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AIの応用がさまざまな業種へ広がり、国産チップ化技術も登場

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ゴールデンウィーク中はニュースのほとんどない「平和な」週だった。そのような中で将来の半導体成長を担うAI(人工知能)の応用がさまざまな分野へ広がりを見せている。まずは応用の実証例を示し、学習や推論のさらなる高速化、低消費電力化を目指すとなると半導体化になる。いくつかの芽が出ているので、紹介する。

自社開発のコグニティブコンピューティング「ワトソン」でAIの先頭を行くIBMは、ワトソンをすでにビジネスに広く展開し始めている。典型例は創薬開発だ。何万何十万種類もの分子の組み合わせが必要な創薬開発にワトソンは有力な手段である。ソフトバンクは、社内業務改革にワトソンを使用しており、顧客窓口、法人営業、ショップ、ネットワーク保守、社員サポートなどで効果を上げている。例えば、顧客窓口では、顧客からの問い合わせに対する回答候補を5つ用意し、その正解率が94.3%まで高めることができた、とソフトバンク代表取締役社長兼CEOの宮内謙氏は、IBM Watson Summit 2017の基調講演で述べている。

キヤノンやカシオは、医療診断の画像解析にAIを活用した診断システムを開発すると5月5日の日刊工業新聞は報じた。キヤノンは京都大学と共同で、がんや神経性疾患を診断支援するためのソフトウエアを開発中だ。カシオ計算機は信州大学と共同で、皮膚疾患の診断支援システムを開発する。皮膚の色素変化の画像から色やメラニン分布などを見つけ出し、ほくろか、悪性黒色腫(メラノーマ)などの病変かの鑑別を支援する。従来は熟練した医師が診断していたが、AIを使えば熟練度の低い医師でも診断できるようになる。

NECや富士通は、サイバー攻撃を監視するシステムにAIを利用する、と5月3日の日本経済新聞が報じた。NECは日米欧の監視サービス拠点にAIを使った支援システムを導入する。攻撃の可能性があるとの警告に対し分析者がどう判断したかをAIが学び、膨大な警告から重要度の低いものを取り除く。人間が分析する件数を3割減らせるという。富士通はウイルスの侵入経路や別のパソコンへの二次感染といった被害状況を数十分で自動的に調べる技術を開発したという。ネットワークの状況を記録し、過去の攻撃に 近い動きを自動で抽出する。

特許庁は特許行政事務にAIを導入すると、3日の日刊工業が伝えた。2016年12月からすでに電話応対システムでの実証実験を行っている。特許庁全体の電話応答数は、年間約30万件あるため、この応対をAIに任せる。過去の質問応答をAIに学習させ、模範回答案を一覧として提示させるシステムを構築。上位5位までに提示される回答案に正答が含まれる割合で8割を達成したとしている。

東京大学とNIMS(物質・材料研究機構)は、熱伝導率の高い新材料の開発にAIを活用している、と3日の日刊工業は報じた。結晶材料の熱輸送シミュレーションにAI技術のベイズ最適化を応用するとしている。そのほか、三菱総研は家庭菜園の初心者に助言するためのAIシステムを開発した。8月31日までに全国を対象に実証実験を行い、回答の精度を高めていく。

AIはクルマの自動運転には欠かせない。6日の日経は、デンソーがAIに力を入れると報じた。2018年3月期のデンソーの研究開発費は前期比4%増の4250億円としてドイツの3強(Bosch、Continental、ZF)に肩を並べる水準に増やす。このうち1/3を自動運転技術のためのAI開発などに充てる。

富士通研究所は、ディープラーニング用ハードウエアの電力効率を上げる回路技術を開発した、と5日の日刊工業が伝えた。学習過程で、演算器のビット幅や学習結果を記録するメモリのビット幅を削減し、電力効率を高める。この技術を実装したハードウエアを想定したシミュレーションの結果、演算器やメモリの消費電力が約75%減ったという。富士通のAI技術「ジンライ」の一つとして実用化を目指す。新聞記事では、ハードウエア回路と述べているだけで、どのような半導体チップなのか、FPGAともGPUとも書かれていないが、まずはFPGAと考えるのが順当だろう。

(2017/05/08)

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