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半導体産業の1年を総括する

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年の瀬が迫り、2012年も暮れようとしている。今年の半導体産業を総括してみよう。最大の事件はエルピーダメモリの倒産である。続いて、ルネサスのキャッシュ不足が判明し、富士通三重工場の売却の噂も流れ、ネガティブニュースが多かった。前向きのニュースの新聞報道が少なく、まるでお先真っ暗状態だった。しかし現実はそうではない。

2月末にエルピーダメモリが会社更生法適用を申請、受理されたニュースは最も大きなインパクトを与えた。日本で唯一のDRAMメーカーであり、しかもかつて世界トップのNEC、やはり上位の日立製作所、三菱電機との連合DRAM企業が倒産したのである。取引企業も多く、顧客も多い。エルピーダの支援企業がマイクロンテクノロジーに決まり、マイクロン傘下で再建が始まっている。閉鎖よりはマシである。雇用がある程度守られるからだ。

メモリ企業が倒産した例として、スパンションがある。かつて大容量化でNANDフラッシュと戦い敗れたため、製品戦略を練り直した。低速だが大容量のNANDフラッシュに対して、高速・小容量NORとの隙間を埋めるため、シリアルNORや音声認識メモリなどNANDフラッシュでは実現が難しい分野に特化し、復活を遂げた。債務を返済するため工場を売却しファブライトを選択した。製造工場はファウンドリではなく、秘密厳守の専属コントラクタを採用した。こういった、エルピーダが参考にすべき情報を伝えてきた。

続いて、ルネサスエレクトロニクスの製造能力の余剰による工場削減に関するニュースも新聞を賑わした。工場売却、余剰人員整理のための早期退職プログラムを組み、親会社と銀行が融資・増資した。依然として足りないキャッシュを補うため、米国ファンドのKKRが資金提供するというニュースが流れた直後に政府系ファンドの産業革新機構が資金提供することが明らかになった。結局12月になり、革新機構と顧客8社が第三者割当増資に応じることに決定した。富士通セミコンダクターが三重工場を台湾TSMCに売却か、というニュースが流された。リークによるものだ。海外からの投資に対して、秘密裏の動きが表面化した途端に破談になった例はエルピーダの時もあった。リークする側のグローバル感覚のなさを示す好例だ。

こういった国内半導体の不調は、実は国内家電メーカーの不調ともリンクする。パナソニック、シャープ、ソニーは大赤字を計上し、特にシャープの自己資本比率は10%を切っている。パナソニックも2013年3月期(2012年度)に昨年度同様7000億円レベルの赤字を計上するようだ。半導体メーカーにとってグローバル化は焦眉の急だ。

暗いニュースばかりではない。ルネサスは製品をマイコン、アナログ、パワーに絞り、さらに自動車向けのシステムを全部取るという強い決意も示した。ルネサスはTSMCのグローバルなエコシステム利用も狙っており、ノキアとの合弁で設立したルネサスモバイルのデザインインが6割を超す海外比率も手伝って、ルネサスのグローバル化がようやく実を結ぶことになる。

東芝は、NANDフラッシュでトップサムスンとの距離を再び詰め始めた。加えて市場が期待される白色LEDを低コストで作るためGaN on SiliconウェーハのBridgeluxと提携、200mmウェーハの白色LEDの量産を開始した。白色LEDの光量を増やすには多数並べるか、大面積にするかしかない。200mmのGaNウェーハは製造が難しいため、200mmのSiウェーハ上に形成するGaN LEDは注目に値する。

ファブレス企業で唯一、トップ20社ランキングに入っている国内ファブレスのメガチップスも攻めに転じた。川崎マイクロエレクトロニクスを買収、製品ポートフォリオを拡大すると共に、RTL出力、ネットリスト、レイアウト、といった一連のLSI設計工程のデザイン能力を強化することもできる。メガチップスは製品企画力、アルゴリズム開発力は優れているが、LSI設計のデザインスキルは川崎マイクロが一枚上だった。海外のファブレス企業はメガチップスのように企画力が優れているため、メガチップスの競争力が高まることになる。

シャープは、四元系の酸化物半導体IGZOでTFTトランジスタを形成する技術を、半導体エネルギー研究所と共同開発しているが、ようやく量産にこぎつけた。残念ながらiPhone 5には間に合わなかったが、今後クアルコムとも共同開発することが決まった。半導体エネ研がここにどのように係わってくるのか、まだ明らかではない。

海外ではファウンドリビジネスがTSMCの独壇場になることに懸念が強まっている。3月にはTSMCの28nmプロセスの立ち上がりが遅れたためクアルコムが売り上げを下方修正する、nVidiaが生産計画を見直すなど、独占の影響をまともに食らった。12月にはアナログ、ミクストシグナルのファウンドリであるタワージャズが日本で戦略を発表した。国内企業がファウンドリビジネスを持たないことへの不安を語る業界人は増えている。

世界の動きは急で、アップルのiPhoneにはこれまでサムスン製の部品が多かったが、iPhone 5ではDRAM、フラッシュ、液晶パネルといったコモディティ製品はサムスン製ではなくなった。アプリケーションプロセッサのように設計に3〜4年かかるチップだけはサムスン製だったが、iPhone 6かiPhone 7のプロセッサはサムスン製ではなくなるだろう。

また最近、TI(テキサスインスツルメンツ)はアプリケーションプロセッサOMAPから撤退することを発表した。プロセッサメーカーはスマホや携帯メーカーと一緒に沈むことが多かった。例えばモトローラに引きずられたフリースケール、ノキアと共に沈んだTIがまさにそうだった。TIはこの1年、OMAP戦略を見直した。

12月に入って発表された2012年の世界半導体ランキングでは、クアルコムが初めて第3位に入る見込みである。同社はWi-Fiチップのトップメーカーであるアセロスを買収、売り上げを押し上げた。成長戦略の中に「買収」が含まれていることも世界の流れである。

今年は後半からパソコンの売り上げが軟化しており、台数ベースで8〜9%落ちたため、金額ベースでは10〜20%落ち込むことは間違いない。来年にかけてパソコンビジネスが不安材料であるが、スマホやタブレットは依然として好調を維持するだろう。今のところ、死角はない。

以上、今年の半導体産業を総括した。来年1年の予測は、2月発行の紙媒体「エグゼクティブサマリーレポート」で行う予定である。

1年間、ニュース解説ご愛読ありがとうございました。

(2012/12/25)

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