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インテルが60億ドルを超える投資を計画、22nm以下のプロセスをにらむ

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先週最大のニュースは米インテルが22nm以下のプロセスに向けて60億〜80億ドルの投資をすると発表したことだろう。オレゴン州の現在の工場敷地内に新たに工場を建設することに加え、米国内にある既存の工場にも投資する金額を含んでいる。もう一つの大きな動きは電気自動車用のバッテリを巡る動きだろう。

インテルがオレゴン工場に新設する予定のD1X工場のイメージ

図1 インテルがオレゴン工場に新設する予定のD1X工場のイメージ


10月20日の日本経済新聞、21日の日経産業新聞、と連続して報じたこのニュースは、メモリー以外のメーカーが投資するおそらく最後の大規模投資計画となるだろう。2~3年後にはインテルはサムスンに世界トップの地位を譲らなければならない。その時点でもインテル製品の平均単価が数十ドルを維持していれば大規模投資は可能であろうが、インテルがコンピュータ系プロセッサの開発1本でやってきたこれまでのビジネスモデルを変えて組み込み系へ移るのであれば、この平均単価を維持することはおそらく難しくなる。

しかしながら、インテルのポール・オッテリーニCEOは、「大規模投資が及ぼす最も重要なインパクトは雇用の創出である」と同社のプレスリリースで述べており、オッテリーニ氏の視点は7月14日のブログで紹介したアンドリュー・グローブ元インテルCEOの視点に共通する。すなわち、雇用の重視だ。インテルは60億〜80億ドルの投資によって工場建設関係の雇用を6000〜8000名生み、建設後のハイテク雇用を800〜1000名を生むとしている。

インテルの大規模投資は2013年までにD1X工場において研究開発を始めることに加え、アリゾナ州のFab12とFab32およびオレゴン州のD1C、D1Dの既存の工場にも適用する。


インテルの世界中の製造工場

図2 インテルの世界中の製造工場


インテルの海外売り上げは3/4程度と大きいが、マイクロプロセッサの製造の3/4は米国内で行われている。今回の投資もまた製造を米国内におき、雇用を維持することを約束していることになる。前回の投資発表は2009年2月に行われ、その製造プロセスのアップグレードによって、現在最新の32nmプロセスによるコンピュータチップを生産している。今回の既存プロセスのアップグレードによる投資で、22nmマイクロプロセッサ(コード名アイビーブリッジ)は2011年の終わりに生産されることになろうとしている。

もう一つの動きは、10月19日の日経新聞に掲載されたニュース解説的な記事で、自動車用リチウムイオン電池の規格に対する日本の役所、自動車メーカーの慌てぶりをレポートした記事である。ドイツが車載用電池の形状を標準するためアンケートを配布、国際規格をまとめようとしていることに対して、携帯電話通信機の二の舞になりたくないと慎重な日本側の姿勢をまとめている。新聞ではノウハウの流出という視点を入れているが、これは全くのお門違い。多くのマスコミや一部の企業はオープンイノベーションや国際規格と、ノウハウやブラックボックス化を混乱していることが多い。この記事もその例の一つといえる。

国際的に規格を統一しなければならないことは、どのような部品やシステムでも、入出力部分だけである。肝心の中身はブラックスボックスにすることは言うまでもない。電池にしても外側に出す電極部分のサイズ、間隔、形状、電池の大きさと形状などを統一すればユーザーはどの電池でもつなげるようにできる。誰もが使っている単一、単二、単三などの乾電池は大きさや電極部分が共通化しているため、世界中で使うことができる。自動車用の電池もこのようにしようというのが国際標準規格である。

かつて液晶ディスプレイの時も「大きさで差別化する」、とシャープは言ってはばからなかった。サイズを各社で統一する気は全くなかった。わずかなサイズで差別化すると言っていた。液晶テレビは今、32インチ、42インチ、50インチというようなサイズはあるが、31インチや33インチ、34.5インチなどというサイズはない。わずかなサイズの差には価値はないのである。だから消費者は、32インチより大きいタイプが欲しいとなると42インチ、50インチなどを欲しがり、33インチや34.5インチへとは行かない。

自動車用電池といえども、同じことである。外形寸法や外部電極形状などは差別化要因ではないから、オープンにし、中身の電極材料やセパレータ、電解液などは決してオープンにしてはならない。ノウハウの固まりだからだ。ここでエネルギー密度や適切な充電速度、充電容量などが決まり、差別化を図ることができる。外形の規格を統一すれば、A社の電池は長持ちしたが、B社の電池はすぐなくなる、という事実が明らかになり、A社は有利になる。つまり海外にもたくさん出荷できるようになる。

ここに価値がある。この視点を失わない限り、国際規格を統一することは海外進出するために得になる。携帯電話が失敗したのはあくまでも国内独自規格にこだわったからである。海外のGSMに合わせておけば、携帯電話機メーカー、半導体チップメーカーとも海外進出は容易にできたはずだ。国際規格を日本が主導権をとってまとめていけないのであれば、海外規格に合わせる方が産業界にとってビジネス的には有利に働く。

(2010/10/25)

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