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東芝メモリの売却にWDのライバルSeagateも参加

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日本経済新聞をはじめ、さまざまなメディアが報じたニュースだが、東芝は9月28日、東芝メモリの売却先を「日米韓」連合に決めた。先週末から土日にかけてこのニュースとその解説が飛び交った。日本の半導体産業にとっても歴史的な「事件」である。

発表の内容は、Bain Capital社を軸とする買収目的会社「株式会社Pangea」を設立し、Pangea社に東芝が持つ東芝メモリの株式を全て譲渡するというもの。このPangeaに東芝が3505億円、Bain Capitalが2120億円、Hoyaが270億円、SK Hynixが3950億円、米国のユーザー企業およびその関連企業である4社(Apple、Seagate、Kingston Technology、Dell Technologies Capital)が総額4155億円の合計1兆4000億円を出資する。加えて、金融機関から6000億円を借入し、合計2兆円をPangea社が得る計画だ。

Pangea社が事実上の東芝メモリの「親会社」となる。東芝がNANDフラッシュで競合するSK Hynixに関しては、東芝メモリとの間には、最低10年間、ファイヤウォールを設け、SK Hynixによる東芝メモリの機密情報へのアクセスを制限するとしている。さらにSKはPangea社の議決権の15%超を持つことはできず、その転換権の行使には各国競争法当局の承認がいるとしている。

メディアがほとんど報じていないが、米国のユーザー企業の一つSeagateは、HDD(ハードディスク装置)業界でWestern Digitalと二分する、競合ライバル会社である。WDを入れない代わりにSeagateを入れたことは、WDと仲良く運営している、四日市工場という現場に対する「嫌がらせ」と言えないこともない。百歩譲って、東芝本社はそのつもりではなくても、現場が混乱する可能性は否定できない。

また、東芝とWDが共同運営しているJV(Flash Partner社とFlash Alliance社、Flash Forward社)の東芝の株式または持ち分を東芝から東芝メモリに譲渡することになっている。この取引が株式譲渡を完了しない場合には、譲渡実行日の月の前月末時点での当該株式と持ち分の予測価値を控除するとしている。すなわち、東芝はWDとは完全に袂を分かつ決断をしたといえよう。

また、今回の発表には政府経済産業省が深くかかわっていることは明白で、「譲受会社(Pangea)における日系企業による出資比率は、当社分を含め過半を超える」と謳っている。つまり、日本企業が多数の株式を握る構造を維持していることをわざわざ述べている。グローバル化の当たり前のIT/半導体業界で極めて不自然な奇異な感じがする。また「今後も過半を維持する予定」とある。

東芝が再出資する予定の東芝メモリの普通株式の一部に係わる議決権行使については、ファンドの産業革新機構と日本政策投資銀行に指図する権利を与える予定としている。すなわち今後の取締役会など企業運営かかわる会議で、この両社から役員を送ることを意味する。ただし、将来両社は東芝メモリに資本参加することを検討している。

このようなややこしい買収目的会社を設立したのは、WDからの訴えなどを退けるためだ。WD小会社のSan Diskが国際仲裁裁判所にJVの株式の売却差し止めを求めて仲裁申し立てを行ってまだ係争中であるが、たとえJVの分の差し止め請求が認められたとしても、Pangeaへの譲渡差し止めにはならないとみている。

日経新聞をはじめさまざまのメディアは、東芝本体がどうなる、という議論しかしておらず、東芝メモリの現場のことにはほとんど触れていない。WDを追い出し、WDのHDDのライバルSeagateを受け入れ、そしてNANDフラッシュのライバルSK Hynixを受け入れなければならない現場は今後、「荒天の船出」(9月30日の日経の見出し)になる可能性が高いが、半導体企業としてぜひとも、頑張っていただきたい。

(2017/10/02)

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