セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト
セミコンポータル

文化勲章受章者と文化功労者に半導体研究者2名が選ばれる快挙

|

10月25日に2011年度文化勲章受章者と文化功労者が政府から発表され、半導体分野から2名の研究者が選ばれたことは快挙である。青色LEDを最初に開発した名城大学教授の赤崎勇氏(当時は名古屋大学)が文化勲章受章者に、東京大学名誉教授の菅野卓雄氏が文化功労者にそれぞれ選ばれた。

25日付けの日本経済新聞夕刊に赤崎教授のコメントが掲載されているが、「愚直にやってきただけ」と謙遜している。同氏は1980年代前半からGaN材料に注目し、特に応用物理学会の大会に必ずといってよいほど毎回発表していた。なかなかpn接合ができなくて苦労している様子を私はいつもウォッチしていた。

赤崎教授が名古屋大学でGaNの青色ダイオード開発を目指していた頃、地元の豊田合成は赤崎教授の門を叩き青色LEDの商品化に着手した。マスメディアは赤崎教授の仕事よりも日亜化学工業の中村修二氏の青色LEDの研究を採り上げることが多く、市場に青色LEDを出したのは日亜の方が先だった。しかし、豊田合成もほとんど遅れることなく商品化できたのは、赤崎教授と一緒に取り組んできたからだ。

今年になって赤崎教授は、米国の電子技術者学会のIEEEから2011年エジソン・メダル賞を受賞している(参考資料1)。1985年にサファイヤ基板上にバッファ層を積みGaN結晶を成長させ、1989年に低い電子エネルギー照射によるp型領域の作製によってpn接合を実現、すぐ後に青色LEDの発光を観測した。

文化功労者に選ばれた菅野卓雄名誉教授は、シリコン半導体ICの世界では知らない人はいないといってよいほど、シリコンMOS集積回路の基礎を作った高名な学者である。特に、1970年前後、経済産業省工業技術院電子技術総合研究所(現在の産業技術総合研究所)の垂井康夫氏と一緒に表した「MOS電界効果トランジスタ」という書籍は、MOSLSI開発研究者のバイブルにもなった。菅野教授は、MOSFETを実用化する上で重要な、シリコンと酸化膜(SiO2)との界面のクリーンさ、スムースさに関する研究に注力していた。この界面における電子走行の邪魔をする表面順位やNaイオン不純物、固定電荷などの解明を行い、MOSLSIの実用化に大きく貢献した。

この界面状況は現在のSiC MOSFETについても同様に考えられるため、SiCの実用化のカギを握る。現状ではSiCの電子移動度はシリコンのそれよりもずっと小さく、ロスがまだ大きいためSiCのMOSFETを無理やり発熱させながら動作させている。SiCは動作可能温度がSiよりも高いため、高温で動作させているが、SiCの本来の性能はまだ引き出せていない。

一方で、先週はとても残念で腹立たしいニュースもあった。経済産業省幹部によるインサイダー取引疑惑で東京地検が事情聴取に入った、と10月29日の日経朝刊と夕刊で報じられた。日経によると、2009年2〜3月にエルピーダの株式5000株を妻の名義で購入、4月には売却し利益を得、その後さらにルネサスエレクトロニクスの合併に向けNECエレクトロニクスの株を2000株購入、合併後に売却したというもの。これが事実なら完全なインサイダー取引に当たる。

エルピーダはリーマンショックとその前のVista不況によって業績が悪化し倒産寸前に追い込まれ株価も下がっていた。資本注入によってよみがえった後では株価は上がることが予想されるため、最初からそれを見込んだ株式購入は不正であり、犯罪になる。NECエレクトロニクスとルネサステクノロジとの合併の場合も同様だ。合併により経営が安定すると期待されるため、合併後に株価が上がることは自然であり、この情報を立場上事前に知り株式を購入したのなら、インサイダー取引になる。

日経によると、妻が取引したのだからインサイダーではないと言っているというが、もってのほかである。本人が妻名義で購入し売り抜けたとすれば本人が自由に不正な金を操作していることになる。たとえ妻名義だとしてもこの公務員のモラルの低さにあきれてしまう。そもそも公務員が株取引を行うこと自体、インサイダーの疑いをかけられても仕方がない。私のようなジャーナリストも同じである。妻はもちろん家族にも決して株取引をしないように注意している。公務員やジャーナリスト、その他内部情報を手に入れられる立場にあるものが株取引を行いたいのであれば、せめて売り抜けしないように、いつまでも株式をじっと持っていることを証明させ、売る場合には問題がないかどうかをチェックするような体制を作るべきである。これができないのであれば、公務員や内部情報を知り得る者の株取引を全面禁止すべきだろう。公平な市場でまともに取引している株主を裏切ることになるからだ。

参考資料
1. IEEE Edison Medal Recipients

(2011/10/31)

月別アーカイブ

Copyright(C)2001-2024 Semiconductor Portal Inc., All Rights Reserved.