セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト
セミコンポータル

ルネサスに対する革新機構、顧客8社の増資が決定、これで大丈夫か考察する

|

先週、12月10日の17:30からルネサスエレクトロニクスが急きょ記者会見を開く、という通知を同日の15:45ごろ受け取った。政府系ファンドである産業革新機構が1383.5億円、さらにトヨタ自動車や日産自動車などのユーザー企業8社も合計116.5億円を出資することが発表された。出資は第三者割当増資という形をとる。

図1 記者会見における能見公一産業革新機構社長(左)と赤尾泰ルネサス社長(右)

図1 記者会見における能見公一産業革新機構社長(左)と赤尾泰ルネサス社長(右)


これによって、ルネサスの株主構成は、産業革新機構69.16%、ユーザー企業8社5.82%、旧大株主3社(NEC、日立、三菱)22.8%、その他2.22%になる。資本構造は民間企業というよりも国営企業に近くなる。議決権の2/3超を政府系ファンドが持つからだ。一般投資家が株を売買できる割合は、総計資本2000億円のわずか2.22%だけ。これでも東証一部上場という形を保有している。もっともこの増資発表の以前も、親会社3社の合計株式は91.13%にも及び、一般投資家が買える株式はわずか8.87%だけだったが、これでも上場が認められていた。日本的な株式取引の形である。

将来、追加出資として合計500億円を上限とした出資または融資による資金の提供について用意があるという旨の申出を革新機構から受けている、とルネサスは述べている。これも合計した形で、新聞は最大2000億円を出資すると記述している。

ここでは、新聞ではあまり語られなかった点について、記者会見に出席したジャーナリストの一人として考えてみる。記者会見に登場したのは、ルネサスの赤尾泰代表取締役社長と革新機構の能見公一代表取締役社長の二人。会見では増資の話と、「将来の成長に向けた競争力強化策について」、と題するテーマについて赤尾社長が話した。合計スライド32枚に渡るプレゼン資料からタイトルとまとめを除くと合計29スライドになり、その内、増資の話はわずか7ページ、残りの22ページは成長戦略の話である。新聞はほとんど前の7ページ分しか報じていない。

成長戦略である競争力強化策については、マイコンを軸に、現在のキットソリューションからプラットフォームサプライヤになると述べた。プラットフォームとは、アナログやマイコン、パワーの製品にIPを加えたキットソリューションに、ソフトウエアを追加したものだ、という。

しかし、この形だけを見るとトータルソリューションかもしれないが、システムソリューションではない。システムソリューションとは、システムから見てどのようなチップを企画することが最大公約数的な顧客を満足させることができるか、という解を見つけ提案することである。その解はハードウエアかソフトウエアかというよりも、システムを実現し将来に渡って機能を拡張、あるいは性能や消費電力を追及するのに必要な技術を最初から織り込むために、ハードとソフトの両面から最適化することである。どの機能をソフトウエアあるいはハードウエアで実現するかについてシステム的な見地から議論しなくては、その解は見つからない。単にソフトウエアをアドオンするものではない。ルネサスの発表を見る限り残念ながら、まだシステム指向にはなっていない。部品屋の視点から抜け出せていないようだ。

社長交替について質問が出たが、能見社長が答えた。同氏は「企業再構築に関しては現経営陣をサポートしたい。投資後、戦略を実行するためのリーダーシップを重視している。新体制をどう組むのかについて、赤尾社長と話し合っていく」と述べている。

また、上場廃止にして再出発という形は選択肢になかったのかについて質問も出た。ルネサスにはそのような考えは最初からなかったようだ。また、能見社長は、「上場維持はルネサスにとってプラスになる。資金調達の可能性を開くことになるからだ」と述べているが、一般投資家による資金は、今回の1株=120円で、44億円程度にとどまる。

今回は第三者割当増資という形をとったが、株価の低下傾向が続いていたため公募増資は採用しなかったと赤尾社長は述べている。

この増資によってルネサスがホッとしたことは事実。これまでリストラ対策の早期退職プログラムによって1500億円(一人当たり平均2000万円程度)の費用を特別損失として計上しており、この分は銀行と親会社からの資金とキャッシュで賄った。しかし、それによってキャッシュ不足を招いたため、今回の増資で補ったことになる。

ただ、ルネサスの根本的な問題は、最近の業績不振を欧州の不景気と、それに伴う中国の経済減速のせいにしている点である。欧州・中国の減速はGDPの減速に現れてくるのであり、個々の企業の業績に直結するものではない。ボディブローのようにじわじわと効いてくるものだ。

企業の中にはリーマンショックからの立ち上がりのあとプラス成長を続けている所もある。成長率は鈍っていてもキャッシュが不足するほどの経済減速や赤字要因ではないはず。12月6日に開催されたARMフォーラムの基調講演においてオムロンは、2009年度(2010年3月期)はリーマンショックにより売り上げはわずかに低下したが、2010年度、2011年度はプラス成長を継続したと述べている。オムロンの基本的なスタンスは「さまざまな課題に対して、オムロンは何ができるかを常に考えている」(同社コントロール事業部開発センター所長の竹内勝氏)ことである。これが成長するための提案力の源となる。ルネサスにこの提案力が身に付けば強い半導体メーカーになる。

(2012/12/17)

月別アーカイブ

Copyright(C)2001-2024 Semiconductor Portal Inc., All Rights Reserved.