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最先端技術を持つファウンドリにビジネスチャンスあり

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この1ヵ月間、TSMCの28nmプロセスが大トラブルを起こしている、というニュースが引っ掛かっている。先週のクアルコムの決算発表では、このTSMCの生産ライントラブルに深く関係しており、他のファウンドリ企業は大きなビジネスチャンスを迎えた。一方、製造装置トップのASMLからの決算発表からも興味深い事実が判明した。国内メディアはこれを報道していない。

クアルコムの決算発表ニュースは、19日の日本経済新聞が報じたものだが、ここでは一般記事扱いしかしていない。すなわち、クアルコムは1〜3月期の売上が前年同期比27%増の49億4300万ドルと過去最高になり、利益が前年同期比2.2倍の22億3000万ドルにもなったとする。1株利益は1.01ドル(前年同期は0.86ドル)で市場予測を上回ったが、4〜6月期の1株利益の見通しは市場予想を下回ったため株価が終値より一時7%下がった、と報じられているが、大事なその理由について述べられていない。

クアルコムが発表した決算発表資料は、第2四半期見通しについて、以下のように述べている。「28nmプロセスの供給をスムースにさせるため、営業経費は増加する見通しです。28nmプロセス(に力を入れるの)はビジネスチャンスを拡大させて、チップセットメーカーのリーダーとしての地位を継続していくためです」。1株利益が予想を下回りそうだと述べたことは、この営業経費の増加にもかかわらず売上が伸びないという見通しがあるからだ。

この28nmプロセスこそ、最新鋭のモバイルプロセッサSnapdragon S4に使われる製造技術である。28nmプロセスで製造上何らかの問題を生じているならば、Snapdragon S4は最近発表されたスマートフォン(例えば、カメラにf2.0のレンズを使いドルビーサウンドまでも採り入れたHTCの日本市場に特化したスマートフォンHTC JやWindows Phone)やタブレットなどが品不足になる可能性がある。

複数の米メディアは、クアルコムの第2四半期の売上が伸びない見通しの理由に、ファウンドリの生産が間に合わないためSnapdragon S4の出荷が遅れる恐れを挙げている。「現在契約しているファウンドリメーカーだけだと、今年の年末までにSnapdragon S4の供給が間に合わなくなる。代替となるTSMC以外のファウンドリ数社に強く働きかけている」とクアルコムは述べている。

TSMCは、3月末まで28nmプロセスを使った製造をやめており、4月以降に再開する見通しを発表していた。28nmラインのトラブルに関して、同社の会長兼CEOのモーリス・チャン氏は、生産能力を上げるためであり、歩留まりが悪いからではないと、17日に述べている。TSMCは最悪期を脱したとしており、台湾の有力紙DigitimesもTSMCのプロセスは微細化が進むにつれて立ち上がる期間は短くなっている事実を指摘し、28nmでも同様だとしていた。

しかし、クアルコムが今年いっぱい供給を確保することは難しいと判断したのはその2~3日後である。クアルコムは、厳しい環境になると代替メーカーを探すことは常であるとしている。

日本のメーカーは28nmプロセスを捨てたため、ファウンドリメーカーの候補にも上らないことは極めて残念であり、惜しいビジネスチャンスを失ったといえる。今後もこのような事態はありうる。日本は得意だった先端プロセス技術を捨てて良いのだろうか。得意な技術をますます伸ばすことが世界の勝ちパターンになっており、自分の得意な技術を捨てて勝ち組になった所はない。自社が成長していくためには他社が追いつけない難しい技術を開発するしかないだろう。簡単な技術ほど参入バリヤは低く、アジア諸国がすぐに追いつけることを忘れてはならない。

もう1社、難しい技術を追求して世界トップに上り詰めた企業としてASMLの決算発表もあった。賢いTwinscan技術、その振動抑制技術だけではなく、生産性を上げるためのリソグラフィシミュレータメーカーのBrion買収など、さまざまな新技術に挑戦し実現したASMLは、さらにEUVに挑戦し続けている。


図 ASMLが発表した2012年第1四半期の装置の販売 出典:ASML

図 ASMLが発表した2012年第1四半期の装置の販売 出典:ASML
http://www.asml.com/doclib/investor/financial_results/2012/asml_20120418_presentation_Q1_2012.pdf


ASMLは、最初のEUV装置NXE:3100が6台出荷済みで、この四半期に1台販売売上に計上した(図)。つまり、1〜3月にEUVを導入した半導体メーカーがあるということだ。さらに、問題となっている光源の出力については、ある光源メーカーの実験で高いデュティレシオでの出力が30Wに上がったとしている。2012年下期にはウェーハのスループットを1時間当たり60枚という目標を達成することを目指している。

ASMLは次世代機NXE:3300Bの初出荷を2012年第4四半期と予定しており、すでに11台を受注している。これが納入され、EUV装置がIC製品に使われるのは2013年になろうとASMLは見ている。EUVを否定的に見ている向きが日本国内には多いが、難しいバリヤをASMLが克服したとなると、日本のリソグラフィメーカーはASMLレベルには全く手が届かなくなってしまうことになる。

(2012/04/23)

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