜか。おそらく5Gへの投資を急いだためであろう。5GではAI、自動運転車、IoT、クラウドなどこれからの成長分野が控えている。米国、中国、韓国は5G実現を急いでおり、ソフトバンクは5G実現を加速するため、T-Mobileとの合併を断念したといえそうだ。

(2018/05/07)

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