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EricssonがCiscoと提携する理由

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先週は、日本の新聞では大きく報じられなかったが、大型提携案件があった。通信機器最大手のEricssonとネットワーク機器のCisco Systemsとの提携だ。1ヵ月前にはQualcommとXilinxの提携があったばかり。いずれも裏にあるのはこれからのIoTと5G通信システムである。国内新聞は電気自動車のニュースが多かった。

Ericssonは、NECや富士通などと同様、通信オペレータ向けに基地局を中心にモバイル通信インフラや固定回線用の通信機器に強い。Ciscoは企業向けのEthernetなどネットワーク機器に強い。通信機器でEricssonがNECや富士通よりも圧倒的に強くなったのは、グローバルな力である。NECや富士通は、国内の旧日本電信電話公社(NTT)仕様に即した通信機器しか扱ってこなかったため、NTT以外の通信オペレータとの付き合いがほとんどなくビジネスでもグローバル化において大きく出遅れた。これに対してスウェーデンの通信オペレータにすぎなかったEricssonはいち早くグローバル化を進め、各地各国の通信仕様に合わせた機器を設計してきた。

この動きは、中国の通信機器メーカーの華為技術も、同様で北京政府から遠い広東省で事業を立ち上げ、中国国内よりも海外に目を向けてきた。華為は、今やEricssonに次ぐ第2位の地位に躍り出た。Ericssonにとっては、華為は脅威に映ると同時に、第3位だったNokiaがフランスのAlcatel-Lucentを買収することを発表した。Nokiaは携帯電話部門をMicrosoftに売却し、インフラ部門に集中してきた。第5世代モバイル通信(5G)の目標スペックの一つである10Gbpsの実験に成功している。すでにEC(欧州委員会)の認可を得ており、合併は時間の問題になってきている。

現在は第1位とはいえ、Ericssonは着実に5Gの開発を進めているものの、10Gbpsの実験に成功したという発表はまだない。もちろん今のところ10Gbpsのデータレートの実験ではマッシブMIMOやミリ波という多数のアンテナやビーム広がりの狭い電磁波しか使えないが、Ericssonとしては漫然としていられない。Ciscoを選んだのは、企業向けスイッチやEthernetで強いからだ。またCiscoと組むことで、これからの通信オペレータ向けの技術は企業向けにも拡大していけることも知っている。両社は、今後SDN/NFVやネットワーク制御技術に取り組んでいく、とEricssonのCEOであるHans Vestberg氏は自身のブログで述べている(参考資料1)。

SDN(Software-Defined Network)は、これまでの専用ネットワーク機器を、データプレーンと制御プレーンに分け、一つの制御機器だけを用い、ソフトウエアによってデータプレーン内のネットワーク機器をカスタマイズするという発想の技術である。いわばハードウエアを共通にして、ソフトウエアでカスタマイズするという半導体のマイコンやFPGAと似たような発想だ。NFV(Network Function Virtualization)は、欧州の電気通信標準化団体のESTI(European Telecommunication Standards Institute)が定める規格でコンピュータと同様な仮想化技術を使う。

次世代の5G通信の仕様では、10Gbpsだけではない。レイテンシも従来のLTEだと150msかかっていたが、これを1msに削減する。さらに消費電力を上げずに性能を上げるという電力効率を従来よりも2000倍に高めるという要求もある。これらはIoTの設計に極めて重要な要求仕様である。だからこそ5GはIoTにも必須になると言われている。

電気自動車関係では、GMがシボレーボルトの部品調達を韓国のLGに絞るというニュースを11月11日の日経産業新聞が報じた。バッテリに加え、モータ、インバータの駆動系だけではなく、ITシステム系の半導体部品もLG系で揃えるとしている。ルネサスが中国向けEVの開発で、スウェーデンのNevs(National Electric Vehicle Sweden)社と提携することを発表した。ルネサスとNevsは、この提携を通じて、モータ駆動システムから車載情報システム、ADAS、セイフティコントロールシステム、クラウドへのアクセスなどを共同で開発する。Nevsには中国企業も複数出資している。萩原電気がドアミラーやバックミラーを液晶モニターに変える技術を開発中(参考資料2)と13日の日経産業新聞が報じた。

参考資料
1. Creating the networks of the future with Cisco (2015/11/09)
2. 「クルマのドミラーはもう要らない」 (2014/05/22)

(2015/11/16)

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