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Intelが再びAlteraに、AvagoはBroadcom買収など大型M&Aの背景を探る

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先週から今週にかけて、半導体企業の大型買収が相次いでいる。週末には、IntelがAlteraを買収するという話が2ヵ月ぶりに再燃した。半導体企業のM&Aがこれほどまでに続出した週はかつてあっただろうか。その動きの背景にあるものは何か。半導体・ITという動きの極めて速い分野だからこそ、買収を急ぐ姿が見えてくる。

先週5月28日にAvagoがBroadcomを買収するというニュースが駆け巡った後、週末にはIntelがAlteraを買収するといううわさが再燃した。先週は、Cypress SemiconductorがメモリメーカーのISSI(Integrated Silicon Solution, Inc.)に買収提案を行った。NXP SemiconductorはRFパワー部門を切り出して、投資会社のJAC (Jianguang Asset Management Co. Ltd.) Capitalに売るというニュースもあった。

IntelはなぜAlteraを欲しがるのか。Intelはパソコンやサーバー向けのマイクロプロセッサを設計・製造してきた企業である。しかもIntelは1971年の最初のマイクロプロセッサ「4004」の発明以来、プロセッサの性能を上げることにまい進してきた。クロック周波数の増加、スーパースケーラの導入などコンピュータアーキテクチャの高度化を図ってきた。しかし、10年ほど前からCMOSプロセッサの消費電力も同時に上がってきたため、パワー密度は原子炉内部を超えるほどと言われた。ムーアの法則による集積度向上も飽和気味になってきた。そこで、消費電力を上げずに性能を上げる手段として、マルチコア技術を導入した。集積度は再び増加の一途をたどる。集積度向上のために微細化を進めた結果、消費電力を抑えるという観点からも電源電圧も下げてきた。それも動作に応じて、例えば1.2Vから1.19V、1.18Vと小まめに調整、キャッシュメモリの状態や動作状況によってもアイドリング電力をこまめに調整している。もはや動作時、待機時の消費電力という言い方はしない。シナリオデザインパワーと呼び(参考資料1)、さまざまな動作状態に応じて電源電圧を変える方式を採り入れている。

さらに電源用IC(パワーマネジメント)は、プロセッサが高集積のため1V程度の電圧で動作により消費する電流は数A〜十数Aにも増える。すなわち、これだけ大きな電流を消費するデバイスを動かすと大きなノイズが発生する。同時に、これまで見えてこなかった浮遊インダクタンスの影響が表れてくる。このためには電源電圧用のICをプロセッサにすぐ近くに置く必要がある。高集積で低電圧・大電流のFPGAでも全く同様にデバイスのすぐ近くに電源用IC(POL: point of load)を配置することがエンジニアの常識になってきた。Alteraが電源ICメーカーEnpirionを買った(参考資料2)のはそのためだ。

一方、CPUはソフトウエアだけで演算・制御を行うプロセッサであり、FPGAはハードウエアを変える(プログラムする)ことで独自機能の回路を実現するデバイスである。CPUだけなら、高速化に限界があるが、FPGAはハードウエアのロジック回路で機能を実現するため動作速度は速い。しかも、ハードウエアで独自機能を追加・変更できる。仕様がころころ変わるような製品を早く市場へ出すには打ってつけのデバイスだ。このため、CPUとFPGAの両方を使うシステムが普及している。IntelのCPUを使い、FPGAで差別化する回路を加えるという訳だ。FPGAメーカーも大規模なロジック回路のプログラミング作業には時間がかかりすぎるようになったため、高集積FPGAにはCPUコアも搭載し、ハードのプログラミング作業を楽にしようとする動きがある(参考資料3参考資料4)。

加えて、Intelは14nm FinFETプロセスファウンドリビジネスをAlteraから受注しており、なじみはある。また、Intelの得意だったパソコン分野はもはや下り坂に来ている。Intelは未だに世界トップの半導体メーカーであるが、ここ1〜2年ゼロ成長が続いている。何とか次の成長を作り出したい。これからの高集積ICで差別化する回路を作り出すためにはFPGAが欠かせない。IntelはAlteraを強く望んだ。

Avago SemiconductorのBroadcom買収のニュースで驚いたことは三つある。一つはBroadcomが2015年第1四半期での売上げが20億5800万ドルで世界9位(ファウンドリ含む)のメーカーであり、Avagoは昨年LSI(旧名LSI Logic)を買収することで16億1500万ドルの13位に上がってきたメーカーである(参考資料5)。要は小が大を飲み込む訳だ。もう一つは、AvagoがLSIを買収して間もないこと。Avagoの時価総額がBroadcomよりも大きいということ(参考資料6)も驚きだった。

Avagoの前身はHewlett-Packard社、その後コンピュータ以外の部門をAgilent社として分離し、さらに半導体部門をAvago とした。このため計測器に強い製品を持っている。RFアンプやLED、モーション制御用エンコーダ、光送受信機などが主力製品だ。さらに成長が見込めるワイヤレス通信やモバイル分野には弱い。

一方、BroadcomはBluetoothやWi-Fiなどワイヤレスのモデム技術やクルマ用のイーサーネット技術が強い。ワイヤレス技術には、RFとベースバンド(モデム)が欠かせない。このため、その二つを持っていると、近距離からモバイルネットワークなどさまざまなワイヤレス技術をソリューション提案できる。AvagoにはBroadcomのクルマビジネスも魅力的だった。

CypressのCEOであるT.J. Rogers氏は、専用メモリメーカーのISSIに買収提案のレターを送った(参考資料7)。ISSIは、Cypressが買収を仕掛けたSpansionへ、HyperFlash技術とHyperBusインターフェース技術をライセンス供与している。このためCypressはSpansionを通じてISSIとはなじみの仲になっている。HyperFlashは、NOR型構造で、シリアルインターフェースのHyperBusを使うことで、ボード面積、ピン数を減らしながら、333MB/sの高速アクセスが可能な不揮発性メモリである。

Cypressはアナログマイコンの一種であるpSoCやタッチセンサコントローラ、USB Type-CカードやインターフェースICに力を入れており、Cypressにはない不揮発性メモリの特許やIPを入手できる。Spansionの持つNORフラッシュやマイコン、アナログに加え、周辺回路を充実させることで、今後成長の見込める自動車エレクトロニクスを強化できる。

これらの買収劇を見ていると、いずれも自社にない製品を持ち、ユーザーのシステムソリューション提案に必要な製品を持つ企業を買収している。それもワイヤレスやクルマなど今後の成長が見込める分野でシステム提案するための製品ポートフォリオを揃えようとしていることが見えてくる。これらの一連の動きはむしろ、買収の時期がたまたまぶつかっただけで、変化の激しい時代にソリューション提案するための買収をさっさと済ませよう、という考えだと理解できる。

参考資料
1. パソコンのCPUもアプリケーションプロセッサになった (2013/06/13)
2. Alteraが高効率電源メーカーEnpirionを買収した理由とは (2013/05/17)
3. Altera、14nm FinFETプロセス採用の初SoC製品Stratix 10を発表 (2013/10/30)
4. 16nm FinFETプロセスのFPGAを量産へ (2015/02/25)
5. 直近の世界半導体上位20社ランキング、大変化の予兆 (2015/05/21)
6. Avago to Buy Broadcom in Largest Chip Deal Ever, RCRWireless News (2015/05/28)
7. Cypress Semiconductor Corporation Sends Letter to Board of Directors of Integrated Silicon Solution, Inc. (2015/05/29)

(2015/06/01)

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