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国際標準を達成するために必要なことは、海外勢を最初から巻き込むこと

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2月17日(金)の日本経済新聞の「経済教室」コラムには、産業技術総合研究所理事長で元三菱電機社長・会長を歴任した野間口有氏が寄稿していた。ここでは国際標準の重要性について述べており、奇しくも先週は電気自動車の急速充電器の規格と、HEMS(ホームエネルギー管理システム)の規格に関する記事が相次いで掲載された。

かつての標準化は部品や材料の相互活用や通信の相互接続を可能にするために技術が成熟してから制定していたと野間口氏は指摘し、今は成熟を待たずに制定するのが一般的になって来たと述べている。標準化案を作るため、問題意識を共有できる(国内外の)機関との間でフォーラム標準を設立し、最終的にはIECやISOなどに提案していくと述べ、標準化活動に携わる人材育成、輩出も大切だとする。

これらは非常に重要な点であり、国際標準にするのであれば、標準化案を作る段階から海外企業や関係団体を巻き込んでいくことが重要になる。というのは各国、各委員の1票で決める場合には、国が多ければ多いほどコンセンサスをとる必要があるからだ。日本国内で企業や研究機関の間で決めた案を外国で提案してもそのまますんなりとは通らない。最初から外国企業をメンバーに入れておくことが重要で、例えば欧州のように国が多い地域でコンセンサスを得たテーマは国際標準になりやすい。しかし日本1国で決めた案が標準化に採用される例はほとんどない。誰も興味を持たないようなテーマや海外企業が作れないような製品だと日本案は通るが、ビジネス的なインパクトはもはやない。

標準化の目的は、低コストで製品を生産するためである。共通部分を標準化して決めてしまい、自社は得意な技術に特化し、標準化技術と組み合わせることでどこにも負けない製品を安く作ることができる。標準化しておくと、さまざまなプレーヤーが参加でき、新しいビジネスチャンスが生まれる。

標準化と並んでもう一つ重要な作業は、インターオペラビリティ(相互運用性;interoperability)である。標準化して製品を作った後に、A社の製品がB社の製品と本当につながるか、という試験だ。実際にチップを製品に組み込み、動作を確認する必要がある。場合によっては、プロトコルにバグがあるかもしれない、ノイズが入りやすく簡単に作れないかもしれない、など現実的な問題が存在する。インターオペラビリティまで解決することで初めて製品は普及段階へ移る。インターオペラビリティもグローバルな話合いが不可欠で、それを確立しながらビジネスチャンスを狙う企業が強い。

翌18日には、EVの急速充電器規格「チャデモ(CHAdeMO)」を日本が主体になって規格化したが、欧州・米国も独自規格を制定しており、日本勢に対抗し始めた、と日経が伝えた。国内だけで決めた規格は国際標準とはなりにくいことをこの事件は示している。1月に米国のデトロイト市で開かれたモーターショーにおいて、日産自動車の志賀俊之COOは、なぜ日本のメーカーが欧米の会議に出席しないのかと聞かれ驚いたという。標準化の呼びかけは日産自動車という会社には届いているはずだが、担当者が上司に伝えなかったか、上司が握りつぶしたか、とにかく社長にそれが届いていないのである。一方で、志賀氏は海外にもチャデモ規格を標準にするように呼びかけてきたとしている。この提案を誰がどこに発信したかによって伝わり方は大きく異なる。いずれにせよ、日本と欧米の規格の話し合いが出来ていなかったことは確かだ。呼びかけただけでは標準化作業は進まない。会議の場に同席させるまで見届けないと意味がないことをこのニュースは伝えている。

家庭内の電力使用量を管理するHEMSの規格化においてもその危険性は大いにある。日本企業だけが集まり、家電製品とコントローラHEMSとの間の通信規格「エコーネットライト」を決めた。HEMSの規格は東芝や日立製作所、シャープ、パナソニックなどが制定したという。これでは海外のメーカーはこの規格を受けないだろう。というのは、HEMS機器はエレクトロニクスメーカーなら誰でも作れるレベルだからだ。また日本の家電メーカーの世界的な地位は昔と比べると大きく下がっている。日本だけで決めてもひっくり返される恐れは大いにある。なぜ、海外勢、特にサムスンとLG、さらには家電の新興勢力などを参加させなかったのか。

日本は標準化の重要性を認識するようにはなった。しかし、標準化を達成するための手続きや話し合いの場の設定など、「根回し」が全くできていない。この状況では国際標準になりえない。根回しやロビー活動は標準化決定には欠かせない。これからは標準化するために海外メーカーとの付き合いを深める必要がある。

(2012/02/20)

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